第34話

「聡太!いい加減起きなさい!」


 母はそう言って、僕の布団を剥いだ。


「う、まだ…眠い」


 意識がまだ覚醒してない状態で朦朧としながら布団を持っている母に言った。


「何言っているの!早く学校に行かないと遅刻するわよ!」


 いつも優しい母が珍しくやや強めの口調だったので僕は枕元に置いてあるスマホで時間をみると時刻は8時だった。


「え!?ちょっともうこんな時間なの?」


 僕は慌てて布団から出て、制服に着替え始めた。


「ちょっとお母さん!こんな時間まで放っておくなんて。もっと早くに起こしてよ」


 寝坊したのは自己責任だが寝起きで気が動転していた僕は母に八つ当たりをしてしまった。

それを聞いた母は呆れながら答えた。


「何回も起こしたけど聡太が起きなかっただけでしょ!まったく…、今まで自分でアラームセットして起きていたのに今年になってから人が変わったかのように朝に弱くなったわね。」


 僕は母が言っていることに返事をしないでそのまま学校に行く準備を続けた。


「最近夜更かしでもしているの?ちゃんと夜は寝ないとダメよ!」

「分かってるよ!そんなの!だけど最近夜になっても眠れないんだよ!」


 あまりにも母が口うるさく言ってくるので寝起きでしかも急いでいたので少しイラッとしてしまったので言い返してしまった。


「とりあえずもう行ってくるよ!」


 なんだか母と気まずくなったので僕は足早に学校に向かうことにした。


「朝ごはんはどうするのよ!」

「今日はいいよ」


 僕はそう言って急いで学校に向かった。


〜〜〜〜


「遅刻なんて珍しいわね」


 そう言って香恋は机に顔を伏せていた僕に話しかけてきた。


「今朝寝坊しちゃって…、遅刻してしまったよ。」


 僕が顔を上げてそう言うと、香恋は納得してない様子だった。


「聡太、最近ちゃんと寝てないんじゃないの?」

「なんでそう思うの?」

「ここ最近ずっと目の下にくまがあるわ。それに顔色も少し悪いわ。」


 さすが幼馴染だよ…。

香恋がそこまで僕を見ているとは思わなかった。正直驚いた。

だけど香恋に余計な心配はさせたくないな。


「気のせいだよ」


 僕は愛想笑いを浮かべながらそう言って誤魔化した。


「本当かしら?聡太寝ないで夜に何をしているのかしら?」


 香恋は僕が言ったことなどまったく信じない感じだった。それどころかジト目でこちらを疑いながら見てくる。


「いや本当だって…」


 やっぱり香恋に誤魔化しは効かないようだ。

諦めて最近の現状を素直に相談しようとした瞬間、同じ野球部の男子が話しかけてきた。


「よおー!お前ら朝から熱々だな!さすが我がクラスが誇る幼馴染カップルだな」


 男子生徒はからかいながら僕たちのところに来る。

1年の頃からだったがこのクラスの人たちは男女が話していたらすぐに付き合っているだのと不粋な勘ぐりをしてくる。

僕たちも去年からずっと何度もこのようなイジりを受けてきた。

僕は笑って流すことができるが香恋はこの手のことを本気で不快に思うタイプだ。


「何度も言っているでしょ。私たちはそんな関係ではないわ。」


 香恋はうんざりした様子でその男子生徒にそう言い放ち、自分の席に戻って行った。


 その様子を見た男子生徒が香恋に聞こえないぐらいの小声で僕に言った。


「きついなー、お前の彼女」

「だから彼女じゃないよ」


 僕もいちいち相手にするのはめんどくさかったが仕方がなかったのでそう言い返した。




 土曜日、僕たちは学校のグラウンドで朝から17時まで一日中練習をしている。

午前中はチーム全体でランニングからのシートノックだ。


「ハァ…ハァ、ハァ」


 息を切らしてしまった僕は呼吸を整えるために深呼吸をする。


「どうした!夏川!もうバテたのか!根性だせよ!」


 外野にいる先輩たちや同じ内野の先輩からの大声で指摘される。


「ハイ!もう一本お願いします!」


 僕は自分を鼓舞するためノッカーに要求する。


 カァーン


 ノッカーの打った打球は三塁線の鋭い球だった。僕はボールに飛びついて捕球して素早く一塁に送球した。


 その後はバッティング練習やベースランニングをして練習を終えた。

