第36話 冒険者登録

 それから俺は冒険者登録をするため、イストレア大聖堂の隣にある冒険者ギルドへとやってきた。


 まさか大聖堂の隣に冒険者ギルドがあるというのは予想外だったのだが、なんでもここの冒険者ギルドはアスタルテ教の庇護下にあるらしい。


 そして冒険者ギルドが毎月お布施をする代わりに、冒険者が怪我をした場合はアスタルテ教の聖女が治療してくれるのだそうだ。


 魔物と戦う仕事をする以上は怪我は付き物なので、これは中々ありがたい福利厚生だ。


 俺はレティシアさんとミレーヌさんに連れられ、カウンターへとやってきた。すると小柄な女性が出てきて、ふんわりとした優しい笑顔で俺たちを出迎えてくれる。左目じりの泣きぼくろがチャーミングで、豊かな胸の膨らみと相まってなんとも色っぽい。


「レティシアさん、ミレーヌさん、お帰りなさい。お疲れ様でした」

「ソレーヌ、ありがとう。これが依頼完了証明書だ」


 ミレーヌさんはそう言って書類をソレーヌさんと呼ばれた受付の女性に手渡した。


 ソレーヌさんはその書類を確認し、テキパキと処理をしていく。


「依頼達成、おめでとうございます。ただ、このトマさんについての但し書きはどういうことでしょうか?」

「ああ、それは――」


 ミレーヌさんはミニョレ村でのことを説明した。


「そうでしたか。リリスさん、当ギルドの冒険者が大変失礼しました」


 ソレーヌさんはそう言って俺に謝罪してくれた。


「いえ。それにちゃんと反撃したから大丈夫です」

「そうでしたか……」

「それでな、ソレーヌ。リリスも冒険者として登録し、レティの護衛に加えることにした。手続きをお願いしたい」

「えっ!? レティシアさんの?」

「ええ、そうですわ。リリスさんは記録の女神アルテナ様の使徒でらして、魔法使いでらっしゃいますわ」


 駄女神の名前を聞いてソレーヌさんは一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐに真顔に戻る。


「かしこまりました。それでは、リリスさんを冒険者として登録させていただきます。使徒でらっしゃるということですので、フルネームをお教えください」

「はい。リリス・サキュアと申します」

「かしこまりました。リリス・サキュアさんですね。それでは冒険者票を作成しておきますので、こちらの引換証を持ってまた明日の午後以降にこちらのカウンターまでお越しください。冒険者についてのご説明は必要でしょうか?」

「お願いします」

「かしこまりました。冒険者とは当ギルドに登録されたメンバーを指し、様々な依頼を受けて解決することを生業とする職業です。冒険者には見習い、一般、特級という三つ等級がございまして、登録したばかりのリリスさんの等級は見習いとなります。一般に上がるためには一定期間問題を起こさないことに加え、当ギルドから依頼の遂行するにあたって十分な能力があると認定される必要がございます。特級は当ギルドが類まれなる能力があると認定した冒険者にのみ与えられるもので、当ギルドでは紫水晶アメジストの聖女でらっしゃるレティシア様のみとなります」

「え? じゃあ世界に一人だけなんですか?」

「いえ。冒険者ギルドは様々な町に組織がございまして、それぞれが冒険者の等級を決定しております。イストレアの冒険者ギルドに特級の冒険者はレティシア様のみですが、他の冒険者ギルドにはまた別の特級冒険者がいらっしゃいます」

「ということは、別の町に行ったらまた登録しないといけないんですか?」

「見習いの冒険者票は、登録した冒険者ギルドのみで有効となります。ですが一般以上の場合は登録した冒険者ギルドが後ろ盾となりますので、他の町の冒険者ギルドでも該当する等級の冒険者として依頼を受けることが可能です」

「あ、なるほど。わかりました」

「他にご質問はございますか?」

「依頼はどうやって受ければいいんですか?」

「こちらの受付カウンターへ朝七時から午後三時までの間にお越しください。受付の者が適切な依頼をご紹介いたします」

「わかりました。それで終わったらさっきのミレーヌさんのように依頼完了証明書を持ってくればいいんですか?」

「それは依頼によって変わります。依頼をご紹介させていただいた際に、どのような形で完了の証明をすれば良いかをご説明いたします」

「わかりました。ありがとうございます」

「他にご質問はございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「かしこまりました。それでは明日の午後以降にお待ちしております」

「よろしくお願いします」


 こうしてあっさりと俺の冒険者登録は完了したのだった。

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