第107話 一斉捕縛

 俺が集合場所に向かうと、そこにはすでにイストール公とルイ様、さらに近衛隊の兵士たちが集まっていた。


「遅れてすみません」

「いや、こちらこそ休んでいるところをすまない」

「いえ」


 イストール公と短い挨拶を交わすと、ルイ様が横から割り込んできた。


「リリス嬢、近衛隊の制服も大変良くお似合いですよ」

「え? ありがとうございます。この制服のデザイン、すごく素敵ですよね」

「いえ、そういうことではなく――」

「うおっほん」


 ルイ様が何か言おうとしたが、イストール公が咳ばらいをしてそれを制止した。


「ルイ、そのくらいにしておけ。リリス殿、警備隊の副長が例のデジレファミリーから金を受け取っている様子を撮影したという報告を受けた。警備隊の大規模摘発の情報が漏れた可能性を考え、近衛隊のみで摘発する」

「わかりました」


 やはり副長が犯人だったのか。そりゃあ、いくら現場の人間が頑張っても麻薬の密売を撲滅できないわけだ。


「その際の現場の指揮はルイが執る。リリス殿もルイについて、適宜助けてやってほしい」

「わかりました」

「ではルイよ。スラムに作られた大規模な麻薬の倉庫を摘発せよ。一人たりとも逃すな!」

「はっ!」


 こうして俺たちは夜陰に紛れ、総勢二百名の近衛兵を引き連れてスラム街の中心へと向かうのだった。


◆◇◆


「総員、突入!」


 ルイ様の指示に従い、麻薬の保管場所となっている建物を取り囲んだ近衛兵たちが一斉に突入していく。


「リリス嬢は私とここで――」

「何を言っているんですか? 私も突入しますよ。私の魔法で眠らせれば余計な抵抗をされませんから」

「えっ? で、ですがリリス嬢に万が一のことがあれば……」

「それは他の人たちも一緒です」

「う……」

「それじゃあ、私も続きますね」

「な、なら私も一緒に……」

「はぁ」


 よく分からないがなぜかついて来るルイ様を引き連れ、俺も遅ればせながら建物の中に突入した。そこではあちこちで近衛兵が剣を持ったチンピラと戦っている。


 俺は近くで剣を構え、睨み合っている二人に近づくとチンピラのほうに睡眠魔法をかけた。するとチンピラは力なく崩れ落ち、寝息を立て始める。


「え?」

「魔法で眠らせました。捕縛をお願いします」

「っ!? リリス様! ありがとうございます!」


 戦っていた近衛兵は驚いてこちらを振り返ったが、すぐに眠っている男を縄で縛り上げる。


「ルイ様、どんどん行きましょう」


 こうして俺は次々と戦いに介入し、チンピラたちを眠らせて回るのだった。


◆◇◆


 それからすぐに俺たちは地下室に大量に保管されていた麻薬を押収し、さらに建物のほとんどを制圧することに成功した。


 まだ制圧できていないのは最上階の一部屋のみとなっている。


「突入!」


 ルイ様の号令で、近衛隊の兵士たちが扉を蹴破った。


 するとその隙を突こうと待ち構えていたのか、かなり体格のいい男が蹴破った兵士に剣で切りかかってきた。


「危ない!」


 俺は即座に睡眠魔法をかけ、襲ってきた男を眠らせた。


「ぐあっ!」


 しかし振り下ろされた剣が止まることはなく、兵士は肩を切りつけられてしまった。


「怯むな! 突入!」


 近衛兵たちは切られた兵士の横を通り抜け、部屋の中に突入していく。


「なんなんだよ! 摘発は来週じゃなかったのかよ!」

「くそっ! アンリの野郎! 裏切りやがったな!」


 何やら副長に対する恨み節が聞こえてくる。


「黙れ! 大人しくお縄につけ!」

「くそがっ!」


 そんなやり取りのあと、しばらくすると中から安全が確保されたというハンドサインが送られてきたので、俺たちは部屋の中に入った。


 するとそこはかなり豪華な調度品がしつらえられた執務室のような内装で、あちこちに血まみれの男たちが倒れている。だが残念ながらデジレファミリーのボスはその中にはいないようだ。


「よくやった! 罪人どもは全員、城の地下牢に連行する!」


 こうして俺たちは大量の麻薬と大勢の麻薬密売の容疑者を逮捕することに成功したのだった。


◆◇◆


 翌朝、俺は近衛隊の制服を身にまとい、ルイ様とレオニーさん、そして大勢の近衛兵たちと一緒に警備隊の本部にやってきた。そのまま捜査チームの部屋までやってくると、かなり怒っているらしい副長の声が中から聞こえてきた。


「一体どういうことかね? お前たちが職務を実行しないから近衛隊の越権行為を招いたのだぞ?」

「そ、そんな……我々は麻薬を撲滅しようと……」


 怒る副長に対し、ウスターシュさんはしどろもどろになりながらも返事をしている。


「本当に真面目に取り組んでいたのかね? 捜査チームの誰かが金でも貰い、情報を漏らしていたのではないかね?」


 自分が汚職してた張本人のくせに、なんともふてぶてしい叱責だ。


「君たちには失望したよ。全員、降格処分は免れないと思いなさい。それと、君たちには一人一人個人面談を行うとしよう。まずはウスターシュくん、君からだ。ついてきなさい」


 副長がどこかに行こうとしているので、俺は室内に入ることにした。


「皆さん、おはようございます」

「ん? リリス……さま? ……そ、その制服は、まさか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る