第12話 異世界の料理を食べてみた

 ロラン君に呼ばれ、一階にある食堂までやってきた。どうやら客はいないようだ。


「リリスさん、さあどうぞ座ってください」


 勧められた席に座ると、すぐに料理が運ばれてくる。


「干し肉と豆、ジャガイモとニンジンのポトフです。あと黒パンとエールです」

「あれ? ロラン君、私お金持ってないよ? こんなにもらっていいの?」


 お酒までもらうのは悪い気がする。


「え? でも母さんが……」

「お金なんて取れるわけないじゃないですか。息子の命を救ってくれたんですから」


 クロエさんが奥から出てきてきた。


 たしかに息子の命を救ってくれた恩人からお金を取りづらいというのもあるのだろうが、今日はご馳走になったほうがいいかもしれない。


 だが、なんとなく明日以降もずっと言われそうな気がする。


 と、ここでふと思いついた。


「あの、クロエさん」

「なんですか?」

「ちょっと見てみてください」


 俺はそう言うと、メニューを開いた。だがクロエさんはなんのことだか分からない様子だ。


 どうやらメニューは見られないようだ。


 ここで俺は自動保存されている動画のプレビュー再生をしてみた。


「ひゃっ!? な、なんですか? これ?」

「あ、やっぱり。これは見えるんですね」

「リリスさん、これってもしかして……六号室ですか?」

「うん、そう。私、こうやって動画を撮ってるんだ。あ、そうだ! クロエさん、せっかくなのでこの食事の紹介動画、撮影していいですか?」

「はあ。まあ、いいんじゃないかい?」


 あまりピンと来ている様子はないが、許可は取ったしまあいいだろう。あとでやっぱりダメとなったらお蔵入りさせればいいだけだ。


「それじゃあ、撮影を始めますね」


 俺はプレビュー再生を止めると、撮影モードに頭を切り替えるのだった。


◆◇◆


「異世界からこんにちは。リリス・サキュアです♪」


 画面には薄暗い照明の室内で、テーブルの前に座るリリスの姿が映し出されている。


「夕食の時間になったので、宿の食堂にやってきましたー♪」


 リリスはそう言うと、少し高めのテンションでパチパチと拍手をする。


「ここは私の泊まっている宿の一階なんですけど、宿は食堂もやっていて、今日の夕食はここでご馳走になろうと思います。じゃんっ♪」


 リリスが口で効果音を真似すると、カメラのアングルが変わった。


「メニューは干し肉と豆とジャガイモとニンジンのポトフでーす。それから黒パンと、エールもあります。こんな感じのメニューがこの村では普通なんだそうですよ」


 画面には木の器に大きなジャガイモがゴロゴロはいったポトフ、三切れの黒パンが盛り付けられた皿、そして木のコップに入ったわずかに泡立った液体が映し出される。


「それじゃあさっそく、いただきまーす♪」


 高めのテンションで木のスプーンを持ったリリスはまずスープを一口すすった。


「わっ! 美味しい! すごくおいしいです。塩味が効いていて、それでお肉のうま味とニンジンの甘みがしっかり出ていて、何かのハーブですかね? スッとした香りもします」


 リリスの目じりが下がり、幸せそうに顔をくにゃりと崩す。


 続いてスープをもう一度口に運んだ。


「ん! お肉は、歯ごたえがしっかりしていてみ応えがある感じです。でも、噛めば噛むほど味が染み出てきます」


 リリスはそう言ってもぐもぐと口の中の干し肉を噛んでいる。


 やがて飲み込んだリリスはジャガイモを口に運んだ。


「あっ! んんっ! あっつい! ん! んぐっ」


 リリスはハフハフしながら頬をほんのりとピンク色にし、熱いジャガイモをなんとか飲み込んだ。


「ホロホロです。スープがしっかり染み込んでいて、ジャガイモの香りもすごく豊かで、とっても美味しいです!」


 リリスはやや興奮した様子でそう語りかけてくる。


「そろそろ、黒パンも食べてみますね」


 リリスはそう言って黒パンを食べやすい大きさに千切ると、そのまま口に含んだ。


「んん! もちもちしています。日本で食べる食パンと違ってふわふわじゃないですけど、もちっとしていて、それから独特の香りがあります。私はこの香り、好きですよ」


 リリスは黒パンをもう一度千切ると、スープにディップしてから口に運んだ。


「んんんっ! これ、すごく美味しくなりました! 黒パンの香りとスープの味が合わさって、塩味が効いてて、美味しい!」


 そう言うとリリスは次と黒パンをスープにディップして口に運んでいく。


「あ! まだエールを飲んでいませんでしたね」


 リリスはそう言って木のコップに口をつけた。


「ん?」


 リリスは不思議そうな表情になると、コップに鼻を近づけた。


「エールってビールのことだと思ってましたけど、アルコールがあんまり入っていませんね。それに炭酸も薄くて、ちょっと酸っぱくて不思議な味です。冷やしたらより美味しくなるかもしれませんね」


 リリスは急に真顔になってそう言った。


 すると画面の下に『水が安全な飲み物ではないため、余った雑穀で作ったエールを飲むことで食中毒を防いでいるそうです』というテロップが表示される。


 それからもリリスは美味しそうにポトフと黒パンを食べ、最後にエールを飲み干した。


「ごちそうさま。とっても美味しかったです♪」


 リリスはにっこりと微笑んだ。


「異世界でのはじめての食事、どうでしたか? 上手く伝わっていますか? よかったら感想を教えてください。それといいねボタン、チャンネル登録をしてもらえると嬉しいです。それじゃあ、また会いにきてくださいね。バイバーイ」


 そう言ってリリスは笑顔を浮かべ、右手を振って視聴者に別れを告げるのだった。


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 次回は日本でのお話となります。

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