第66話 駄女神との再会
イストール公への報告を終え、いつものホテルへと戻ってきた俺はようやく緊張から解放され、いつものベッドに体を横たえた。
「ふぅ」
それにしても本当に疲れた。単なるオーク退治の付き添いのはずが、まさかあれほど大事になるとは。それにルイ様もなぁ。
思い出すだけでも憂鬱な気分になる。
とはいえこの顔と体のおかげで初対面の人が好意的に見てくれるのは事実だ。モテないモブと言われていたころの俺だったらきっと最初から警戒されていたはずだ。
それにGodTubeのチャンネルだってそうだ。そんなパッとしない男より、このレベルの女の子のほうが人気が出るのは明らかだし、そのおかげで朱里と剛に仕送りできているのだから感謝しなければいけないというのも分かっている。
ただなぁ。さすがに権力者の男にああやって迫られるのは……。
「はぁ」
俺は大きくため息をついた。
なんというか、好みではない男に口説かれるのが嫌だと言っている女性の気持ちがよく分かってしまったというか。
美人は人生イージーモードだという人も多いだろうが、一方でこういった気苦労が絶えないのだろう。
それが今後もずっと続くとなると、ますます憂鬱な気分になってしまう。
「はぁ」
俺はもう一度大きくため息をついた。
ああ、ダメだ。このままだとどんどんネガティブになってしまう。
疲れているし、ちょっと昼寝をしてスッキリしよう。
そう考えた俺はまぶたをゆっくりと閉じたのだった。
◆◇◆
ふと気が付くと、俺はあの真っ白な場所にいた。
ああ、久しぶりの駄女神様だ。
「あら、相変わらず口が悪いわね。せっかくアンタがちゃんと働いたからいいことを教えてあげようと思ったのに」
「え? あ、はい。なんでしょうか?」
しまった。俺が何を考えているかは筒抜けなんだった。
「そうよ。だから変なこと考えてないで、ちゃんとこのアタシに尽くしなさい?」
「ぐっ……はい。それで、いいこととはなんでしょうか?」
「どうしようかしら? アンタ、アタシの使徒のくせに敬意が足りない気がするのよね」
「ぐ……そ、尊敬しています。アルテナ様」
「ホントかしら?」
だ……アルテナ様はそう言って俺のほうを
「……まあいいわ。アンタの妹と弟への仕送り、もう一千万円を超えたわよ。あの温泉動画で一気に爆発したみたいね」
「へ? いっせんまん?」
「そうよ。チャンネル登録も一気に十倍以上に増えてるでしょ?」
「もうそんなに?」
「そうよ。でもね? 体張るのもいいけれど、BANされないように気を付けるのよ?」
「は、はい」
そうか。そうだよな。過激なことをやりすぎるとBANされる恐れもあるんだよな。
「それはそうと、アンタ、よくやったわ。褒めてあげる」
「え? ええと、なんの話でしょう?」
「この国の王にアタシを正式な女神と認めさせたでしょう?」
「え? あ、はい。そうですね」
「だから、この記録の女神アルテナ様がアンタにご褒美をあげるわ」
「ご褒美ですか?」
とはいえ、再生の宝珠をこれ以上もらっても活用のしようがない気がするのだが……。
「何言ってるの? 再生の宝珠はこれからアタシを信仰する教会には必ず一つ、設置してもらうわよ」
「え?」
「せっかくアタシの教会ができるんだもの。記録の女神の教会なのに記録の再生ができないなんてあり得ないわ」
まあ、そう言われるとなんとなく納得できる気もするものの、建ててもらえる教会は一つだけだとおもうのだが……。
「ちゃんと各地に建設されるように、アンタが信者を獲得するのよ」
「へ?」
俺が?
「当然じゃない。アンタ、記録の女神アルテナの使徒なのよ?」
「はぁ」
ということは、まさか俺にあちこち行けと?
「そう言うことになるわね。でもあちこち行ったほうが動画のネタも増えるでしょう?」
「それはそうですけど……」
「それにね。ちゃんと今回のご褒美はアンタの仕送りの役にも立つわよ?」
「仕送りのですか?」
「そう。アンタ、全然服買わないじゃない。だから、このアタシがアンタの服をいくつかプレゼントしてあげるわ」
「え? 服、ですか? あ! そういえば……」
すっかり忘れていたが俺、服は白いワンピース一着しか持っていないんだった。
いや、待てよ? アバター設定すると毎回勝手に新品に交換されるのだから一着という表現はいいのか?
「あら、アンタ、意外と細かいこと気にするのね。とりあえず、アンタ晩餐会に行くんでしょう? だからそれ用のドレスと、あとは使徒らしく聖女服ね」
「はぁ……」
「なあに? 気のない返事ね。安心しなさい。ちゃんとアンタの記憶からアンタの好みのデザインの聖女服にしておいたから」
……なんだか嫌な予感しかしないのだが。
「失礼ね。まあいいわ。それともう一つ」
「え? まだ何かあるんですか?」
「まだって何よ? それに、これは大事な話なの」
「はぁ」
「アンタ、ライブ配信機能、全然使ってないわよね?」
「え? ああ、そういえば……」
「これからはどんどん使ってもらうことになるわよ。だからアンタ、今度使い方を練習しておきなさい。仕送りの役にも立つでしょう?」
「はい?」
「じゃ、頑張るのよ」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて呼び止めるが、次の瞬間俺はベッドの上に戻ってきていたのだった。
「ああ! もう! どうしてアルテナ様はいつも説明が中途半端なのよ!」
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