第94話 経過報告ライブをしてみた(前編)

2023/05/29 あとがきを削除しました

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 成果のあった俺たちの捜査とは対照的に、繁華街のほうの捜査はあまり上手くいかなかった。あまりという微妙な表現になったのは、密売人の逮捕と保管されていた大量の麻薬の押収はできたものの、肝心の密売人に麻薬を卸していた連中には逃げられてしまったからだ。


 商品である麻薬を大量に残していったということは、ヴィヴィアーヌさんたちが来るのを知ってからすぐに逃げなければならなくなったため、麻薬を運び出す時間がなかったということだろう。


 ということは、ヴィヴィアーヌさんたち三人も白ということでいいはずだ。


 ああ、良かった。ヴィヴィアーヌさんたちは真面目に捜査しているように見えたし、何より仲間を疑わなければいけない状況というのはちょっと辛いものがあった。


 それと警備隊の施設を監視していた近衛隊の人たちから、怪しい動きをする人は見ていないという報告が上がってきている。だから警備隊の施設を監視し、慌ただしい動きを察知してアジトを移しているというわけではないと考えていいだろう。


 というわけで、どうやら捜査チーム以外の警備隊に裏切り者がいるということで間違いなさそうだ。


 さて、次はその裏切り者をあぶり出さなければいけないわけだが……どうしたらいいんだろうか?


 俺はそもそもそんなに頭がいいほうではないし、捜査なんてのも素人だ。


 となればやはり知恵を借りるのが一番だ。


 そう考えた俺は早速ライブを開始するのだった。


◆◇◆

 

 とある土曜日の昼下がり、ライブ配信が開始されたという通知がリリスのGodTubeチャンネル登録者に対して行われた。


 画面を開くと、そこにはいつもの部屋で椅子に腰かけるリリスの姿が映し出されていた。窓の外は暗く、キャンドルの明かりのみが室内を照らしている。


「始まってますかね? あ、始まっていそうですね。異世界からこんばんは。リリス・サキュアです」


 リリスは声のトーンを抑え気味に挨拶をした。すると「いまお昼だよ」「こんにちは」などといったコメントが流れてくる。


「あ! そっちは今、お昼なんですね。それじゃあ、デルボケスさんこんにちは。煉十郎さんこんにちは。ガッキーさんこんにちは。ジョジョ万太郎さんこんにちは~」


 リリスは次々と挨拶を返していく。


「ニッシーさん、こんばんは。はるとまんよんじゅうはちさんこんばんは。つよぽんさんこんばんは」


 すると五百円のスーパーチャットが流れた。


「あ! ポポンどMさん、こんにちは。いつもスーパーチャットありがとうございます♪」


 それからもリリスは次々と挨拶を返していく。


「にっしーさん、こんにちは。山本本山さんこんにちは。ジャッキーさんこんにちは。マヨ玉さんこんにちは~」


 ひとしきり挨拶をし終えたところで、リリスは話題を変える。


「皆さん来てくれてありがとうございます。今日はですね。この前の麻薬捜査の件の途中経過を報告したいと思います。あれから二週間ちょっと経ったじゃないですか」


 すると「え?」「前回のライブ四日前www」などといったコメントが次々と流れてくる。


「えっ? 四日しか経ってないんですか? えっと……もしかして時間の流れ違うんでしょうか?」


 リリスは困惑した表情を浮かべていると、大量の草に交ざって「宇宙の 法則が 乱れる!」などというコメントが流れてくる。


「宇宙の法則? えっと、はい。そうですね。時間の流れが違うみたいですからね」


 困惑したままリリスがその発言を拾うと、「ボケ殺しwww」などというコメントとともに大量の草が流れてくる。


「あ、えっと……はい。すみません。元ネタ、知りませんでした。ごめんなさい」


 すると「いいよいいよ」「若いなら仕方ないよね」「それより本題に行こう」などとコメントが流れてくる。


「あ! はい。ありがとうございます。それでですね。麻薬捜査なんですけど、なんと! 視聴者さんのアドバイスどおりに捜査チームを二手に分けてみたら、密売人と、その密売人に麻薬を卸していた人を二人、逮捕できました! 大量の麻薬も押収できて、とりあえず一歩前に進めた感じです。本当にありがとうございました」


 リリスが深々と頭を下げると、「おおー」「おめでとう」「やったね」などのコメントが次々と流れてくる。


「それでですね。今――」


 リリスはヴィヴィアーヌたちの捜査の結果と、裏切り者の目星について説明した。


「それで、どうやって裏切り者を見つけたらいいかなって考えてみたんですけどいい案が思いつかなくてですね。それでまた視聴者の皆さんに相談したいなって思ったんです」


 すると、「その前になんの魔法が使えるようになったの?」「認識阻害は?」「盗聴器は?」などといったコメントが流れてくる。


「え? ああ、はい。話を聞いてみたんですけど、盗聴魔法とか、認識阻害とか、そういうのは難しいみたいなんです。なんでかって言うと――」


 リリスは一つ一つ、丁寧に説明した。


「ただですね。睡眠魔法が使えるようになりました。私たちが犯人を逮捕できたのも、この睡眠魔法のおかげなんです」


 リリスは嬉しそうに微笑んだ。


「それでですね。裏切り者が警備隊にいるっていうのはどうやら間違いなさそうなので、次はその人を捕まえたいんです。こういうときって、どうしたらいいんでしょうか?」

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