第40話 初受注
冒険者票を受け取るため、俺は冒険者ギルドへとやってきた。空いている受付カウンターへ行くと、昨日とは別の受付のお姉さんが営業スマイルで迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「昨日冒険者登録をしたので、冒険者票を受け取りに来ました」
「はい。お名前をお教えください」
「リリス・サキュアです」
「リリス・サキュアさんですね?」
そう言って受付のお姉さんは手元の紙をぺらぺらとめくり、それから俺の容姿を確認するかのようにじっと見つてくる。
「あの?」
「失礼しました。冒険者票の発行は完了しておりますので、少々お待ちください」
受付のお姉さんはそう言って奥へと歩いていく。そのまま待っていると、トレイを持って戻ってきた。そして木製のプレートを差し出してきた。
「こちらがリリス・サキュアさんの冒険者票となります。お名前と職業にお間違いがないか、ご確認ください」
プレートにはリリス・サキュア、職業が魔法使い、そして等級が見習いと彫られている。
「はい。大丈夫です」
「ではこちらの受領証にサインをお願いします」
「はい」
受領証にサインをして返すと、お姉さんはさらに説明を続ける。
「リリス・サキュアさんの冒険者等級は見習いですので、別の町へと移動するような依頼は原則としてお受けいただくことができません。私どもで適切な依頼をご紹介いたしますので、お仕事をされる際には受付カンターにてご相談ください」
「はい。せっかくなので何か仕事をしたいのですが……」
「かしこまりました。そうですね……」
お姉さんは俺のほうを何度か見ては、手元の紙束をぺらぺらとめくっていく。
「リリスさん、計算はできますか?」
「はい」
「では、一つ12トレの商品を三つ、7トレの商品を五つ買うとします。1トーラを支払った際のお釣りはいくらでしょうか?」
「え? トレ? トーラ?」
「もしや、お金をご存じない?」
「……すみません。1トーラはなんトレなんですか?」
「100トレで1トーラとなります」
「ええと、ということはお釣りは29トレですかね?」
「……正解です。計算はお得意なのでしょうか?」
「そうでしょうか? このくらいは普通だと思いますけれど……」
「なるほど。では失礼ですが、この国の通貨は分かりますか?」
「いえ」
「……わかりました。少々お待ちください」
お姉さんはそう言って再び奥へ行き、何かを持って戻ってきた。
「こちらから順に1トレ、5トレ、10トレの鉄貨となります」
「はい」
少しさびているが、大きさが違うのでこれは分かりやすい。
「こちらから順に1トーラ黄銅貨、5トーラ青銅貨、10トーラ青銅貨となります。100トーラ銀貨と1000トーラ金貨もございますが、一般人が触れる機会はありません」
「はい」
この1トーラ黄銅貨はたしかトマが俺を買おうとしたときに見せてきたものだ。青銅貨のほうは大きさが違うので、これも簡単に判別できそうだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「覚えられますか?」
「はい。大丈夫です」
「では、こちらの依頼などはいかがでしょうか? 中心街のとあるパン屋が臨時の売り子を募集しております」
「えっ? パン屋さんですか?」
パン屋の売り子? それって冒険者の仕事なのか?
「はい。パン屋です。日当は5トーラと平均的なものですし、初仕事としては悪くないと思います。先方のご希望も計算ができて売り子のできる女性ですので、適任ではないかと思いますが……」
「……はぁ。冒険者ってこう、魔物を退治したり薬草を採取したりするんじゃ……」
「そういった仕事もございますが、初仕事の方にお願いするような真似は致しません。魔物退治は適切な戦闘能力がある方にのみ、薬草採取は薬草を正確に見分け、適切な方法で採取する能力のある方にのみお願いしています」
「そ、そうですね……」
それはそうだ。ミニョレ村のようにゴブリンに襲われているのならゴブリンを退治できる腕前が必要だし、薬草の採取もきちんと薬草を持ってきてくれないと余計な手間が掛かってしまうだろう。
「それで、どうなさいますか? こちらのお仕事をお受けいただけますか?」
「はい。わかりました。お願いします」
こうして俺の冒険者としての初仕事はパン屋のバイトとなったのだった。
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