第52話 炊き出し依頼
「イストレア大聖堂ですか?」
「はい。聖女レティシア様による貧民街での炊き出しの手伝いと、その様子を記録してほしいというものとなります」
「はぁ……」
要するに、アスタルテ教の宣伝をしたいということだろうか?
うーん、どうしよう。でもレティシアさんにはかなりお世話になったしな。
よし。このくらいは問題ないだろう。どうせうちの駄女神は名前さえ売れればいいんだろうし、こういうのはむしろ大歓迎なのだろう。
炊き出しの様子をすべて保存しろと言われたら困るが、編集してGodTubeのほうにもアップロードすれば問題ない。むしろ仕送りの足しになるはずだ。
「わかりました。詳細を教えていただけないと受けられるかは分かりませんが、多分大丈夫です」
「どのような点が気になってらっしゃいますか?」
「炊き出しのお手伝いは問題ないです。ただ、記録してほしいという話の内容によっては、お受けできない可能性があります」
「それは記録の女神アルテナ様が許可されない可能性があるということでしょうか?」
「ええと、はい。そうですね」
本当は記憶容量の問題なのだが、まあ、間違ってはいないだろう。
「なるほど。承知しました。では、この記録についてはリリスさんが受けられる範囲において、という条件が付けばお受けいただけますか?」
「はい」
「かしこまりました。そのように処理しておきます」
「お願いします」
「それでは、炊き出しは次の休息日に実施されます。当日は午前九時に大聖堂の聖女レティシア様をお尋ねください」
「わかりました」
こうして大聖堂からの依頼を受諾し、ホテルへと戻ってきた俺はベッドに腰かけてようやくひと息つくことができた。
やれやれ、それにしても今日は色々と気疲れした一日だった。
もはや女としてちやほやされることやエロい目で見られることには慣れてしまったが、さすがにああして口説かれるのにはどうにも慣れない。
この見た目なので口説こうとする男がいるのは当たり前だと理解はできる。できるのだが……。
「はぁ」
俺は大きくため息をついたところで、ルイ様にもらったチップのことを思い出した。
小箱の包装紙を破り、箱を開けるとそこにはなんとやたらと大きな青い宝石のついたペンダントが入っていた。
……いや、これ、チップの範囲を超えてるだろ。こんな大きな宝石を見るのは初めてだ。
ええと、売ってお金にしてもいいのか?
そう思いつつペンダントを確認してみると、トップの宝石を縁どる金には驚くほど精緻な細工が施されている。
あー、うん。なんというか、これを売ったら一瞬でルイ様のところに話が行きそうだ。
うーん、だからといってあそこまで下心満載の男に贈られたものを身に着けるのもなぁ……。
どこかでうまく処分できないだろうか?
困った俺はペンダントを箱に戻し、荷物袋の奥へとしまいこむのだった。
◆◇◆
やがてやってきた休息日の午前九時、俺は大聖堂へとやってきた。するとその応接室で完全に聖女様モードのレティシアが出迎えてくれる。
「リリスさん、今日はよろしくお願いしますわ」
「うん。よろしく」
「リリス、久しぶりだな」
「あ、ミレーヌさん。ご無沙汰しています」
「ああ。活躍は聞いているぞ。すでにイストール公の依頼も受けたそうじゃないか」
「はい。お陰様で。あまり冒険者っぽくはないですけど……」
「そんなものだよ。それに、リリスは見た目が特にいいからな。荒事の依頼を回されるよりも安全な町中の依頼で長く仕事を任せたいんだろう」
「そうなんですか?」
「多分な。そもそも魔物退治など、武器が使えれば誰だってできるからな。生きて戻れるかはさておき、な」
「……」
「そんなところに見た目のいい女冒険者を割り当てたくないというのがギルドとしての本音だろう。ただでさえ女冒険者は男に比べて少ないのだ。それに依頼の中には女のほうが上手くいきやすいものもたくさんある。ならばそっちに女冒険者を回すのは当然の采配だろう」
なるほど。そういうものか。
「レティがどこかに行くときは護衛の依頼をするから、そのときはよろしくな」
俺が小さく
「さて、リリスさん。今日はリリスさんに貧民街での炊き出しのお手伝いとその記録をお願いしているわけですが、記録についてはリリスさんのできる範囲が決まっているとお聞きしましたわ」
「うん。そうだね」
「できない範囲というのは、どういったことでしょう?」
「ええと、その前にどう使いたいかを教えて欲しいの。あまり長い時間は記録できないし、どこかで再生したいなら再生の宝珠か、もしくは私がその場にいる必要があるの」
「ああ、そういうことですわね。まず記録した動画の用途については、イストール公をはじめとした有力者の皆様との定例会での活動報告用ですわ。場所もこの大聖堂ですから、リリスさんにお越しいただくか、その再生の宝珠というのをお貸しいただきたいですわ」
「それならいいよ。その評議会の後にも使う予定はあるの?」
「ありませんわ。それに必要でしたら、次の炊き出しのときにでもまたお願いいたしますわ」
「うん。わかった。それなら大丈夫だよ」
「それは何よりですわ」
そう言ってレティシアは聖女様らしい優しい微笑みを浮かべるのだった。
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