第18話 コメント返しをしてみた(2)

 翌日、俺は何か動画のネタになるものはないかと考えてうろうろしてみたが、特に何も見つからなかった。


 俺も中身は男だが体は女なので、村の外に出ないようにときつく言われている。


 迷惑系VTuberではなく異世界旅行系VTuberなので、動画のネタのためだけにおかしな行動をして迷惑をかけることはしたくない。


 となると、できることはコメント返しぐらいか。


 あとはどこで撮影するかだが……。


◆◇◆


「異世界からこんにちは。リリス・サキュアです♪」


 リリスは今日も元気に視聴者に向かって極上のスマイルで挨拶をした。


「今日はですね。ミニョレ村の共用井戸の前にやってきました。ここではお水をこの釣瓶つるべを使ってみ上げるんです」


 リリスはそう言って釣瓶を井戸の中に放り投げた。するとすぐにバシャンという水音が聞こえてくる。


「よいしょ。んっ、ちょっと、これ、すごっ、重い……」


 リリスは顔を紅潮させつつも、なんとか釣瓶を引っ張り上げた。それからリリスは力尽きたように井戸枠の上へ釣瓶を乱暴に置く。


 かなり釣瓶は大きくうごいたものの、水が跳ねることはなかった。中にはそれほど水は入っていないのだろう。


「はぁはぁはぁ、井戸ってこんなに大変なんですね」


 リリスはそう言って釣瓶の中から両手で水をすくい、画面に差し出してきた。


「すごいきれいですね。飲料水だそうですよ」


 そう言ってリリスは手の中の水に口を付けた。


「んん! 美味しい! すごく美味しいお水です! すっきりしていて、でもどこか甘みがあって、お水ってこんなに違うんですね!」


 リリスは残った水をごくごくと飲み干した。


 その最中に手からは水がポタポタと零れ落ちてその胸元を濡らしていたのだが、リリスがそのことに気付いた様子はない。


「それでですね。今日はそんな美味しい水のある井戸の前から、二回目のコメント返しをしようと思います。いえーい♪」


 リリスは楽しそうに手をパチパチと叩いた。


「今回は、森の中で魔法を使ってみた動画のコメントにお返事しますね。それじゃあ、最初のコメントです。ええと、『水の魔法楽しそう。今度は他の魔法も見たいな』。はい。とっても楽しかったです♪ いいねっ♪」


 リリスは右手でサムズアップをしながらパチッとウィンクをするが、すぐにはにかんだ表情を浮かべる。


 そしていいねボタンを押すように右腕をカメラのほうへと伸ばしてきた。


「それじゃあ、次のコメントにいきます。『魔法の演出まじでどうなってんの? CGにしてはリアルすぎる』ってCGじゃないですよ。リアルですリアル。ほらっ!」


 そう言ってリリスは釣瓶に手をかざすと、釣瓶の中から細い水柱が立ちのぼる。


「次です。えっと、『くしゃみがかわいい』。えへっ、ちょっと恥ずかしいです。いいねっ♪」


 終始恥ずかしそうにしながらも、リリスはいいねボタンを押した。


「次は、『濡れた? 服濡れたよね?』」


 するとリリスはピンと来ていない様子で首をかしげた。


「はい、濡れちゃいました。ちょっと寒かったですけど、風邪はひきませんでした。えっと、コメントありがとうございます♪」


 リリスはそう言うと笑顔を浮かべ、いいねボタンを押した。


「次はですね。えっと、え? 透けてる? やだっ! ホントですか? 透けてなかったですよぉ。もー」


 リリスはそう言いながら恥ずかしそうに自分の頬を両手で隠す。


「次です。次! えっと、次のコメントは、『ポンな自称0歳リリスちゃんかわいい』? ポン? ポンってなんですか?」


 リリスはキョトンとした表情で首をかしげた。


「あ、それと、0歳は自称じゃないですからねっ」


 リリスは思い出したように訂正する。


「次は、『初めと終わりの決めゼリフが欲しい』。うーん、そうですかぁ。今の挨拶じゃダメですか? ならどんなのがいいんだろ? ちょっと考えてみますね♪」


 リリスはそう言うといいねボタンを押した。


「次は、『厨二病的な架空設定と目標(東京ドームでライブみたいな)、身長・体重・スリーサイズ教えて』? ええっ!? 厨二病ってどういうことですか?」


 リリスはそう言ってややオーバーなリアクションをした。


「架空じゃないので設定とかないですよ。ここはエンデガルドっていう世界らしいんですけど、私も生まれたばかりだからよく分からないです。目標は、どうしましょう? ドームライブとかは無理ですよねぇ。色々と旅してエンデガルドを紹介すること、かなぁ? 身長は、ごめんなさい。計ってないから分からないんですけど、ミニョレ村の女性たちと比べるとちょっと高いような気がします。スリーサイズも計れないので、Fカップということでどうでしょう? 体重は秘密です♡」


 リリスは恥ずかしそうにそう答えた。


「次は、『ポンなリリスちゃんかわいい』です。えっと、さっきもありましたけど、ポンってなんなんですか? 知らないので、良かったらコメントで教えてくださいね」


 リリスはそう言ってニッコリと微笑んだ。


「次ですね。えっと、『リリちゃん、可愛いうえにスタイル良くって最高! 今度はコスプレが見たいです!』。ええっ? コスプレですか?」


 リリスは少し悩んだような表情を浮かべる。


「えっと、はい。可愛いって言ってもらえてすごくうれしいです♪ コスプレは、そうですね。いい衣装があったら考えますけど、あんまり露出が多いのはちょっと勇気が出なそうです」


 リリスは恥ずかしそうにそう言った。


「それじゃあ次のコメント……ええっ? ちょっと待って? どうしてこんなにコスプレ希望のコメントがたくさんあるの?」


 リリスは目を白黒させている。


「えっと、『メイドコス、してください』『メイドのコスプレが見たいです』『メイド服を着て、お帰りなさいませご主人様って言ってください』って、みんなメイド好きすぎじゃないですか!?」


 リリスはさらに画面をスクロールしているようだ。


「あ、また! 『メイド服を着て欲しいです』。本当にメイド服が人気なんですね。日本では今メイド服が流行ってるんでしょうか? エンデガルドだと日本のことは分からないので、ぜひいろいろ教えてくださいね♪」


 リリスはそう言ってニッコリと微笑んだ。


「えっと、あとは……『次回も見るよ、お疲れ様!』。はい! ありがとうございます! 次回もまた見てくださいね。いいねっ♪」


 リリスはいいねボタンを押したような仕草をした。


「今日はこのへんで終わろうと思います。いいねボタン、チャンネル登録をしてもらえると嬉しいです。それじゃあ、また会いにきてくださいね。バイバーイ」


 リリスは笑顔のまま締めのセリフをしゃべると、右手を振って視聴者に別れを告げるのだった。

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