第48話
「甘ったれたこと言ってんじゃねぇぞ!!
夏川ぁぁ!!!」
春木くんは大きな声を上げて僕にそう言い放つ。
その怒声はなぜか僕の心に響き渡る。
そして僕は一瞬呆気に取られてしまう。
「…!!…」
僕はその言葉に何も言い返せなかった。
春木くんの突然のその行動は間違いなく僕も香恋も予想外のことだった。
「ちょっと!春木くん!!あなた、どういうつもりなの!?」
香恋が止めようとするが春木くんは止まらない。
「病気じゃなくても…!この世のみんな、多かれ少なかれ何かしらの問題を抱えて生きているんだよ!!!!生きるのが辛く、悲しく、苦しいと思っているのはお前だけじゃないんだよ!!!!!!」
先程までの空気は一変する。
腹の底から目一杯の力を込めて出されたその言葉は今まで誰の言葉よりも心に来る。
同時に僕も香恋も春木くんの様子に圧倒されてしまった。
凄まじい咆哮だった。
ハァと春木くんは一呼吸をあけて話し始める。
「正直、がっかりだ。夏川」
「なっ!?…」
「何があったかは知らないけど俺はお前がもう少し骨のあるやつだと思っていたよ。」
「……ぐっ……」
春木くんのその言葉に僕は何も言い返すことができない。
うまく説明することができないけど春木くんの言葉からは何か他の人とは違うものを感じ取ることができた。
だからこそ僕は悔しかった。
今の僕では春木くんや香恋の気持ちに応えることができないからだ。
何よりいつも優しく、僕に寄り添ってくれていた春木くんから言われたという事実がでかかった。
「学校が怖いならずっと部屋に逃げていればいい。あとは勝手にしろ」
春木くんはそう言って、僕の部屋から立ち去って行く。
いつもとは違う、完全に僕を見放しているその冷たく乾いた声色で僕にそう言い放つ。
スタスタと廊下を歩いていく音が聞こえる。
一瞬にすぎないこの時間、僕は思考を巡らせる。
春木くんの言っていることは間違ってない。辛いのは僕だけじゃないのも知っている。
だけど…、だけど…、悔しい…。
こんな一方的に言われて何一つ反論することができない今の自分が悔しくて仕方なかった。
なんでだよ!なんで…
全部僕が悪いのか!?
僕だって…好きでこんなふうになったわけじゃないのに!
春木くんは何も知らないのに!
どうしてこんなに言われないとダメなんだよ!
これまでに溜まってきたやり場のなかった鬱憤。ずっと吐き出すことのできなかった本音。自分だけこのまま取り残されてしまう危機感。
もうとうに限界だったのだ。
自分の至らなさが招いたこの現状、ずっと殻に閉じこもっていた。
だけと決して逃げ続けてこうなったわけではなかった。
病気になりながらも頑張りそして結果的に今のような状況になった。
春木桜と出会い、少なくとも心境は変わりかけていた。
徐々に心を許していた人から告げられた言葉。
夏川聡太の気持ちは爆発する。
ふざけるな!ふざけるな!
ふざけるなよ!
クソッ!
この気持ちを誰かにぶつけるのはおかしいことだと分かっている。けど止められなかった。気づいたら僕はドアを開けていた。
そして背を向けて立ち去ろうとする男の背中が目に入る。
勢いよく彼のもとに走り、僕は思いっきり拳に力を込める。
悔しさ、苦しさ、寂しさ、悲しさ、惨めさ、僕がこの期間に感じた全ての怒りを彼にぶつけるため僕は拳を彼へと振るうのであった。
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