第11話 コメント返しをしてみた(1)
鍵を渡され、案内された部屋は二階にある部屋だった。一号室から五号室は一階にあり、そこを通り抜けて上がった階段の先にあるのが俺の部屋だ。
シングルベッドが一台置かれている他はデスクと小さなクローゼットがあるだけのシンプルな部屋だ。
トイレはそこのおまるにするか共用トイレを使う。シャワーなんてものはついておらず、水が欲しい場合はロラン君に言うと共同井戸から汲んできてくれるそうだ。
それと女性には桶一杯分のお湯がサービスでついてくるらしい。そのお湯にタオルを浸して体を拭くのがこの村の一般的なお風呂らしい。
ずいぶんと不衛生な気もするが、こんなものなのだろうか?
それとどうでもいい話だが、この部屋の隣はロラン君の部屋なのだそうだ。
クロエさんの手伝いをすると言っていたので今はいないのだが、客室とオーナー一家の部屋が隣同士というのも日本のホテルではあり得ない話だ。
夕食まではまだ少し時間があるそうだが、どうしようか?
ああ、そうだ。せっかくだからコメント返しというのをやってみよう。
そう考え、俺は視聴者から寄せられたコメントを一つ一つ確認していくのだった。
◆◇◆
「異世界からこんにちは! リリス・サキュアです♪」
画面には、簡素なベッドに腰かけて微笑むリリスの顔が映っている。
「今日もみんなに会えて、とっても嬉しいです。今日はですね。ついに異世界人第一号の男の子に会って、ミニョレ村という小さな村にやってきました。見てください。ほら」
するとカメラがくるりと反対側を向くと、そのまま窓に近づいていく。窓から外を映すと、そこには平屋の木造建築がずらりと並ぶ夕暮れの村の景色が広がっていた。
「村の紹介はまた今度、動画にします。それでですね。今日はコメント返しをやっていこうと思います♪ いえーい♪」
そう言ってリリスは楽しそうに手をパチパチと叩いた。
「今日はですね。一番最初の、はじめましての動画のコメントを読んでいきたいと思います。それじゃあ、さっそく! 最初のコメントは、えーと、『リリスちゃん、可愛いです』。わぁ! ありがとうございます。いいね、押しますね。いいねっ♪」
リリスはそう言って右手でサムズアップをすると、パチッとウィンクをした。それから少し恥ずかしそうに微笑むと、右腕を前に伸ばす。
彼女の細く白い腕が画面に向かって動かされ、手首から先が画面外に出ると、すぐに引っ込んだ。
それはカメラに映っていない場所にあるタッチパネルを操作し、いいねボタンを押したように見える。
「それじゃあ、次のコメントです。『スタイル良い』? えへっ、ありがとうございます。いいねっ♪」
リリスは笑顔を浮かべ、いいねボタンを押す。
「次のコメントは、えーと、『モザイククソワロタwww』って、やだぁ」
リリスはそれを見て恥ずかしそうに左手で口と鼻を隠した。その顔は羞恥からか、やや赤くなっている。
「だって、仕方ないじゃないですか。こんななんですよ?」
リリスはそう言って右の人差し指をピンと立てた。
「動画、絶対削除されちゃいますよぉ」
少し顔を赤くしたリリスはそう言いながらもいいねボタンを押す。
「じゃあ、次です。次は、え? お前のような0歳児がいるわけない? えへっ」
リリスはそう言ってはにかんだ。
「でも、生まれたのはあの日で、あの木からなんですよねぇ。じゃあ、私って何歳に見えますか? よかったらコメントで教えてくださいね♪」
リリスはいいねボタンを押した。
「それじゃあ今日はこのへんで終わろうと思います。いいねボタン、チャンネル登録をしてもらえると嬉しいです。それじゃあ、また会いにきてくださいね。バイバーイ」
そう言ってリリスは笑顔を浮かべ、右手を振って視聴者に別れを告げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます