第24話 レティシアの慈善事業
朝起きてみると、なんとチャンネル登録者数が目標としていた千人を越えていた。これまでは百人もいなかったので、実に十倍以上に増えている。
なぜ千人を目標にしていたかというと、チャンネル登録者数千人というのが収益化の基準の一つになっているからだ。
もう一つの条件は一年間の総動画再生時間が四千時間を超えるというものだが、まだ動画が少ないうえに一本の動画もそれほど長くはないため、こちらはまだまだ時間がかかりそうだ。
朱里と剛に異世界から仕送りをするには収益化が必要になるため、時間はかかったとしてもなんとか達成したい。
そんなことを考えつつも朝食の終わった食堂を掃除していると、レティシアさんがやってきた。
「リリスさん、おはようございます」
「おはようございます」
「今日からミレーヌたちは森でゴブリンの駆除を始めますわ。リリスさんは良かったらわたくしとご一緒しませんか?」
「いいですけど、何をするんですか?」
「ええ。わたくし、慈善事業として村の皆様の治療を行うのですわ」
……どういうことだろうか?
レティシアさん以外の冒険者が外に行ったということは、村は安全と判断しているのだろう。
となると、俺を連れていく意味はあまりないはずだが……。
俺が
「おかしな意味ではありませんわ。せっかくですから、わたくしたちの女神アスタルテ様を知っていただきたいというだけです。それにイストール公国の国教はアスタルテ教なのですから、森から出てきたばかりのリリスさんにとってもアスタルテ様をお知りいただくことは悪い話ではありませんわ」
なるほど。要は勧誘ということなのだろう。
一応あの駄女神の信者を増やさないといけないので入信することはないが、他の宗教をまったく知らないというのもそれはそれで問題だろう。
どこでどんなトラブルになるか分かったものではないし、何よりエロフが敵視されていないかを知る必要がある。
「そういうことならぜひ」
こうして俺はレティシアさんの慈善事業に同行させてもらうことになったのだった。
◆◇◆
俺たちが教会に行くと、そこにはすでに多くの人が集まり、列を作っていた。
レティシアさんは教会の中に入ると祭壇の前に立つ。すると外で待っていた人たちがぞろぞろと教会の中に入り、レティシアさんの前で一列に並んだ。
「どうしましたか?」
先頭に並んでいた中年のおばさんにレティシアさんが優しく尋ねる。
「はい。実は昔からずっと腰が痛くてたまらないんです」
「そうでしたか。大丈夫です。アスタルテ様はあなたを癒してくださいますわ」
そう言ってレティシアさんはおばさんの腰に手を当て、何かの魔法をかけた。するとレティシアさんの手が淡く光る。
そのまま十分ほどして、レティシアさんはおばさんの腰から手を離した。
「もう大丈夫ですよ」
「っ!? い、痛くない! ああ! 聖女様! アスタルテ様! ありがとうございます!」
「ええ。アスタルテ様はいつでもあなたを見守っていますわ」
「ありがとうございます!」
こうしてすっかり元気になったおばさんは何度もお礼を言いながら教会から出ていった。
「それでは次の方」
こうしてレティシアさんは並んでいる人の話を聞き、次々と治療をしていったのだった。
◆◇◆
やがて日が暮れるころ、並んでいた村人たちの治療がすべて終わった。
レティシアさんは少し疲れていそうではあるものの、しっかりと自分の足で歩いてクロエさんの宿を目指す。
「リリスさん、いかがでしたか?」
「はい。驚きました。ただ、お金を取らなくて大丈夫なんですか?」
「ええ。わたくしの旅の費用はすべて教会が支払っています。ですから、わたくしがお金のことをきにする必要などありませんわ。教会には富める者が寄付をします。その寄付されたお金を使ってわたくしたちが貧しい者、困っている者に手を差し伸べる。これが豊穣の女神アスタルテ様の教える正しい道です」
「そうですか……」
なんだか思っていたよりもかなりまともだ。
こうして無料で治療を受けられる機会はあまりないのかもしれないが、こうして無償で救われた経験をした人はきっと熱烈な信者になることだろう。
それから俺たちは他愛もない話をしつつ、夕暮れのミニョレ村を歩くのだった。
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割とまともな宗教だったようです。次回は森から帰ってきた冒険者たちの間で何やらトラブルが……?
どうぞお楽しみに!
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