第97話 またまたのティータイム
ライブを終えた翌日、俺はまたもや大聖堂の中庭にやってきた。すでにレティシアとミレーヌは着席している。
「お! リリス! 来たな」
「うん」
俺が空いている席に座るなり、レティシアが話を切り出してきた。
「今回は上手くいったみたいじゃねーか」
「う、うん……」
どうやら今回も情報はアスタルテ教会に筒抜けらしい。
「で? 今回はなんの相談だ? 上手くいったのにすぐに来たってことはなんか行き詰まったんだろ?」
「う……」
レティシアはそこまで見抜いていたらしい。
「実は、裏切り者が誰なのか分からなくって――」
視聴者さんにアドバイスされたことをかいつまんで伝えると、レティシアは眉間にしわを寄せた。
「ボドワン隊長が? ちょっと考えられねぇけどなぁ」
「どうして?」
「ボドワン隊長、ポケットマネーで孤児院を運営してるんだよ。で、昔な。その孤児院に薬物中毒者が乱入してきてよ。そいつに預かってた子供たちを殺されたことがあるらしいんだよ。だからそんなボドワン隊長が麻薬の密売組織とつるむなんてあり得ねぇ話だと思うぜ。そもそも隊長に昇進したのだって当時の麻薬密売組織を壊滅させた功績がデカかったって聞いてるしな」
「そうなんだ……」
じゃあ、一体誰を疑ったらいいんだろう?
「おいおい、そんな顔すんなって。そんで、その手に持ってるのはなんだ?」
「え? あ、これ? これは記録の宝具といって、アルテナ様がくれたの」
「記録の宝具?」
「うん。レンズを向けてこのボタンを押すと記録ができて、このボタンを押すと記録が止まるの」
「お! アルテナ様の神器か! すげえな。ってことは、こいつがあればリリスがいなくても記録できるってことだな?」
「うん」
「にしても、いきなり神器を授けてくださるってことは、やっぱアルテナ様、相当焦ってるよな」
「え? どういうこと?」
「どういうことって、まさか知らないのか?」
「うん。たしか、イストール公が悪魔がどうとか言ってたけど……」
するとレティシアはギョッとした表情を浮かべた。ミレーヌも同じように驚いている。
「な、なあ。アルテナ様の神殿はここが最初の神殿なんだよな?」
「うん。多分……」
「他に使徒がいたりはするのか?」
「え? 聞いたことないかな」
「おいおい、マジかよ……」
レティシアはそう言って絶句した。
「え? えっと……」
俺が困っていると、レティシアは大きくため息をつき、真剣な表情で俺の目を見て口を開く。
「いいか? 神様の性質の大部分はな。最初の神殿を建立するときに、その神を信仰する民の祈りによって決まるんだ。だからいくら今アルテナ様が記録の女神として信じられていても、イストレアの民の大部分が悪魔だと思っていたら悪魔になっちまうんだ。だから麻薬とセットで覚えられたらそういう悪魔になる。もしそうなっちまったらあたしたちにはどうしようもねぇし、リリスとの仲も考えなきゃならなくなる」
「えっ? そんな……」
まさか悪魔って、本当にそのままの意味だったのか!?
「だからよ。もし麻薬の流通を止められず、アルテナ様が悪魔って認識が貧民街に広まったままだとよ。イストール公は貧民街の民を皆殺しにするしかなくなっちまうんだ。もうイストール公はアルテナ様を迎えると宣言してるからな」
「じゃ、じゃあ、どうして悪魔だなんて嘘を?」
「記録の女神がいたら困る奴なんていくらでもいるだろ? たとえば麻薬なんかを売って儲けてるやつとか、汚職やってるやつとかよ。だからこそ、イストール公は直々にリリスに頼んできたんじゃねーか?」
「あ……」
そういうことか。ようやく話がつながった。たしかにレティシアの言うとおりだ。
「ま、いいぜ。ここを押せば記録できて、ここを押せば記録が止まるんだな? 確認はどうするんだ?」
「え? あ、たぶんここのボタンを押せば……」
「お、こうか?」
レティシアは何回か記録の宝具をいじり、すぐに使い方を覚えた。
「お! これはすげぇな。じゃ、こいつは借りていくぜ」
「え?」
「誰が裏切り者か分からなくて困ってるんだろ?」
「それはそうだけど……」
「で、あたしらなら信用できるって話に来てくれたんだろ?」
「うん」
「なら任せとけって」
「う、うん。じゃあ、よろしくね」
「おう。それとよ」
「なあに?」
「リリスは捜査だけじゃなくて、地道にスラム街の奴らの誤解を解いて回るのもやったほうがいいんじゃねぇか?」
「え? どういうこと?」
「だってリリスは空を飛べるんだろ?」
「うん」
「それにあんだけ
ああ、なるほど。光の翼を生やした女が空からやってきて人助けをすれば、たしかに名声がアップしそうな気はする。
「うん、わかった。ありがとう」
「おうよ。それよりリリス、今晩予定は空いてるか?」
「え? うん。特に予定はないけど、どうしたの?」
「なら泊っていけよ」
「え?」
「ほら、久しぶりだしよ。な?」
「あ……」
獲物を狙うようなレティシアの目つきに、俺は思わずリオロンでの夜を思い出したのだった。
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