第10話 ミニョレ村

 体と服を洗ったロラン君に案内され、俺は彼が住んでいるというミニョレ村へとやってきた。


 村は木の柵と水堀で囲まれており、奥のほうにはこんもりと高台の上に見張り塔のようなものまで見える。


 ゴブリンの出る森の近くということもあってか、簡易的ではあるがまるで砦のようになっている。


「リリスさん、着きました。ここが僕の暮らしているミニョレ村です」

「ありがとう、ロラン君。私、身分証とか持ってないけど入れるのかな?」

「僕と一緒だから大丈夫ですよ。あ! ジャンさーん!」


 ロラン君が手を振って、町の入口に立っている男性に大きな声で呼び掛けた。するとジャンさんという名前らしいその男性がこちらを向くと、なぜか猛スピードで駆け寄ってくる。


「はぁはぁはぁ、おい! ロラン! なんでエルフの姉ちゃんと一緒にいるんだ!」


 息を切らしながらロラン君にそうまくしたてるように質問するジャンさんは五十歳くらいだろうか?


 腰に剣を下げているので、きっとこの村の兵士なのだろう。だがその左手は肘から先が失われている。


「薪を拾いに行ったらゴブリンに襲われて、そこをリリスさんに助けてもらったんです」

「何ぃ!? エルフが人間を助けたのか!? っていうか! ゴブリンだと!?」


 彼は驚いた様子で俺のほうを見てくる。


 どうしよう。エルフではなくエロフなわけだが、正体を明かして大丈夫だろうか?


 淫魔の一種と知られたら討伐されそうな気もする……。


 やはり分かるまでは肯定も否定もしないでおいたほうが無難だろう。


「人間の町に興味があるみたいなんで、案内しました。お礼も兼ねてうちの宿に泊まってもらおうと思います」

「……そ、そうか。じゃあ早く連れてってやれよ。それからご領主様には俺が言っとくから、明日ちゃんと報告するんだぞ。特にゴブリンの件は、わかってるな?」

「はい。もちろんです」


 ロラン君が真剣な表情でそう答えると、ジャンさんは大きくうなずく。


 俺はとりあえずボロを出さないよう、にっこり微笑んで彼の前を通り過ぎようとした。するとジャンさんは顔を赤くし、そっぽを向いてしまった。


 んんん? なんだ? この反応は?


 って、そうか。そうだったな。


「リリスさん、行きましょう」

「ええ、そうね」


 俺たちはこうしてミニョレ村の中へと入る。堀に架けられた橋を渡り、門をくぐるとそこには粗末な木の家々が建ち並んでいた。


 そのまま村の中を塔のほうへと歩いていくのだが、村人たちがやたらと俺のことをジロジロと見てくる。


 ジャンさんの反応からも分かるが、やはりエルフもエロフも珍しいのだろう。


 そうして視線を感じながら歩いていて思ったのだが、どうもこの村には男性が少ないように思う。


 男性もいるのだが、大抵は老人か子供だ。もう日が傾いてきているので、男たちが全員村の外で力仕事をしているということもないだろう。


 それに、どことなく村の雰囲気がどんよりしているような気もする。


 俺がキョロキョロと周りを見ているのに気付いたのか、ロラン君がガイドをしてくれる。


「ここは村のメインストリートなんです。毎月市が立って、日用品や服なんかを売買するんです。それと行商人が来たときは外の品物を買うことだってできるんです」

「へぇ……」


 ということは、ほぼ自給自足の生活を送っているということなのだろう。


 すると建ち並ぶ家々の中でも比較的大きな建物の前でロラン君が立ち止まった。そこにはナイフとフォークの看板が掲げられている。


「ここです! リリスさん、ここが僕の家です」

「うん、ありがとう。ここって食堂なの?」

「はい。食堂で、宿屋もやっています。食堂も宿屋もミニョレ村だとここだけです」

「そうなんだ」

「はい。どうぞ入ってください」


 こうして俺はロラン君に案内され、建物の中に入った。


 まだ営業時間でないのか、中にお客さんは誰もいない。


「おかえり……え?」

「母さん、ただいま。この人は森でゴブリンに襲われたところを助けてくれたエルフのリリスさん。リリスさん、この人は僕のお母さんで、クロエっていいます」

「こんにちは。リリス・サキュアといいます。よろしくお願いします」

「え? え? あ、あ、ああ。ロランの母、クロエでございます。息子がお世話になったようで、ありがとうございます」

「ねえ、母さん。リリスさんは人間の町に興味があるらしいんだ。助けてもらったしお礼に……」

「も、もちろんよ! 泊まっていっていただきなさい。ええと、なんとお呼びすれば?」

「リリスでいいですよ」

「では、リリス様」

「え? 様だなんて、そんなにかしこまらなくて、普通に話してください」

「そ、そう? そうかしら? じゃあ、リリスちゃん」

「はい」

「どうぞお代は結構だよ。何日でもゆっくりしていってちょうだい」

「ありがとうございます。お世話になります」

「ロラン、六号室に案内しな」

「うん」


 こうして俺はロラン君のお母さんが経営する宿に泊めてもらえることとなったのだった。

 

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あっさり人里に潜り込み、寝床もゲットしました。

次回は初動画に対するコメント返しの動画を撮影します。

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