僕は部室で汗だくの練習着を脱いで着替えていた。

着替え終わり僕はそのまま家に帰ろうとした時に監督から呼び止められた。


「夏川、少し話がある。監督室に来なさい。」

「分かりました」


 僕は連れられて監督室に入った。

監督は椅子に座り、僕の顔を見てくる。


「夏川、お前どこか体調が悪いのか?」


 それは予想だにしない質問だった。


「どうしてそう思ったのですか?」


 僕がそう聞き返すと監督は最近の様子を振り返りながら説明をした。


「2年生になり主に5月からだが明らかに動きにキレがない。守備もバッティングも今までにはなかったミスがある。特に午前中の時はそれが顕著だ。」


 どうやら監督はちゃんと部員を見ているようだ。


「たしかに最近少し体がだるく重たく感じることがありましたが怪我などをしているわけではないです。」

「…大丈夫なんだな?」


 監督は心配そうにこちらを見てくる。 


「はい。心配をかけてしまい申し訳ございません。」


 僕はそう言って頭を下げた。


「いや、そこまですることはない。少し気になっただけだ。だが何かあったらちゃんと相談しなさい。」

「はい。」


 話が終わり僕は監督したから出ようとすると最後に監督が一言加えた。


「それと夏川、あまり授業中に居眠りをするんじゃないぞ。私生活がいざという時に影響するぞ」

「はい。すいませんでした。」


 僕は監督にそう言って監督したから出た。


 家に帰るため校門を出ようとすると同じ部活の同級生に遭遇した。


「夏川、お前監督に呼ばれてだけど何かやらかしたのか?」


 そう言って意地悪そうに話しかけてきた男の名前は岩瀬という。


「いや、別になんでもないよ」


 正直僕は彼が苦手なのですぐに立ち去ろうとした。だが岩瀬はそんなのお構いなしに話し始める。


「ちょっと待てよ!なんだよお前最近調子悪いじゃねぇか?エリートさんは日頃の練習は手を抜きながらやっているのか?」

「そんなつもりないよ」

「1年から試合出てたからっていい気になってんじゃねぇよ。先輩や監督はお前らのこと贔屓にしてるが俺たちはちげぇよ」

「……」

「まぁいいや。夏大会までには調子を取り戻してくれよ。」


 岩瀬はそう言って感じの悪い笑みを浮かべながら帰って行った。


 下校中、僕は少し考え事をしていた。


 さっき監督が言っていたように最近体の調子が悪い。

朝起きる時ものすごく体がしんどく感じてしまう。

頭が痛く、意識が朦朧としている。そしてひどい時は吐き気もする。

だけどこれらの症状は寝起きのおおよそ30分程度だ。その時をベットで横になって安静にしていたらすぐに治る。

逆に無理やり起きた日は午前中ずっとしんどい。

それなのに午後になって夜になれば午前中のしんどさは嘘のように体は元気になる。

そのせいでなかなか夜眠ることができない。

そして朝起きるのがしんどい。

これのループである。


「帰ったら寝付きの良くなる方法をネットで調べよう」


 僕はそう考えながら家に帰った。


〜〜〜〜


 朝


「起きなさい!聡太!」


 朝一番の耳に入ってくる母の声が頭に響いた。


「母さん……、ダメだ…。起きれない…」


 体に力が入らない。

どう考えてもこれは異常だ。


「何言ってるの!眠いだけでしょ!早く起き上がりなさい!」


 しかし、僕の言葉は母には理解してもらえなかった。


「ぐっ、うっ、」


 僕はしんどすぎて頭が真っ白な中力を振り絞ってベットから起き上がった。


「まったく、ベットから起き上がるだけで大袈裟よ」


 母は僕の様子を見て呆れながら言ったが僕の耳には届かなかった。

朦朧とする意識の中とりあえず顔を洗いに洗面所に行こうと部屋を出た。


 その瞬間、僕の意識は飛んだ。


 バタン


 僕は廊下に倒れてしまった。

目を離していた母もただ事ではないと気づいたらしくすぐに僕のところに駆け寄った。


 そして今日は学校を休み病院に行くことになった。

この日から僕の日常は変わった…。

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