第104話 撮影されたもの

 あまりの混雑状況に警備隊が来てしまい、にっちもさっちも行かなくなった俺は散歩を中止し、大聖堂にやってきた。


「へぇ。つーことは、リリスはもうあたしより顔が知られてるな。さすが、貧民街の救世主だ」


 中庭のいつもの席で、紅茶のカップを傾けながらレティシアはニヤニヤしながらそうからかってきた。


「ひ、貧民街の救世主?」

「お? 知らなかったのか? 毎日ああやって自分の手柄を主張してんだ。有名にもなるってもんだろ?」

「それはそうだけど貧民街の救世主って……」

「そりゃあ、実際に罪人が減って、貧民街が目に見えて安全になったからな。それに……」

「それに?」

「こーんだけ美人が空から降りてきて、弱い者を助けるんだ。男どもからもかなり人気があるって聞いたぜ?」

「え?」


 それってもしかして……。


「なんでも、リリスが再生の宝珠を設置してる広場は夜になると男どもが群がってるって話だぜ。そんで翌朝は……」


 リリスはそう言って鼻をつまむような仕草をした。


 ま、まさかそれって、あの広場で俺の映像をオカズに自家発電してるってことか?


 いやいやいやいや、さすがにそれは……いや、ちょっと待てよ?


 よく考えれば仕方ないかもしれない。警備隊の制服は明らかに胸のサイズが合っていないせいでとんでもなくパツパツだ。自分で言うのもなんだが、エロフなだけあって顔はいいし、胸以外のスタイルも抜群だ。中高生くらいならその写真をオカズに自家発電していても不思議はない。


 しかもAVはおろか、ヌードやグラビアの写真すら存在しないこの世界で、セックスする相手もいないとなれば、動画でヌこうと考える男が出てきても不思議はない。


「うーん、仕方ないね。男の人だもん。無関係の女性を襲うよりはよほどマシなんじゃないかな」

「お? リリス、随分と寛容じゃねーか」

「でも仕方ないし、直接何かされなければいいかな」

「ま、それもそうか。そういやあたしに粉かけてきた挙句、しつこく付きまとってきたエロオヤジもいたぐれーだしな。それに比べりゃカワイイもんか」

「え? 何それ? 聖女なのに?」

「ああ。つっても、あたしが聖女始める前の話だからよ。かなり昔の話だぜ?」

「そのときのレティ、すごかったんだよ。ものすごく怒ってそいつの顔面をボコボコにしちゃって……」


 相変わらずレティシアの前だと口調がガラリと変わるミレーヌが横からいきなりそんなことを暴露してきた。


「お、おい。ミレーヌ、よせよ。照れるじゃねーか」

「褒めてないよぅ」


 そう言って二人は楽しそうに笑い合う。


「ま! それからちょっと抗争になりかけたんだけどよ。全部返り討ちにして、今は聖女やってるから向こうも手出し出来なくなったって感じだな」


 こ、抗争? 一体誰を殴ったのだろうか?


 あまりに不穏当な発言に驚いていると扉が開き、一人の聖職者がこちらに近づいてきた。


「あら? どうしましたか?」

「聖女様、こちらをお届けに上がりました」


 そういって何かをくるんでいるらしい布の塊をレティシアに手渡した。


「ありがとう。下がっていいわ」

「はい」


 聖女の仮面をかぶったレティシアがそう言うと、聖職者の人はすぐに中庭から出ていった。


「今のは?」

「おう。預けといた記録の宝具が帰ってきたぜ。つーことは、多分なんかいい動画が撮れたんじゃねーか?」

「本当?」

「分かんねーけどよ。見てみようぜ」

「うん」


 布の中から出てきた記録の宝具を受け取った。するとウィンドウが現れ、『撮影された動画を取り込みますか?』と表示されたので俺は『はい』を押す。


 すると動画が次々といつもの場所に保存されていった。


「えっと、どれかな?」

「さあな。ん? メモが入ってんな。なあ、いくつか日時が書かれてるぜ。記録の時間も分かるんだよな?」

「うん」


 レティシアの差し出したメモにはいくつもの日時が記されており、一番最近のものは昨日の深夜だ。


「最初から見てみるね」


 俺がまず最初に指定された日時の動画を再生してみると、そこには知らない建物が……いや? ちょっと待て! 周りの建物から考えると、映ってるこの建物、あの処分業者のじゃないか!


 そうして動画を見ていると、なんと副長が一人で建物に入っていくのが映っていた。そのすぐ後に何やらやたらと高級な服を着た人相の悪い男が入っていった。


「げっ! マジかよ!」

「え? 今の男を知ってるの?」

「知ってるも何も、こいつがあたしに付きまとってきたエロオヤジだぜ」

「え? ちょっと待って。この人って四十歳くらいだよね?」

「ああ。正確には今四十七歳だな」

「え? 今、四十七歳? えっと、ちょっと聞いていい?」

「なんだ?」

「聖女を始めたのって……」

「ああ。十一歳になってすぐだったかな?」


 十一歳!? ってことは、聖女を始める前にストーカーされたってことは、十歳の女の子をすーとーカーしたってことか?


 な、なんというロリコン……いやいやいや、ちょっと待て! 返り討ちにした挙句に抗争!?


「それがどうかしたのか?」


 あまりのことに絶句している俺をレティシアは不思議そうに見つめてくる。


 ええと、まあ、うん。いいや。きっとこれは考えてはいけないことに違いない。


「な、なんでもないよ。それで、このエロオヤジって……」

「こいつはランドリュー、デジレファミリーっつーマフィアのボスだぜ」

「えっ!?」


 マフィアの……ボス? え? 抗争ってそういうこと!?


 いやいやいや、だからどうやって十歳の少女が……あれ? ちょっと待て? 二人が出会ったのって、レティシアが聖女になる前の冒険者って言ってなかったっけ?


 え? 十歳ですでに冒険者!?


「いやあ、こいつはびっくりだな。まさかあの副長とデジレファミリーのトップが裏で繋がってるたーな」


 おっと、そうだった。今は捜査だった。


 なんとか頭を切り替え、撮影された映像の続きを見る。するとしばらくしてロリコンエロオヤジが一人の中年男性に見送られて立ち去っていった。それからほんの数分で副長が同じ男に見送られながら出てくる。


「あー、これは副長、完全に黒なんだろうな。次の動画も確認してみようぜ」

「うん」


 それから俺たちは記録の宝具で録画された他の動画を確認していくのだった。

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