第20話 冒険者がやってきた

 それから一週間ほどが経ち、冒険者がやってきたので説明してほしいと言われて俺たちはお城へとやってきた。


 今回は執務室ではなく少し広めの部屋に通されたのだが、その部屋にはジスランさん以外に全部で九人の男女が集まっていた。


 そのうち二人が女性で、一人は鎧を着ている。いかにも女剣士といった風貌で、セミロングの赤髪と気の強そうな目が特徴的だ。背は多分俺と同じくらいだが、顔つきなどが完全に大人なので恐らく二十歳はこえているだろう。


 もう一人はかなり小柄で、青いヴェールのようなものを被っている。ヴェールの下からは濃い青の髪が覗いており、紫色の神秘的な瞳と小動物のような可愛らしくあどけない顔が特徴的だ。その下には清楚な感じの白い服を着ており、大きく盛り上がった胸元には複雑な紋章を模った首飾りが輝いている。


 顔の感じからすると、彼女はおそらく十代なのではないだろうか?


 残る七人の男性は総じて柄が悪そうだ。


 中でもひと際体の大きなスキンヘッドの男はニヤニヤしながら俺のことを舐めるような目で見てきている。


「リリスちゃん、ロラン、よく来てくれたのう。こちらが今回、ゴブリン討伐を引き受けてくださる冒険者の方々じゃ」


 ジスランさんが入ってきた俺たちを出迎えてくれる。


「ミレーヌ殿、この少年はロラン。村の者ですじゃ。ロランが襲われているところを助けてくださったのがこちらのリリス殿ですじゃ」

「そうか。私はミレーヌ、今回の討伐隊のリーダーをしている」


 赤髪の女剣士が俺たちに近づいてきて、そう挨拶をした。


「ロランです。よろしくお願いします!」

「リリス・サキュアです」


 俺はミレーヌさんと握手を交わす。


「前線に出るメンバーはそこの大男がトマだ。見てのとおり見た目は怖いかもしれんが、戦場では頼りになる男だ。それから――」


 ミレーヌさんはまず、スキンヘッドのとても大柄な男性冒険者を紹介してくれた。


 どうやらこのパーティーの前衛はミレーヌさん、トマさん、ジュゼッペさん、ローランさん、マルセルさん、オーバンさんの六名らしい。


 そして斥候役がヤニックさんで、後衛の弓使いがケヴィンさんらしい。


「それとそこの彼女はレティシア・セル・アスタルテ。この国の聖女の一人、紫水晶アメジストの聖女だ。ゴブリンで傷ついた者の治療のほか、ゴブリン退治後に豊穣の祈りを捧げる予定だ」

「レティシア・セル・アスタルテと申しますわ」


 レティシアさんとも握手を交わす。


 聖女ということはきっとどこかの宗教の偉い人なのだろう。


 淫魔とバレたら討伐されるかもしれないし、レティシアさんは要注意だな。


「それじゃあ、リリスちゃん。さっそくあれを見せてくれんかのう?」


 ジスランさんに言われ、俺はゴブリンの動画を見せた。すると驚きの声が上がる。


「あの、これは女神様にいただいた力ですので……」

「ああ、やはりそうでしたのね」


 レティシアさんが納得した様子でそうつぶやいたが、やはりとはどういうことだろうか?


「皆さん、エルフだからとおかしな目で見るのはおやめになって?」


 レティシアの呼び掛けに俺はふと周囲を見回した。するとトマさんをはじめとする数人がなぜかムッとしたような表情をしている。


「あの、どういうことですか?」


 すると、レティシアさんはそっと俺に耳打ちをしてきた。


「リリスさんはご存じないかもしれませんが、人間の世界で見かけるエルフはほぼ全て奴隷ですわ。特にリリスさんは男性にとって大変魅力的でらっしゃいますから……」

「あ……はい……」


 なるほど。そういう事情もあるのか。


 なんとも言えない気分のまま動画を見せると、ミレーヌさんが口を開く。


「ゴブリンが出たということは分かったが、このままではなんとも言えない。まずは現場を見せてもらいたい。村長、頼めるか?」

「ではロラン、案内を」

「ああ、頼む。それとリリス、お前も一緒に来てほしい。どうやってロランを助けたのかを知りたい」

「あ、はい……」


 言われるとは思っていたが、なんと言い訳しようか?


◆◇◆


 ロラン君がゴブリンに襲われた場所へとやってきた俺たちを待っていたのは、なんと干からびたゴブリンの死体だった。


 死体の一部が損壊しているので、おそらく肉食獣か何かが食べようとしたのだろう。


「なんだ? この死体は? なぜ腐敗していない? 獣にも食われていないんて……」


 ミレーヌさんはそう言って眉をひそめた。


「ゴブリンの死体も腐るんですか?」

「ああ。おぞましい生物だが、あれでも一応は生物だ。魔物とは違う」

「はぁ」

「まるでゴブリンの生命力そのものがすべて無くなったかのようですわ……」


 う、それには心当たりがあるな。


「リリス、どうやって殺したんだ?」

「え? その、魔法で命を……」

「……」


 ミレーヌさんは俺の顔をじっと見つめてきた。


「なるほど、嘘をついている目ではないな。エルフの魔法にはこのようなものがあるとはな。クラナンの連中が――」

「ミレーヌ!」


 何かを言いかけたミレーヌさんをレティシアさんがさえぎった。


 クラナンの連中?


「ああ、そうだったな。すまない。それでリリスのその魔法はどの程度使える?」


 何を謝られているのかはよく分からないのでとりあえず話を進める。


「近くじゃないと効果はないと思います」

「そうか。リリスは動けるか?」

「え? そうですね。運動はあまり得意じゃありません」

「ならば前線に出すわけにはいかないな。よく分かった。リリス、万が一のときは力を貸してほしい」

「もちろんです」

「ヤニック、あとは頼んだぞ」

「へい!」


 ヤニックさんはそう言うと、手慣れた様子で森の中へと入っていった。


「私たちは村に戻ろう。防備の点検もしたいからな」


 こうして俺たちは現場検証のようなものを終え、ミニョレ村へと戻るのだった。


================

精気を吸い取られると干からびるようです。怖いですね。


次回、リリスちゃんがついにコスプレの決心を……?


お楽しみに!

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