第71話 日本では……(14)
2023/07/24 誤字を修正しました。
================
「なあなあ、リリちゃんの今回の動画、すごかったよな」
リリスが物見の塔に登った動画が配信された翌日の放課後、お約束のように剛たちは集まって話をしていた。
今回剛たちが集まっているのは体育館の裏で、館内からはドシンというボールの音やキュッキュッと靴が板張りの床でグリップする音が聞こえてくる。
しかし汗を流す生徒たちとは違い、剛たちが凝視するのはもちろんスマホの画面だ。
「だよな。めっちゃ綺麗だよな」
「最近のCG、マジですげぇよな」
「お! だよな! やっぱお前らもそう思う?」
「どうした? 西川」
「なんかさ。拡大したら汗まで綺麗に映ってたっぽいんだよな。すごくね?」
「マジで!? やっぱ
「あ? 誰が腋フェチだ?」
西川の軽口をいつもどおりに杉田がからかい、西川はそれにいつもどおりの反応を示す。
「そういやさ。ライブやるって言ってたよな?」
「言ってた言ってた! マジ気になるよな。どんな感じになるんだろ?」
「でもライブで喋ってるの見れるだけでヤバくね?」
「そうなんだけどさ……」
「ん? どうした? 細川」
剛が少し沈んだ様子で喋った細川のほうへと顔を向ける。
「いや、ほらさ。委員長、CGだって言ってたじゃん?」
「言ってたな」
「でさ。普通にあのレベルのグラでライブって、見たことなくね?」
「まぁ、そうだな……」
「だからさ。なんかライブになったら全然別のしょぼいのになってたらやだなぁって」
「あーわかりみ」
「え? そんなことなくね? だって、毎回あのレベルのグラで動画作ってくれるんだぜ? 絶対今回も同じクオリティで出してくれるって」
「でもさ。俺、ちょっと調べたんだよね。どうやったらあのレベルの動画で配信できるんだろって」
「ほーん。で、どうだったん?」
「無理」
「え? 無理?」
「そう。無理。ほら、これとか見てみ?」
細川が差し出したスマホの画面には大手匿名掲示板であるちゃんねる0.5のスレッドが表示されていた。
「え? 何これ? リリス・サキュアについて語るスレ?」
「ここで有志が議論してるんだけどさ。真面目にあのグラを毎回作り込んでたら、動画制作費だけでもヤバいって」
「どういうこと?」
「なんかさ。普通、ああいう動画を作るときって、なんかモデル? とかテクスチャ? とかいうのを再利用するんだって」
「ほーん?」
「でも、リリちゃんの動画ってほとんど毎回別の場所で撮影してるだろ?」
「おお、そうだな」
「で、有志が詳しく調べたんだけど、自分の部屋っぽいところ以外は使いまわしがないんだってさ」
「つまりどういうことだ?」
「毎回毎回、専門のスタジオに依頼して作ってもらうレベルだってこと」
「つまり、それって毎回金が掛かってるってこと?」
「そうそう。だから、GodTubeの収益くらいじゃ超大赤字だろうって」
「マジで!?」
「ああ。らしい」
「なら俺らでなんとかリリちゃん助けてあげたいけど……スパチャはできねぇしなぁ」
「親のクレカを……」
「「「「バレるからやめとけ」」」」
「うっ……冗談じゃねぇか……」
冗談とも本気ともとれる西川の発言に総ツッコミが入り、西川はたじろいだ。
「で、スレではリリちゃんがいよいよ引退間近なんじゃないかって」
「どういうこと?」
「だって、毎回動画上げる度に大金を払ってたらあっという間に金がなくなるじゃん? なんかのプロモって説もなくなったし、どっかの会社がリリちゃんのスポンサーしてるって話も聞かないじゃん」
「あー、たしかに」
「で、いきなりライブって言いだしたからさ。きっとライブのときにスパチャ煽りまくって、金巻き上げるんじゃないかって噂されてるな」
「なんだと!? リリちゃんがそんなことするわけないだろ!」
細川の説明に西川が気色ばんで反論する。
「俺が言ってんじゃねぇって。スレでそう叩かれてるんだよ。リリちゃん、ファンも多いけどアンチもいっぱいいるからな。そんでレスバになってるんだ」
「マジかよ! 俺も文句言ってやる」
「「「「やめとけ」」」」
西川がスマホの操作を始めるが、またしても総ツッコミを受ける。
「な、なんだよ。せっかく俺がリリちゃんの無実を晴らしてやろうと――」
「どうやって晴らすんだよ? まだライブ配信してすらいねぇんだぞ?」
「そ、それは……」
「お前、絶対ライブでこのことリリちゃんに言うなよ?」
「えっ?」
「動画もライブも関係ない話題で、しかもリリちゃんが叩かれてるって話だからな? リリちゃんに迷惑だし、もしリリちゃんが傷ついて配信やめちゃったらどうするんだ?」
「うっ……わかったよ……」
西川は申し訳なさそうにそう答えた。
「にしても、リリちゃんのライブかぁ……楽しみだな」
「な!」
それからひとしきりリリスの動画の話題で盛り上がり、満足した剛たちは校門のほうへと歩いていくのだった。
================
AIに挿絵を作成してもらいました。
https://kakuyomu.jp/users/kotaro_isshiki/news/16817330654740797474
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます