第15話
あれから2週間が過ぎた。
5月に入り、この高校生活にも完璧になれ、それなりには楽しく学校生活を送っている。
そして俺はこの2週間、放課後になったら夏川の家に行ってドア越しで会話をしている。
初めは俺を警戒していた夏川もだんだん心を開いてきてくれたようでそれなりに接してくれるようになった。
だけどまだ夏川は部屋から出てきてはくれない。
どんなに夏川と仲良くなってもあいつはまだ自分の殻に閉じこもっているようだ。
〜〜〜〜
「最近夏川君の家に行ってるみたいですね。」
そう言って、冬月は話しかけてきた。
冬月とは放課後、図書委員の仕事で図書室当番をする時についでに勉強を見てもらっている。
正直めっちゃ助かる。
さすがこの1組が誇る委員長に次いでのクラス2位だぜ。
「ああ、まだ面と向かって話したことはないけどドア越しなら話してくれるんだよ。」
「そうなんですね。どんな方なんですか?」
「そうだな…、意外に喋るやつだぞ。それにいろんなことを知ってるぜ。アニメや漫画、スポーツそれとニュースとかもちゃんとチェックしてるから情勢にも詳しいよ。あと…」
俺がそうやって夏川のことを教えていると、冬月がニコニコしながら話を聞いている。
「ってなんで冬月はそんなに笑顔なんだよ」
疑問に思った俺は冬月にそう問いかけた。
「いえ、悪気はないですよ。ただ春木君がそんなに楽しそうに誰かのことを話しているのは珍しかったので。」
「え?俺そんな楽しそうに喋っていたか?」
「はい!」
そう言って、冬月はなんの躊躇いもなく返事を返してきた。
なんだか恥ずかしくなってきた。
そして学校が終わり、今日は図書委員の仕事がないので俺は夏川の家に向かった。
どうやら放課後に夏川の家に行くのが日課になりかけている。
図書室当番がない日は毎日行ってるからほぼ日課だな。
そう考えているうちに、すぐに夏川の家に着いた。
俺は手慣れたようにチャイムを押した。
そしていつも通り弟の太一君がお出迎えをしてくれた。
「春木さん。こんにちは!」
「おう!毎回お邪魔して悪いな!太一君。」
「いえ!そんなことないです。こんなに毎回来てくれてありがとうございます!」
夏川の弟の太一君ともはじめに比べたらすごく仲良くなったと思う。
てかこの子すごく礼儀正しい。小学校4年生と聞いているが俺が4年生の時はこんな得体の知れない高校生が家に来たら絶対に警戒して話すことすらままならなかったと思うが太一君はすぐに俺に慣れてくれたからすごく助かったぜ。
俺は階段を上り、夏川の部屋の前に行った。
「よ!夏川!元気か?」
「元気も何も昨日も来て話したから分かるでしょ。」
そう言ってドア越しの夏川は返事を返してくれた。
ドア越しだから夏川の表情とかは見れないが声だけを聞く感じは元気そうだった。
委員長から聞いた話では夏川は運動神経抜群、成績優秀、まさに文武両道を体現したような人だったそうだ。
おまけにクラス委員長まで務め、クラスメイトからの信頼も厚かったと聞いている。
まさに非の打ち所がないって感じだな。
「てか聞いてくれよ!夏川!5月に入ってやっと高校生活にも慣れてきたっていうのにそろそろ中間テストが迫ってきてるんだよ。」
「5月ならたしかにそうだな。だけど試験があるのはまだ先じゃないか?」
「試験日は19日と土日を挟んで22日と23日みたいだ。」
「それならまだ2週間以上も期間があるから問題はないと思うよ。」
「いや、正直にいうと数学が全く分からん。授業中もう先生が呪文を言っているように聞こえてしまうぜ」
数学と理科はお手上げだ。
特に数学1とAに物理基礎はどうすればいいかも分からないぜ。
「そんなに苦手なのか?」
「ああ。てか夏川は俺の数学のテストの18点を見ただろ。」
「それなら秋元に教えてもらったらいいんじゃないかな?あいつなら理数系強いし問題ないと思うよ。」
「委員長が了承してくれるとは思えないな。甘えないで!って言われそう…。」
「たしかにそうだね…。秋元は自分にも他人にも厳しいからね。」
「まぁ、隣の席で仲良いやつがいるからその子に教えてもらうよ。だけど家とかで勉強してる時にわからない問題に出くわすとけっこうきついんだよな。」
文系科目ならまだ解説を見たらなんとかなるが数学とかは全く分からないぜ。
どうしよう。たしかうちの高校は40点未満が赤点だったよな。
このままいったら理数系は全滅だぜ。
すると夏川が思いもよらない提案をしてきた。
「それなら僕が教えてあげようか?」
「え?いやありがたいけどどうやって教えるんだ?」
夏川は部屋からは出てくることができない。それに学校に全くきてないから勉強だってついてこれなくなっているはずだ。
「君が家で分からなくなった問題を写真でメッセージで送ってくれたらいいよ。そしたら僕がノートを使って解き方の解説を動画にして送るよ。」
「マジで?めっちゃありがたいけど夏川、高校の勉強分かるのか?」
「それは問題ないよ。一応、暇な時間に教科書を開いて勉強しているから。」
「だとしてもそれって独学だろ?分からないところとかないのか?」
「うん。今のところは教科書をひと通り読んだら理解できるよ。」
こいつマジかよ。
俺は学校に行ってて分かんないのに夏川は独学で理解しているのかよ。
「それだったらお言葉に甘えさせてもらうよ。」
「うん。ちなみに僕は理数系は得意だから君の力になれると思うよ。」
「マジか、だったら今日数学の宿題出てたからさっそく家に帰ったら写真撮って送らせてもらうぜ。」
「少しは自分で考えないとダメだよ。」
俺が夏川に頼りきりにしようと思ったら注意されてしまった。
時刻は18時になっていた。
腹も減ってきたし今日は帰るとしよう。
「そろそろ時間だから今日は帰るよ。またな!」
俺はそう言って、夏川に別れをつげ階段を下りて太一君にお礼を言ってから夏川の家を出た。
玄関を出て道に出ると、ひとりの女の人から話しかけられた。
「あら?春木君かな?」
声の主は担任の野坂先生である。
「野坂先生どうしたんですか?こんなところで。」
俺がそう問いかけると野坂先生は笑顔で返事を返してくれた。
「夏川君に会いにきたのよ。一応何回かきているんだけどドア越しでしかまだ話したことがないのよね。」
マジか。そんなそぶり全く見せていなかったけどちゃんと先生クラスメイトのことを気づかってくれているようだな。
「春木君は夏川君の家から出てきたけど夏川君と友達なの?」
「はい!と言っても俺もまだ面と向かって話したことはないんですが。」
「そうなの。秋元さんもだけど春木君も夏川君に会いにきているなんて知らなかったわ。」
「俺は夏川の家に行くようになったのは最近なんで。」
「なるほどね。先生も今から夏川君に会ってくるわ。春木君は気をつけて家まで帰るのよ。」
「はい!」
俺はそう言って、野坂先生と別れ自分の家に向かって帰るのであった。
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