第61話 目覚め

 それからしばらく廃砦の中を探索し、すべてのオークを殲滅するべく精気を絞りとって回った。


 ここにいるオークは普通のオークではない。統制の取れた行動ができる知能の高いオークなのだ。一匹たりとも生かしておくわけにはいかない。


 そうしているうちに俺は不思議な感覚を覚え、思わずレティシアに尋ねる。


「ねえ、レティシア」

「ん? どうした?」

「なんだかあっちにオークがいる気がするんだけど……」


 レティシアは俺の指さした方向をじっと見たが、すぐに首を横に振った。


「そうなのか? あたしは何も感じねーな。ミレーヌ、何か感じるか?」


 するとミレーヌさんも同じ方向をじっと見て、神経を集中させる。


「言われてみれば……気配が……ある、ような?」


 ミレーヌさんもあまりピンときてはいない様子だ。


「うーん? 気のせいかな? ねぇ、ちょっと行ってみてきていい?」

「ああ、いいぜ。あたしたちも一緒に行こうぜ」

「うん」


 俺はオークがいる気がしたほうへと薄暗い廃砦の中を歩いていく。


 そうして突き当たった先で曲がろうと右を見た瞬間、通路の先からオークが顔を出した。


「うわっ……」

「本当にいるなんて……」


 あー、なんだろう。もしかしてオークの精気を食べたせいでエロフとしての力が増して、獲物がどこにいるか分かるようになった的な話だろうか?


 嬉しいような悲しいような、なんとも複雑な気分だ。


「ぶひ? ぶひひひひ」


 オークのほうはというと女が三人もいることに喜んでいるようで、股間の巨大な棒を直立させながらこちらに向かってくる。


 俺はすぐさま精気を搾り取った。


 もう何度見たか分からない光景だが、オークはイカ臭い液体をばら撒きながら地面に崩れ落ちた。


 ふぅ。またつまらぬ精気を絞ってしまった。


 などというどうでもいいことを考えながら俺はオークの横をすり抜け、その先にいるオークたちからも精気を搾り取る。


「はぁ」


 再びの惨状に思わずため息をつく。


 あまり見たい光景ではないが仕方がない。これも世のため人のためだし、ついでに腹も満たされる。


 俺は次のオークがいる感覚のある場所へと足を向けるのだった。


◆◇◆


 砦中を歩き回り、徹底的にオークの精気を絞って回った結果、ついにオークの気配を一切感じなくなった。


「うーん、もうオークはいないかな?」

「本当か?」

「うん、多分もういないと思う」

「そうか。リリス、すげぇな。ありがとう、助かったぜ」

「いいよ。私はレティシアの護衛だからね。それに私もあんな連中、放っておけなかったし」

「そっか。そうだよな。やっぱリリスはいい奴だよな」

「え? そう? 本当に?」

「ああ、本当だって。なぁ? ミレーヌ?」

「うん。リリスはすごくいい娘だよ。それに私たちの恩人だし」

「恩人だなんて……」

「だって、リリスがいなかったら私たち、きっとダメだったもん。それにミニョレ村のときだって。だから、ありがとう、リリス」

「あ……えっと、はい。どういたしまして」

「もう、リリスったら……そうだ、リリス。お願いがあるんだけど」

「お願いですか?」

「うん。私のこともレティみたいに呼び捨てで呼んで? それに敬語もなしで。もっと仲よくしよう?」

「え……あ、えっと、うん、わかった。ミレーヌ、よろしくね」

「うん。よろしくね、リリス」


 するとミレーヌは普段の凛々しい剣士の雰囲気を微塵も感じさせないような可愛らしい笑みを浮かべた。


 う、この笑顔は……。


「よし、じゃあ今度こそルイ様を見つけるとするか」

「うん」


 こうして俺たちは廃砦の探索を再開するのだった。


◆◇◆

 

 それからしばらく廃砦を探索し、少し時間は掛かってしまったものの、ようやくルイ様たちが捕らえられている地下牢への入口を見つけた。


 時間が掛かった理由だが、俺たちは先に攫われた女性たちが捕らえられている牢屋を発見し、その対処をする必要に迫られたからだ。


 オークによって凌辱されてしまった女性たちの様子はひどいもので、とても見ていられないほどだった。ミニョレ村のゴブリンのときもひどかったが、なんでこんな生物が存在しているのだろうか?


 どこぞのエロゲかエロ漫画かというようなシチュエーションで、きっと一部界隈では人気があるジャンルなのだと思う。だが、あれは空想の世界だから許されることなのだ。


 目の前にあるこの理不尽な現実に俺は憤りを覚えずにはいられない。


 と、その話はさておき、ルイ様たちが捕らえられている地下牢の通路に入って俺たちが目にしたのは、すっかり絶望しきった討伐隊の兵士たちの姿だった。


 俺たちが来たことにも気付いていない様子で、皆一様に牢屋の壁に背中をもたれ、地面や虚空をボーっと見つめている。中には何かを小声でぶつぶつとつぶやいている人もいる始末だ。


「ねえ、これって……」

「……残念ですわね。結界はもう解除されていますのに」


 レティシアが聖女の仮面を被りながら、珍しく辛辣な答えを返してきた。


 いや、残念というのはかなりオブラートに包んだ表現か。伊達に長年聖女様の仮面を被り続けているだけはある。


 などとどうでもいいことに感心しつつも、俺たちは手分けして通路の左右に並ぶ鉄格子で仕切られた部屋を確認していく。


 するとその一番奥の部屋にルイ様の姿があった。


 ルイ様も絶望しているようで、他の兵士たちと同じように背中を壁にもたれながら地面に座り、虚空を見つめながら何かをぼそぼそと呟いている。


「ああ、リリス嬢。そんな……オークなんかに……」

「はい? 私がどうしましたか?」

「え?」


 ルイ様がピクリと反応し、俺のほうへと視線を一瞬動かしたが、すぐに視線を地面に戻す。


「ああ、幻覚まで見えるなんて。今ごろリリス嬢はあのオークに……うっ」


 つらそうに呟いてはいるものの、どことなく恍惚とした表情をしているのはなぜだろうか?


 んっ? あれ? ルイ様の股間の息子が……?


 あ! まさかルイ様、そんな性癖が!?


「ルイ様! リリスは無事ですわ! わたくしもミレーヌも無事ですわ。オークの王ゲラシムはリリスが討ちましたのよ」

「……え? レティシア様?」

「そうですわ。もう結界もないのだから体は動かせますでしょう?」

「っ!?!?!?」


 ルイ様は目を見開き立ち上がる。


「リ、リリス嬢? ご無事……なのですか?」

「はい。何もされていませんよ」


 するとルイ様は心底ほっとしたような表情を浮かべたが、すぐにハッとした表情となる。そして慌てて股間を押さえるとくるりと後ろを向き、うわずった声で謝ってくる。


「リ、リ、リ、リリス嬢、も、も、も、申し訳ありません!」

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