第33話

 お互いに気になったところを適当にぶらぶらしながらモール内をまわった。


 僕もこれといって行きたい場所などはなかったので目についた店を手当たり次第見てまわった。


 すると香恋が本屋に行きたいと提案してきたので本屋に行くことにした。


 このモールの本屋さんはここら近所の中でダントツで大きい店である。

小説、新書、漫画はもちろんのこと大学で使われている学術書まで満遍なく置かれている。


「うわぁ、広いな」


 僕は心で思ったことを口に出していた。


「ええ、こんなにいろんな本が揃っているならこれからはここの本屋を利用しようかしら。」


 僕達の近所にはそこまで大きい本屋はなく、欲しい本がないなんてよくあることだ。

そういう時はお店の人に頼んで取り寄せてもらうがこの本屋ならそんなことをしなくて大丈夫そうだ。


「少し見たいところがあるから一旦別行動にしましょう」

「分かった。じゃあ…、何分後集合にする?」


 僕はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出す。

スマホを見ると時刻は14時30分だった。


「50分に今いるここに集合でいいかな?」


 僕がそう提案すると、香恋は首を縦にふり

20分間別行動を取ることにした。


僕は適当に本屋の中を回ることにした。 

あたりを見渡しても右も左も大きい本棚ばかりである。


こんな大規模な本屋に行くのは初めてなので少しテンションが上がっている。

 僕は本を読むのが好きだ。

自分の知らないことがいっぱい書かれている本をの読むことで新しいことが知れる。

それに小説も普段なら絶対に体験することのできないファンタジー系を読むとまるで自分が物語の主人公と同じ経験をできる、すなわち疑似体験をすることができる。

本がもたらすものは絶大だ。


 なんて言っているけど最近は部活が忙しくて全然本を読んでいない。

本屋に来たのだって小学生以来じゃないか?


 そんなことを考えながら適当に本を手に取ってみた。


『バカでもわかる法学入門』


「バカでもわかるなんて書いてるけど中身すげぇ難しいぞ。」


 分厚い本のページをペラペラめくりながら中身を少し読んでみた。


 てか分からなくて当然か。

これ本来なら法学部に入った大学生が読むものだ。

少なくとも法律に全く関心のない中1が読んでも分かるはずがない。


「まぁ、高校生ぐらいになったらわかるかもしれないな」


 そう言って、僕は本を本棚に戻した。

そうしてぶらぶら歩いていると香恋の姿が見えた。

そこの本棚には参考書がずらりと並べられている。

なにやら真剣に手に取った参考書を読んでいる。


 まったく

香恋は相変わらずだな。


 僕はそう思いながら香恋の近くに歩み寄った。 


「何見ているの?」

「え!?そ、聡太!?」


 僕がそう話しかけるのと余程集中していたのか思ってたより驚いている感じだった。


「ごめん、そんな驚くとは思わなくて」

「急に話しかけないで欲しいわ!」


 そう言って、香恋は手に持っていた参考書を本棚に戻した。

僕はその戻した参考書をチラッと見た。


 これって……


「少し早いけど見たい本も見れたしもう本屋をでないかしら?」

「あ、うん。分かったよ」


 本屋を出て、モール内にあるフロアマップを見ながら次に行くところを話し合った。


「私はこれといってもう気になる場所はないわ。聡太は行きたい場所あるかしら?」


 正直僕も特別気になる場所はない。 

だけどこれで帰るのもなんか味気ないな。


「特に行きたい場所はないけど少し小腹が空いたからどこかお茶しない?」

「分かったわ」

「うーん、ここからいい感じにお茶できるお店あるかな?」


 僕がフロアマップを見ながら探していると一つ良い店があった。


「あった!ここのお店どうかな?」

「問題ないわ。そこにしましょう」


 目的地を決め、僕達はそのお店に向かった。


「着いた。よし!入ろう」


 お店に入り、店員さんに何名か聞かれ2名だといい2人用の席に案内された。


 席についてメニューを見ながらなにを頼むのかを決める。

そして、店員さんを呼んでオーダーを取ってもらった。


 頼んだメニューが届くまで香恋とまた軽い世間話をした。


「だけど早いものね。もう12月、これで年が明けて学年末試験が終わったら2年生ね。」

「たしかにそう言われるとそうだね」


 早いものか…

正直序盤は小学校の変化に戸惑ったけど慣れてきたらたしかにあっという間だったな。


「聡太は2年生になったらさらに部活で責任重大な立場になりそうね」


 香恋はそう言って部活の話を上げてきた。


「いや、まだどうなるか分からないよ。正直な話今年が出来すぎただけだよ。」

「1年の夏で4番を任せられるのは聡太の実力の他ないわ。それに今年の時点でこんなに活躍できたのだから来年はさらに活躍するかもしれないわね。」


 香恋がここまで褒めてくれるなんて珍しいな。

明日は雪か?


