第108話 捜査完了
近衛隊の制服を着た俺の姿を見て、副長は目を見開いて驚いている。
「副長さん、残念です」
「ど、どうして……」
「公都警備隊副長アンリ、貴様を汚職の容疑で逮捕する!」
俺に続いて入ってきたルイ様がそう宣言し、さらに近衛隊の兵士たちが雪崩れ込む。
「や、やめろ! 放せ!」
「ルイ殿下のご命令だ。大人しくお縄につけ!」
「この! おい! お前たち! こいつらを止めろ! 上官の命令が聞けないのか!」
「え? ですが……」
ウスターシュさんたちは事態を呑み込めていないのか、俺たちと副長の間で視線を動かす。
「お前たちも無駄な抵抗をするな! 抵抗すれば反逆罪に問うぞ!」
「殿下!」
両手を抱えられた副長が悲痛な叫び声を上げる。
「わ、私が汚職などするはずがありません! 一体どこに証拠があるというのですか!」
「往生際の悪い。記録の女神アルテナ様のお力により、貴様の犯行現場は記録されているのだ」
「なっ!?」
副長は目を見開いて驚いた。
「リリス嬢」
「はい」
俺は今朝受け取った証拠の動画を再生する。
「え? 副長? この男は一体……?」
「副長、こいつ、マフィアのボスっすよね?」
「まさか副長が……」
ウスターシュさん、ダルコさん、そしてパトリスさんがあからさまに失望した様子で副長のほうを見ている。ヴィヴィアーヌさんも言葉こそ発していないが、険しい表情で副長のことを見ている。
「こ、こんなものがなぜ……おい! ヴィヴィアーヌ! 貴様!」
「やめてください。副長、まともな生活をできるようにしてくださったあなたには感謝しています。ですが、私があなたに命じられたのはリリス様の身辺警護と予定の報告だけです」
「だがあのエルフがなぜ! 昨晩は大聖堂に泊まっていたのではないのか!」
「知りません。昨晩、私はたしかにリリス様を大聖堂にお送りしました。今朝の警護はレオニーさんの番です」
「ならばなぜ! 昨日の夜の記録が残っているのだ! あのエルフがいなければ記録できないのではなかったのか!」
「ですから、知りません。もしそのあと大聖堂から外出なさったとしても、リリス様からご連絡いただかなければ対応のしようがありませんよ。もう! いい加減にしてください!」
「なんだと!? 自分だけ責任逃れをするつもりか! お前だってデジレファミリーの一員のくせに!」
「ちょっと! やめてください!」
副長の爆弾発言に普段冷静なヴィヴィアーヌさんが大声を上げた。
「やめよ! アンリ、貴様の罪はアルテナ様により記録されている。お前たち! この者を城まで連行せよ! それから、ヴィヴィアーヌと言ったな? お前にも城まで一緒に来てもらうぞ」
「えっ……あ、はい。わかりました」
ヴィヴィアーヌさんは不満そうにしているが、この状況ではやむを得ないだろう。
こうして副長が汚職の容疑で逮捕され、ヴィヴィアーヌさんは参考人としてお城に連れていかれることとなったのだった。
そんな彼らを見送ると、突然レオニーさんが話しかけてきた。
「ねえねえ、リリスちゃん」
「な、なんですか?」
「やっぱりその制服、似合うよねぇ。警備隊のやつ、サイズ合ってなくて可哀想だなって思ってたんだぁ」
「あ、はい。そうですね」
するとレオニーさんは嬉しそうに笑うと、俺の体を確認するようにペタペタと触ってきた。
「うん。バッチリ。やっぱりちゃんとオーダーメイドして良かったぁ」
「え? レオニーさんが?」
サイズがあまりにもピッタリなことに驚いたが、まさかオーダーメイドだったとは……。
あれ? でもどうしてサイズを……ん? まさかあの試着のときに!?
「そうそう。せっかくこんなに可愛いんだから、オシャレをちゃんとしないとね」
レオニーさんはそう言ってパチン、とウィンクをしてきたのだった。
◆◇◆
その日のうちに近衛隊はデジレファミリーの関係先を一斉に家宅捜索し、幹部を含む多くの構成員が逮捕された。それと同時に副長の自宅にも家宅捜索が行われ、信じられないほどの金品が発見された。
さて、肝心のデジレファミリーのボスだが、尋問の結果なんと貧民街を担当する税務官がデジレファミリーの構成員であることが発覚し、その自宅にかくまわれているところを確保された。
もちろん税務官の自宅からも大量の金品が発見されており、税務官もしっかり汚職していたということが発覚した。
さらに驚いたことに、警備隊のメンバーの中には相当数のデジレファミリーメンバーや、お金を貰って犯罪を見逃していた者が相当数いることが判明した。
このあたりは副長がこっそりと主導していたそうで、告発しようとした隊員は副長が難癖をつけ、綱紀粛正と称して処刑していたらしい。
規律の鬼が聞いてあきれるが、どうやら今回の麻薬を使った陰謀は、こうした悪いことをしている連中が動画によって記録されることを恐れて計画されたものだったという結論に至った。
最後に副長たちの末路だが、副長と税務官、デジレファミリーのボスや幹部は全員処刑され、汚職をしていた警備隊の兵士たちは、この国の宗主国であるラテル帝国の戦争で最前線に送られることになったという。
ああ、あとヴィヴィアーヌさんだが、どうやら彼女は貧民街の出身で、食うに困っているところをデジレファミリーにスカウトされ、人員不足に悩む警備隊にスパイとして送り込まれたらしい。
ヴィヴィアーヌさんは副長の命令に従い、捜査状況を細かく副長に説明する役目を担っていたらしく、処分業者を事前に始末できたのはヴィヴィアーヌさんが情報を漏らしたからだった。
もちろんヴィヴィアーヌさんは副長と同じく処刑される。一緒に麻薬を撲滅するために頑張る仲間だと思っていたのに、なんともやるせない結果だ。
とまあ、そんなわけで麻薬捜査から始まった一連の騒動は、こんなとんでもない幕切れを迎えることとなったのだった。
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