第48話 増していく力
「むむむ、これは……」
投影されるパンの宣伝動画を見たイストール公はものすごく険しい表情となった。
何が問題だったのだろうか?
動画を見たことがないから驚くというのは分かる。だがミニョレ村の村長はこんな反応をしなかったし、ミレーヌさんたちの反応だってそうだ。
「あの、何か……?」
するとイストール公は険しい表情のままこちらを見るが、すぐにリピート再生されている動画に視線を戻す。
それからしばらくするとおもむろに俺のほうに顔を向けてくる。
「リリス・サキュアと言ったな」
「はい」
「この動画とは、どのようにして作るのだ?」
「え? それは普通に撮影をして、そこにテロップを入れたりして編集します」
「撮影?」
「ええと、目の前で起きていることをそのまま記録することです」
「……ということは、この動画は実際に起きたことが記録されているのだな?」
「そうなります」
「なるほど。それで記録の女神か……」
イストール公は再び険しい表情となり、動画をじっと見つめた。
「動画を見るにはこの宝珠が必要なのかね?」
「はい。ただ、私がいれば宝珠なしでもお見せすることはできます」
「なるほど。ではこの宝珠はどこで手に入れることはできるのかね?」
「これは女神さまにいただいたものですので、どこで手に入るかはご存じなのは女神さまのみかと思います」
「そうか……この宝珠を使い、こちらの指定した動画を流してもらうことはできるのかね?」
「ええと、どのような内容かにもよりますが、動画を撮影することができれば」
「なるほど。どのような内容はダメなのかね?」
「そうですね。たとえば犯罪を煽るような内容ですとかわいせつな内容ですとか、基本的に万人に見せるべきではないような内容はお断りします」
GodTubeで公開するわけではないので問題ないとは思うが、GodTubeはそういった内容にはかなり厳しい。だから間違って収益化が取り消されて仕送りができないようになる事態は避けたいのだ。
「ふむ。であれば問題ない。いずれ依頼をさせてもらうが、いつまでこの町にいるのかね?」
「決まっていませんが、ここの奥さんが復帰するまではここで店員をする予定です。それ以降もしばらくは冒険者ギルドで依頼を受けるつもりです」
「そうか。では冒険者ギルドに使いを出すとしよう」
そう言うとイストール公はくるりと背を向け、振り返りもせずにラ・トリエールから出ていったのだった。
◆◇◆
その日の仕事を終え、ホテルで眠りについたはずだったのだが、俺は再びあの真っ白な場所にいた。
ああ、またか。今度はなんの用だ?
「あら、随分な言い草ね。せっかく口座紐づけを終わらせておいたっていうのに」
「あ、はい。ありがとうございました」
しまった。考えていることが駄々漏れになるんだった。
「そうそう。余計なことは考えず、このアタシに尽くしなさい?」
「ぐっ……はい。それで、なんのご用でしょうか?」
「ええ、随分と頑張って信者を集めてくれているみたいじゃない」
「え?」
「何? 自覚なかったの? アンタがパン屋でやってるあの動画よ。あれを見てアタシに祈りを捧げる人間がかなり増えたわ」
「あ! あの毎回出るあの広告で……」
「そう。アンタ、有効活用してるじゃない。エロフの体」
「ん? ああ、そういうことですか」
「そういうことよ。おかげで邪な連中も多いけれど、十分だわ。この記録の女神アルテナ様が褒美として、再生の宝珠を新たに二つあげるわ。これでまた信者を増やすのよ?」
「は、はい」
「あ、そうそう。アンタずっと精気は遠隔で賄ってるみたいだけど、たまには直接吸いだしたのも食べたほうがいいわよ」
「へ?」
「じゃ、頑張りなさい」
「ちょ、ちょっと待て! 遠隔ってなんだ!」
俺は慌ててそう叫んだものの駄女神がそれを聞くはずもなく、気が付けば俺はベッドの上に戻ってきていたのだった。
「なんなの? アルテナ様はいつもいつも説明がって、え?」
俺はベッドの上でぼそりと不満を漏らしたが、駄女神と言おうとしたはずなのに口からは勝手にアルテナ様という言葉が出てきた。
ぐぬぬ。まさか口調だけでなくこんなところにも呪いがかかるとは!
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