第4話 はじめての動画投稿
イカ臭い匂いから逃れるため、俺は川から少し離れた場所へ移動した。
すると突然目の前に再びあのウィンドウが現れた。今度は再生ボタンではなく、電話のマークになっている。
俺は通話ボタンらしきものをタップしてみた。
「リリスちゃん、おめでとう。無事最初の食事をゲットしたようね」
「誰がリリスちゃんよ! 私にはリリス・サキュアという名前があるんだから……え?」
どういうことだ? 俺はちゃんと茂手内猛夫と言おうとしたはずなのに?
「そうよね。アンタはリリス・サキュアちゃんよ。分かってるじゃない」
「な、な、な……」
「それでね。アタシったら大切なことを言い忘れていたわ。配信する方法だけど、今みたいにウィンドを開けばいいわ」
「え?」
「だから、ウィンドウを開くように念じればいいのよ」
よく分からないがそう念じてみると目の前にウィンドウが現れ、そこには『初期アバターを設定してください』というメッセージが表示されている。
「あとはそこから好きな初期衣装を一つ選ぶといいわ。追加の衣装が欲しい場合は自分でなんとかするか、アタシの信徒を増やしなさい。信徒が増えればアンタにも色々と便宜を計ってあげられるようになるわ。あっちの世界でもインターネットが相手なら多少は無理なこともできるしね」
「えっ? じゃあ
朱里と剛というのは俺の妹と弟だ。
「ん? んー、そうね。出来るかもしれないわね」
「そっか……」
「じゃあ、がんばりなさい。アタシはいつでも見守っているわ」
「あ! ちょっと!」
だが通話は向こうから一方的に切られ、通話ウィンドウも消滅した。
どうやら話を聞く気はないようだ。
俺を殺した相手ではあるが、今はあいつに頼るしかない。二人のためにも、俺はここで立ち止まるわけにはいかない。
俺はすぐに配信用のウィンドウに目を移す。
するとそこには今の俺を
隣には選べる服が三つ並んでいた。
一つは黒ベースのすさまじく露出度の高い服だ。まさに淫魔が着るに相応しい感じの衣装で、悪堕ちしたヒロインなんかも着ていそうである。
だがこれを普段着にするのはどう考えても変態だろう。
却下だ。
もう一つは緑色のシャツにミニスカートといういかにもエルフっぽい格好だ。絶対領域もまぶしいわけだが、さすがにミニスカートを着る勇気はない。
これも却下だ。
最後の一つは白のワンピースだ。半袖で、スカートの丈もひざ下まである。清楚な服装だが、似合う人が着ないと野暮ったいと言われそうだ。
だが肌を隠せる服はこれしかないし、これなら俺でもロングコートを着ていると思えばなんとか着られそうだ。
俺はワンピースを選択し、OKボタンをタップした。
すると『設定を反映しますか?』と聞かれたのでそれを了承する。
俺の目の前が一瞬明るくなり、気が付けば俺は白のワンピースを着ていた。下着もいつの間にかしていて、巨大な胸もブラジャーで支えられている。
なんというか、下着があるだけでこれほど楽になるとは……。
「……すごいわね」
思わずそう
それに配信という意味で言えば、思わず男言葉がポロリと出てしまうよりはマシだろう。
そう、俺は役者だ。今まではしがないサラリーマンだったが、今度はVTuberの中の人になった。そう思えばいいんだ。
大事なことは高校生の妹と中学生の弟のために稼いで仕送りをすることだ。
そう考えた俺は早速動画を撮影すべく、配信用のウィンドウを調べてみる。
なるほど。動画の撮影から編集、プレビュー、投稿、さらにライブ配信まですべてこのウィンドウからできるようだ。
撮影は自動で行われるらしく、俺を撮影するものと俺が見たものを録画するものの二つがあるようだ。
そしてなんと驚いたことに、俺を撮影している動画は後から自由にカメラのアングルや位置を変更できるらしい。
普通のカメラではあり得ない話だが、あんな駄女神でも一応は神様ということなのだろう。
自動保存された動画は一日経つと消えてしまうらしいが、シーンを指定して残しておくこともできる。要するに、ここから切り出して動画を作れということだ。
ただ録画できる容量には限界があり、それを増やすにはあの駄女神の信者を増やす必要があるらしい。
何やらいいように利用されている気もするが、そこはこの際目をつぶってやろう。
とにかく俺はVTuberとして動画を投稿して、二人が大学に行けるだけの学費と生活費を稼がなければならないのだ。
そのためにも動画を投稿しなければいけないわけだが……やはりまずは自己紹介動画だろうな。
どこで撮るのがいいだろうか?
しばらく考えた末、生まれたという大木の根元へ向かったのだった。
◆◇◆
とまあ、そんなわけで俺は大木の根元であの動画を撮影し、GodTubeへと投稿するに至ったわけだ。
撮影してみて分かったが、しゃべると勝手に女言葉が出てくるのは本当に助かった。多分、これがなかったらもっとぎこちない動画になっていたと思う。
それに仕草だって勝手にものすごくかわいくなっている。
アイデンティティが否定されているように感じて気持ち悪かったわけだが、これはこれでありかもしれない。
少し前向きな気持ちになれた俺はウィンドウを閉じ、これからのことを考えるのだった。
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次回は日本でのお話ですが、色々な意味で悲劇が訪れます。お楽しみに!
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