第47話 動画の衝撃
翌朝、俺がラ・トリエールに行くとそこにはすでに衛兵たちが集まっていた。
人の流れを誘導するためだろうか?
縄を使って規制線のようなものが張られている。
俺は衛兵たちの中に昨日事情聴取をしていった衛兵がいたのを見つけ、挨拶をする。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。アルテナ様の奇跡は昨日と同じ場所で行われるのか?」
「はい。そのつもりです」
「つもり?」
「あ、それは好きな場所にできるからです。アルテナ様からいただいた神器を使っていますから」
「なるほど……さすが使徒だな」
衛兵は神妙な面持ちでそう
「あ、それじゃあお店の準備がありますから、失礼します」
「ああ、がんばりたまえ」
そうして俺はお店の中に入ると、開店準備を始めるのだった。
◆◇◆
それから一週間ほどが経過した。評判が評判を呼んだのか、行列の長さは日を追うごとに長くなり、ついには開店と同時にパンが売り切れるようになってしまった。
だが衛兵たちがしっかり警備をしてくれているおかげで事故もなく、平和に営業ができている。
ここの衛兵たちはどうやらかなり勤勉に働いてくれているようだ。
「あの、すみません。売り切れです」
「む、そうか。売り切れだそうだ。解散するように!」
衛兵がそう言うと残念そうな表情で行列が解散していくが、窓ガラスの前にいる人たちは食い入るように動画を見つめている。
だがそうした人たちもやがて衛兵に追い出され、やがて店の前に残っているのは衛兵だけとなった。
俺は動画を停止すると、ジャン=パンメトルさんにお願いしておいた差し入れのパンを持って外に出た。
「いつもありがとうございます。これ、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
そうして俺は一人一人にパンを配ると店内に戻り、閉店作業をするのだった。
◆◇◆
翌日、俺がラ・トリエールに行くとなんと店の前に普段とは比べ物にならないほど大勢の衛兵が陣取っていた。何やら交通規制をしているようで、行列に並ぼうとやってきているお客さんを追い返している。
え? いきなり衛兵が営業妨害!?
慌てて駆け寄ろうとしたものの、衛兵によって行く手を阻まれてしまう。
「止まりなさい! 一般人は立ち入り禁止だ!」
「え!? ちょっと待ってください! 私はラ・トリエールの店員です! 私たちが何をしたって言うんですか! 毎日お店の前にいて事故が起きないようにしてくれていたじゃないないですか!」
「何!? ……そうか。店員はエルフと言っていたな。それは失礼した」
「へ?」
よく分からないが、店員を名乗るとあっさり中に入ることを許された。
「さあ、通っていいぞ」
「はい」
どうにも釈然としないが、通してくれるというのならまあいい。
だが、この様子だと今日の営業は絶望的なのではないだろうか?
今日も最高のパンを焼こうと準備しているであろうジャン=パンメトルさんのことを考えると憤りを覚えるが、こんなところで衛兵と喧嘩をするわけにはいかない。
とりあえずは状況を把握するべきだ。
そう考え、俺は店内に入るとすぐにジャン=パンメトルさんのところへと向かう。
「ジャン=パンメトルさん!」
「……ん? もう準備が終わったのか?」
いつもどおり窯へ生地を入れているジャン=パンメトルさんが、いつもどおりのぶっきらぼうな様子でそう答える。
「そうじゃありません。外に大勢の衛兵がいてお店の前に人が来れないようにしているんです」
「何?」
ジャン=パンメトルさんは背を向けたまま怪訝そうにそう言ったが、すぐにパン焼きを再会する。
「どういうことか聞いてきてくれ」
「え? 私がですか?」
思わずそう尋ねたが、よく考えたらコミュニケーションの苦手なジャン=パンメトルさんが行っても事態が余計にややこしくなるだけな気がする。
「……そうですね。分かりました。ちょっと聞いてきます」
「頼む」
俺は小さくため息をつくと、調理室を後にして外の様子を確認してみる。するとなにやら豪華な馬車が店の前にやってきた。
馬車の扉が外から開けられ、馬車からは背の高い立派な身なりの中年の男性が降りてきた。目つきはかなり鋭く、何やら威厳のようなものすら感じるほどだ。
さらに彼の周囲を武装した衛兵ががっちり固めている。
見るからに偉い人のようだが……どうしようか?
俺が思案しているとその男はずんずんと店の入口までやってきた。そして衛兵がまだ閉店中となっている店の扉をノックもなしに開いた。
「え? お客様!? まだ準備中ですが……」
だが彼らに気にした様子はない。それどころか、横柄な態度で偉そうな人が俺に声を掛けてくる。
「お前が女神アルテナの使徒、リリス・サキュアだな?」
「……はい」
「ふむ。動画とやらを見せて見るがよい」
「ええと? どちら様でしょうか?」
俺の問いに男は眉をひそめ、衛兵の一人が大声で威圧してくる。
「このお方を知らないだと!? いくらエルフとて、常識知らずにもほどがある!」
カチンときた俺はすぐさま反論する。
「この町に初めて来た私が知ってるわけないじゃないですか! 何言ってるんですか!」
「なっ!?」
「知らないのがおかしいって言うなら、あなたは私の住んでいた国の総理大臣の顔と名前を知ってるんですか?」
「ぐ……」
衛兵の男が顔を真っ赤にした。すると偉い人っぽい男が割って入ってくる。
「良い。こちらも礼を失したな。儂はイストール公、オーギュスト・ド・イストールだ。市井でアルテナという聞き覚えのない女神の奇跡が見られると聞き、その善悪を確認しに来たのだ」
「へっ!?」
イストール公? それってもしかしてこの国の一番偉い人……だよな?
「失礼しました。私はリリス・サキュアと申します。記録の女神アルテナ様の使徒です。どうぞお見知りおきを」
「うむ。では動画とやらを見せてみよ」
「はい」
俺は慌てて再生の宝珠を取り出すのだった。
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