「まぁ、たしかに今年は全国大会まで進めたから監督は来年さらに上の成績を目指している感じはするよ。」

「聡太なら大丈夫よ。」


 香恋は静かにそう言った。


 なんだか、ここまで褒められると恥ずかしいな。

少し話を変えよう。


「それより香恋は本当に何か部活しなくていいの?今年はずっと勉強に力を入れていたけど何かそこまで時間を取られない文化部とかもいいんじゃないの?」

「この時期から部活を始めても仕方ないでしょ。それに私には絶対に行かなければいけない高校があるの。今はそのことしか考えてないわ」


 香恋はいつものように淡々と答えるがその瞳には揺るぎない信念が見える。


「それって撫子学院高校のことかな?」


 僕がそう言うと香恋は驚いた表情をした。


「どうして知っているの?」


 おそらく香恋は撫子学院高校に進学したいことを誰にも言っていないのだろう。


「さっき本屋で咄嗟に戻した参考書あったけどあれって撫子学院高校の過去問だったよね」

「やっぱり見えていたのね」


 香恋は諦めたかのように僕を見てくる。


「ええ。私は撫子学院高校に行くつもりよ。そのために中学生になってからずっと勉強をしているのだから。」

「香恋…」


 撫子学院高校とは僕達の住む地域の中でダントツで偏差値の高い高校である。

その高校に通っている生徒はいわばエリートと言っても過言ではない。 

そして香恋のお姉さんが通っていた学校でもある。

おそらく香恋はまだお姉さんのことを意識しているかもしれない。


「別にかおり姉さんが撫子学院高校に通っていたからって香恋がそこに行かないと行けないわけじゃないよ。」

「どういう意味?」


 香恋は鋭い眼光で僕を見てくる。

香恋は昔からお姉さんのようになることを目標にしている。

かおり姉さんに強い憧れを持っているんだ。


 だけど…かおり姉さんは次元が違う。

僕からしてもあの人の残してきたものははかり知れない。


 香恋もそれは気づいているはずだ。

だけどずっと昔からかおり姉さんのようになるために努力を続けている。

僕にはその姿が辛さそうに見えた時期があった。だから別に無理に頑張らなくてもいいと思っていたがもう僕がなにを言っても香恋は止まらないな。


「いや、なんでもないよ。ごめん。今のことは忘れてくれないかな」


 僕がそう言うと、香恋は落ち着いた様子に戻った。


 その後は頼んでいたメニューが届き、食事を済ませてお店を後にした。


〜〜〜〜


 時刻は17時30分

そろそろ帰るにはいい頃合いの時間だ。

香恋は香奈美ちゃんにお土産を買いに行っているので僕目の前にある雑貨屋さんで適当に商品を見ていた。

すると香恋が少し離れたところで僕を呼んでいるのが聞こえた。


「お土産買い終えたんだね。」


 僕は香恋の方に向かって走っていると1人の小柄な人にぶつかってしまった。

「うっ……」


 体格的に僕は大丈夫だったがぶつかってしまった人は尻餅をついて倒れてしまった。


「ごめんなさい!大丈夫ですか?」


 僕はすぐに謝って手を差し出した。

尻餅をついて倒れている人は僕と同い年ぐらいの少年だった。

しかし見るからに小柄で痩せている。身長はおそらく150センチにも満たないだろう。

色白でなんだか顔色が悪く見える。


「だ、大丈夫です…。」


 彼はおどおどしながらそう言って1人で立ち上がり、去っていた。


「大丈夫?何かあったのかしら?」


 そう言って香恋は心配そうに僕に話しかける。


「大丈夫。ちょっと人にぶつかってしまって」

「そう。なら大丈夫ね。そろそろ時間だから帰りましょう。」

「そうだね」


 僕は香恋と2人で帰ろうとした。その瞬間背後の方から嘆きに満ちた声が聞こえてきた。


「ごめんなさい……、ダイ兄……、——先輩

……僕のせいで……。」


 それは弱りきった、そしてひどくか細い声だった。


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