第33.5話

 モールからの帰り道、僕は香恋と一緒に帰路についていた。

すると香恋が気になる話題をあげた。


「そういえば、あのモールちゃんと営業していたわね。」

「え?どういうこと?」


 僕は香恋の言っている意味が分からなかった。


 僕が話の意図を理解してないのに気づくと香恋は少し呆れた様子だった。


「聡太はニュースを見てないのかしら?」

「いやー、最近はあまり見てないかな」

「はぁ…」


 香恋は軽くため息をつくと分かりやすく解説してくれた。


「5月にあったモール事件それは知ってるわよね?」

「うん。あの時めっちゃニュースで騒がれていたやつだよね?」

「ええ、今日行ったあのモールはその事件があった場所よ。」

「え!?そうなの!?だけど今日行った感じは普通だったけど…」

「あのモールはA棟、B棟で2つの建物で分かれているのよ。そして事件が起きたのはB棟だった。」

「じゃあ、今日僕たちが行ったのはA棟ってことかな?」


 僕がそう聞くと香恋は首を縦に振った。


「まだB棟は閉鎖されているみたいだわ。修復に時間がかかるみたい。」

「正直その事件のことすっかり忘れていたよ。」


 僕はつい思ったことを口にした。

その事件で辛い目にあった人がいるということは頭では理解している。

だけど実際に僕はその被害にあっていない。

だから結局は他人事のようにニュースを見て、そして自然と忘れていた。


「たしかにこういうことは私たちが考えても仕方のないことなのは確かね。だけど亡くなられた方もいるのよ…。」

「負傷者が多かったのは覚えているけど死亡者がいたのは覚えてないかな」


 僕がそういうと香恋は少しだけ表情こわばらせながら答えた。


「私も詳しい数は把握してないけど亡くなられた内の1人は高校3年生の女の人だったみたいだわ…。」


 そんな人まで被害にあったのか…。


「その人の年齢は私の姉さんの2つ下のはずよ。それを考えたらなんだかやるせない気持ちになった…。ただそれだけの理由だけど何故かずっと頭の中に残っていたわ」


 おそらく香恋はその人とかおり姉さんを重ねてしまったのかもしれない…。

もしその被害にあったのがかおり姉さんだったら…、そう考えたのかもしれないな。


 香恋はよく勘違いされやすいけど本当はすごく優しくてそして誰よりも繊細な人だ。


「なんて…少し暗い雰囲気にしてしまったわね。まぁ…、要するに私が言いたいのは…」

「自分の大好きなお姉さんがもしいなくなってしまったら悲しいってことかな?」


 香恋が言おうとした言葉を遮って僕は少し冗談気味に言った。

すると案の定香恋の顔は般若のように険しい顔になった。


「聡太…、言いたいことはそれだけかしら?」


 そう言って香恋が詰め寄ってくる。


「ごめん!ごめん!冗談だよ」


僕が必死に謝ると香恋はため息をついていつもの様子に戻った。


「まったく…」

「だけど香恋も素直じゃないよね。そんなに大好きならもう少し自分からかおり姉さんや香奈美ちゃんに歩み寄った方がいいんじゃないのかな?」

「余計なお世話よ。」


 香恋はいつものような感じでそう答えた。


 香恋がかおり姉さんや香奈美ちゃんと仲良くなれるのはもう少し先になりそうだな。

僕は香恋の姿を見てそう思うのであった。


〜〜〜〜


 そして冬が終わり3月になった。

今日は先輩たちが旅立つ日である。

東中学は卒業式の日、在校生は学校に行かなくて良いが僕はお世話になった部活の先輩に挨拶をしに行った。

ちなみに香恋も誘ったけど交流のある人がいなかったみたいなので来なかった。


 先輩たちは皆写真を撮ったり、泣きながらみんなと話していたりしている。

中学3年間で仲良くなっても皆が皆同じ高校に行くわけではない。


 僕は離れた場所でそんな先輩たちの姿を見ている。


 僕も卒業する時はみんなとこうやってお別れするのかな…。

ふとそんなことを考えてしまった。


 すると部活の主将だった先輩が僕がいることに気づいてくれた。

先輩はわざわざ僕の近くに来てくれた。


「なんだ?来てくれたのか?夏川」

「もちろんですよ。お世話になった先輩方の旅立ちの日なんですから。」


 僕がそういうと先輩は嬉しそうだった。


「そうか。お前と野球ができて楽しかった。」


 先輩は笑顔でそう言った。

その言葉は僕にとって素直に嬉しかった。


「僕もです。今までありがとうございました。」


 僕はそう言って頭を下げた。


「ああ!夏川、お前の今後の活躍楽しみにしてるぞ!頑張れよ!」

「はい!」


 先輩はそう言って、みんなのところに戻った。


 こうして僕の中学1年生は終わった。

来月からは2年生になる。


「よし!」


 僕はみんなに気づかれないように静かに気合いを入れた。


 だが…、ここから僕の日常は徐々に崩壊していく。

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