第51話 新たなる依頼

 ルイ様のやたらと押しの強い誘いをどう断ろうかと困っていると、応接室の扉がノックされた。


「あ! はい! どうぞ!」


 渡りに船とばかりに返事をすると、フェリクスさんが入ってきた。何やらその最中に誰かの舌打ちが聞こえたような気もするが、多分気のせいだろう。


「リリスさん、お待たせいたしました。おや? 殿下、リリスさんのお相手をしてくださっていたんですね。ありがとうございます」

「あ、ああ」


 ルイ様の表情が何やら憮然とした感じになっているが、まあ見なかったことにしよう。とにかく助かった。


「リリスさん、この度はご協力いただきありがとうございました。イストレアの住民の大半が今回の動画を見て、我々の統治に対する信頼を強めてくれたようです」

「お役に立てて何よりです」

「こちらが依頼完了の証明書、そしてこちらがお借りしていた再生の宝珠となります」

「はい。ありがとうございます」


 俺は受け取った証明書と再生の宝珠をすぐに荷物袋にしまう。


「それと次回ですが、また一か月後に同様の依頼をさせていただきたく思います」


 ああ、そうか。好評だったのならリピートしようという話になるのも当然だ。


「そうですね。わかりました。今はまだどこかに行く予定もないのでまた一か月後に」

「それは良かったです。実は初日、中央の大広場に人が殺到してしまいましてね。入場制限を行ったほどだったのです。殿下の顔もかなり広まりましたし、イストール公からもぜひ続けるようにとの仰っていました」

「そんなにですか? ああ、でもラ・トリエールの広告もすごかったですしね。自分たちの安全に直結する話ならなおさらですね」

「はい。本当に助かりました。リリスさん、ありがとうございます」


 ルイ様のことはさておき、こうやって人の役に立ってお礼を言われるのは気持ちがいい。


「では、私はこのへんで……」


 そそくさと席を立とうとしたが、それをルイ様が引き留めてくる。


「リリス嬢、お待ちください」

「はい?」

「これは今回の仕事に対する私の個人的なお礼です」


 ルイ様はそう言って包装紙に包まれた小さな箱を渡してきた。


「ええと?」


 俺はちらりとフェリクスさんを見るが、フェリクスさんは小さく頷いた。


「リリスさん、これは殿下のお気持ちですのでどうぞ受け取って差し上げてください」


 なるほど。これは問題ないらしい。きっとチップのようなものなのだろう。もちろんお金でもらうのが一番ありがたいが、そうでないにしても価値のあるものなのだろうからどこかで処分できるはずだ。


「わかりました。ありがとうございます。それではこれで」


 俺は小箱を荷物袋に入れ、席を立つ。


「リリス嬢、出口までお送りします」

「え? 大丈夫ですよ。ルイ様はきっとお忙しいでしょうから」


 冗談じゃない。どうせ道すがら、また口説かれるに決まっている。


「それじゃあ、ありがとうございました」


 俺はそう言って足早に応接室を出ると、扉の前で待っていた案内係らしいメイドさんに連れられて城を後にしたのだった。


◆◇◆


 冒険者ギルドに戻ってきた俺は早速依頼完了の証明書を受付のお姉さんに手渡した。


「はい。たしかに。リリスさん、お疲れ様でした。それではこちらが報酬の千トーラとなります。金貨は切らしておりますので銀貨でのお支払いとなります」


 そう言ってお姉さんは前に一般人ではまず見ることがないと言っていた銀貨を十枚差し出してきた。


「これが百トーラの銀貨ですか」

「はい。高級店以外ではお釣りが出ないことがありますのでご注意ください」

「ありがとうございます」


 ちなみに生活していてわかったことだが、この町での給料の支払いは日当をその日に払うのが一般的だ。その日当のほとんどを使い切って生活をしているため、百トーラ銀貨を使う機会はまずない。


 もちろんラ・トリエールで働いた分の日当五トーラは毎日払ってもらっていて、それですべての生活費を賄っている。


 そんなわけで千トーラという大金をもらっても使い道がないのだが、さてはて、どうしたものか……。


「あ、そういえばリリスさん」


 俺が贅沢な悩みを抱えていたところ、お姉さんが声を掛けてきた。


「はい?」

「リリスさんに指名依頼が届いています」

「えっ? もうですか?」

「もう、とは?」

「あ、いえ。先ほどお城で来月も同じ依頼をと打診されましたので」

「ああ、そういうことですか。おめでとうございます。ただ、それとはまた依頼は別の依頼ですよ」

「別ですか?」

「はい。依頼主はイストレア大聖堂です」

「へっ!?」


 予想外の依頼主に思わず変な声が出てしまったのだった。

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