第12話
「数学の解答用紙を返して欲しいんだけど、部屋入ってもいいか?」
「悪いけど、今ドアを開けるつもりはないよ。」
夏川はそう言って、黙り込んでしまった。
「………」
「そうか、たしかにあっていきなり部屋に人をあげるなんて抵抗あるよな!あはは…。」
あたりがしんとしている。空気が重い。
おおかた予想はしていたが、夏川は人を拒絶している。
これ以上長居しても、お互いのためにはならない。今日はこれぐらいで帰る方が良さそうだ…。
「悪いな!夏川、今日はこのくらいにして帰らせてもらうよ!数学の解答用紙はまた今度でいいよ。」
「………」
夏川の返事はなかった。
俺はそのまま部屋を後にした。
階段を降りて、1階に戻ると委員長と太一君がいた。
すると何やら心配そうな顔つきをしていた太一君が話しかけてきた。
「春木さん、お兄ちゃんはどうでしたか?お話をすることはできましたか?」
「正直に言うと自己紹介ぐらいしかできなかったな。だいぶ拒絶されてる感じだったよ。」
「解答用紙は返してもらったの?」
俺と太一君が話していると委員長がそう言って会話に入ってきた。
「いや…、部屋から出てきてくれなかったから無理だったよ。」
「そう…。やっぱりそうなったわね。」
「だから、またきて夏川の都合がいい時に返してもらうよ!」
2人がすごく、暗い雰囲気だったのでそれをかき消すように俺は元気にそう言った。
「今回はダメだったかもしれないけど、次は面と向かって会ってくれなくても少しは話しかけてくれるかもしれないしな!」
「あなた、相当プラス思考なのね。」
「ああ!」
〜〜〜〜
外も暗くなってきたので、そろそろ家に帰ることにした。
俺と委員長が玄関を出て、帰ろうとすると最後に太一君が話しかけてきた。
「あの、今日はわざわざ来てくれてありがとうございました。…できればまたきて少しでもお兄ちゃんに会ってあげてほしいです。」
「おう!また行かせてもらうよ!今日はありがとな。またな!太一君。」
俺はそう言い、委員長ともわかれて自分の家の帰り道を歩いていた。
何があったかは知らないけどそれなりの理由があって夏川は今不登校になってしまっている。
あんな感じでずっと部屋に閉じこもり、他人を拒絶し、家族や幼馴染にも心を開くことがなくなってしまったように俺は今回そう感じた。
俺と夏川は別に特別仲のいい友達とかではない。それどころか今日初めて会って会話をしたレベルだ。同じクラスメイトとはいえ、ほとんど他人である。
別に俺が何かをできるわけでもないし、夏川のことを気にかける義理もない。
なのに頭にふと呼び起こされる記憶、昔仲の良かった友達、そしてその友達の兄貴の顔が浮かぶ。
心に深い傷を負い、自分の殻に閉じこもってしまっている現状。
「まるでアイツみたいだな…。」
お節介だと言うのは百も承知だった。
それでも俺はどうしても夏川のことを放っておけなかった。
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