第105話 トップ会談
「なあ、イストール公に直接話すしかねぇんじゃねーか?」
それからもとんでもない動画が次から次へと出てきたのを受け、レティシアがそう提案してきた。
「うん。そうだね」
「うっし。じゃあ、今から行くか」
「えっ? 今から?」
この国のトップであるイストール公にアポなしで会えるとはとても思えないのだが……。
「ああ。大丈夫だって。あたしとリリスが一緒に行けばすぐに会えるはずだぜ」
レティシアは自信満々な様子でそう言った。どうやら本当に問題ないと思っているらしい。
「じゃ、じゃあ……」
こうして俺たちはアポを取っていないにもかかわらず、イストール公のお城へと向かうのだった。
◆◇◆
大聖堂の裏から馬車に乗って抜け出し、お城の通用門にやってきた。こちらに来るのは初めてだが、俺たちの乗っている馬車はとても質素なので、通用門を通れば仮に誰かに見られたとしても荷物を搬入しに来た一般の馬車に見えることだろう。
ただ、アポなしなのに本当に通してもらえるのだろうか?
そんな心配をしていたのだが……。
「どうぞお通りください」
外からそんな声が聞こえてきた。
「ホントに通れた……」
「な? だから言っただろ?」
レティシアは自慢気にそう答える。
「うん……」
よくは分からないが、きっとアスタルテ教会とイストール公の間には何か特別な決まりごとがあるのだろう。
こうしてあっさりと通用門を通過した俺たちは、いつもとは違う地下の応接室に案内された。
「ここは……?」
「ここは緊急事態のときに使う会議室だ。隠し部屋もここならねえぜ」
「えっ? 隠し部屋?」
「お? リリス、知らなかったのか? 城の応接室には隠し部屋があって、部屋の中を監視してんだぜ。客が何かすることもあるし、あとは客が何を話しているのかを盗聴するのにも使うな」
なんと! そんなこと、思いつきもしなかった。
「ま、今回はさすがに普通の応接室は使えねえな」
「う、うん。そうだね」
まあ、たしかに今回の話は警備隊の副長の件だ。どこにスパイがいるか分からない以上、盗聴を防げる部屋を使うのは当然だ。
それからとりとめのない話をして数十分待っていると、深刻そうな表情のイストール公が入ってきた。
「聖女レティシア、リリス殿、火急の要件だと聞いたが」
「ええ。記録の女神アルテナ様のお力でとんでもない動画が撮影されてしまいました」
レティシアは聖女らしく、少し悲し気な雰囲気をまといながらそう答えた。
「さ、リリスさん」
俺は無言で
「この者は……警備隊の副長だったか?」
「ええ、そうですわ。そしてこの人相の悪い男はデジレファミリーのボス、ランドリューですわ」
「デジレファミリー? とは何かね?」
「デジレファミリーというのは貧民街を根城にしているマフィアですわ」
「マフィアだと? いつの間にそんな者たちが?」
「今、戦争で男手が不足しているでしょう? その間に勢力を伸ばしたのですわ」
「……」
イストール公はより険しい表情になった。
「だが、これだけでは副長とマフィアが繋がっている証拠にはならないのではないかね? 麻薬の処分を請け負っている業者であれば、副長が自ら足を運んでも不思議はない。建物の中で話している会話が録画できいれば話は別だが」
「ええ、そのとおりですわ。ただ、この建物は警備隊が押収した麻薬を郊外に運び、焼却処分する業務を委託していた業者ですわ」
「……ふむ」
「リリス、次の動画をお見せして」
俺は次の動画を再生した。すると先ほどの中年男性がフード姿の男に頭を下げながら、いくつもの木箱を運び出させている様子が映し出される。
男たちはそのまま木箱を馬車に積み込み、中年男性に何かを渡すとそのままイストレアの町中をゆっくりと移動していく。そして馬車はこの前俺たちが麻薬を押収した倉庫へと到着し、男たちが木箱を倉庫の中へと運んでいく。
「これは?」
「処理業者が麻薬を麻薬の密売組織に横流ししたときの映像ですわ」
「……」
「この倉庫は、つい先日私たちが強制捜査して、横流しされた麻薬を押収しました」
「なるほど」
「それで、最後はこれです」
俺が次の動画を再生すると、そこにはなんと倉庫を訪れるデジレファミリーのボスの姿が映し出されていた。
「むむむ……」
「ただ、この処理業者の社長は殺され、建物は放火されました。帳簿も焼けてしまい、何も証拠は残っていません」
するとイストール公は小さく舌打ちをした。
「よくも好き勝手やってくれおったな。そのマフィアの連中は関係者を含めて根こそぎ摘発し、全員処刑台に送ってやる。副長についてはどこまで証拠があるのかね?」
「副長についてはこれだけですわ。この動画を撮影したのは教会の影ですもの」
「む? それはつまり! リリス殿がいなくても動画が撮影できるということかね!?」
「ええ、そうですわ。アルテナ様が授けてくださったそうですわ」
「なんと! アルテナ様……最初の神殿もまだだというのに、なんと慈悲深い」
「まったくですわね」
何やら二人だけで納得しているが、自分が悪魔にされるかもしれないんだから協力するのは当然ではないのだろうか?
「そういう話ならば、我が影がその任を引き継ごうではないか」
「ええ。リリス、それでいいですわね?」
「はい。イストール公、よろしくお願いします」
こうして俺はイストール公に記録の宝具を渡し、使い方を教えるのだった。
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