第14話

 下校中、俺は委員長と夏川の事を聞きながら一緒に帰っていた。

もちろんあまり踏み込んだ内容を聞きたいのではなく趣味や嗜好などを軽く聞いているだけである。


「それにしてもあなた2日連続で行くなんてなかなかタフなのね」

「タフ?別に夏川の家に行って疲れることなんてないし大したことはしてないぞ。」

「それでも私みたいに幼馴染でもなくましてや顔も見たことのない人のためにここまでするなんて思っても見なかったわ」


 たしかに委員長の言っていることも分かる。ふつうたいして仲のよくない人のために親切心を働かせるのは難しいことだ。

まぁ、今回は俺が一方的にまた会いに行きたいだけだから親切心とかじゃなく、俺のわがままなんだがな。


「夏川って運動が得意って前言ってたよな?」

「ええ。運動神経はずば抜けていたわ。小学校の頃からずっと野球をしていて4番を任されていたわ。」

「それはすごいな。それに加えて頭も良かったのか。羨ましいな」

「たしかに頭も良かったわ。私よりもはるかに成績が良かったし。」


 え?委員長よりもか?なんか話を聞く限り夏川ってめっちゃすごいやつなんじゃないのか?


 一見こうやって話を聞く限りは別に夏川が学校に行かなくなる理由なんてないように思えるが、もしかしたら簡単な理由ではなさそうだな。


 俺が考え込んでいると、委員長が話しかけてきた。


「あなた、さっきから私に聞いてきてばっかりだけど少しはあなたのことも教えてくれないかしら?」

「え?別に俺たいして言うようなことないぞ。」

「たしかあなた南中学出身よね?どうしてわざわざこの高校に入ったの?普通なら同じ中学出身者がいるところに入学すると思うのだけど。」


 うわ。めずらしく俺に質問してきたと思えばあまり聞かれたくないことを聞いてきやがったぜ。


「いや、別にたいした理由はないぜ。うん、…本当だよ。」


 俺がはぐらかそうと思いそう言っても、委員長は疑いを持った眼差しでこちらを見てくる。


「本当に?だったら理由ぐらい答えてくれてもいいんじゃないの?」


 そう言って委員長はジト目で俺に質問をしてくる。


 ん?てか待てよ。委員長なんで俺が南中学出身って知っているんだ?廊下で初めて会った時は俺の名前も知らなかったというのに。


「てかどうして委員長は俺の出身中学知ってるんだ?俺一度も委員長に南中学出身なんて言ったないぞ。」

「それはあなたがはじめの自己紹介の時に言っていたでしょ。」

「それを覚えていたっていうとことは、委員長はじめて廊下で話した時俺のこと知っていたんだな。」


 俺がそういうと委員長はものすごく顔を赤らめてしまった。


「そんなことはどうだっていいでしょ!」

「別にいいけどどうしてそんな嘘をついたんだ?」


 俺が聞き返すと赤面した委員長は黙り込んでしまったがすぐに口を開いた。


「もういいわ!もう夏川君の家は近くだし、私はここで帰らせてもらうわ!」


 そう言って、委員長は走り去ってしまった。


 なんだ?俺なんか悪いこと言ったか?

まぁ、いいか。とりあえず夏川の家に着いたし、またお邪魔させていただくとするか!


 俺は夏川の家のチャイムを鳴らして、太一君に出迎えてもらって夏川の部屋の前まで行った。


「よ!夏川。今日も来たぜ。」

「…君なんで今日も来たの?」

「たいした理由はないよ。なんとなくかな!」

「…そう。」


 その後は俺が一方的に夏川に話しかけるだけだった。たまに夏川は返事を返してくれたりもしたがまだ俺のことを警戒している感じだった。

 30分程度話していると夏川がはじめて俺に話しかけてくれた。


「君、もしかして秋元に頼まれて僕の家に来てるの?」

「え?なんで委員長が俺に頼むんだ?」

「いや…、じゃないと君がわざわざ僕の家に来る理由なんてそれぐらいしか無いと思って…。」

「いや、俺がここに来ているのは俺の意思だよ。てか委員長が俺に頼み事なんてするはずないし。」

「たしかにそうだね…。」


 そう言った夏川の声は少し元気そうであった。


「てかここに来るまで少し秋元と話しながら来ていたんだけど急に怒って帰ってしまったんだけどなんでか分かるか?」

「どういうこと?」


 俺はさっきの秋元との会話を夏川に説明した。すると夏川はすぐにことの内容を理解したようで俺に説明をしてくれた。


「なるほど。秋元にしてはめずらしく墓穴を掘ったってことだね。」

「どういうことだ?」


 俺が理解できずにそういうと夏川はすぐに解説をしてくれた。


「秋元ははじめの自己紹介でクラスのみんなの事をひと通りは覚えていたと思うよ。だけどあいつはだいぶ気難しいというか素直じゃないところがあるからね。君に廊下で話しかけられた時も緊張してわざと知らないふりをしてクールぶっていたってところじゃないかな。」


 夏川はそう言って俺に分かりやすく教えてくれた。

さすが幼馴染だな。委員長のことを完璧に理解している。


「そして、君にそこを指摘されてバレるのが恥ずかしくなって逃げ出したんじゃないのかな。」

「な、なるほど」


 てか夏川めっちゃ話すじゃないかよ。

委員長もそうだけどこいつらお互いのことを話す時めっちゃ饒舌になるな。


 それからも俺は夏川とドア越しの会話を続けた。

 はじめに比べたら夏川も俺への警戒心が薄れてきたようだった。


 夏川と話すこの時間は俺にとっても悪いものじゃない。

高校に入ってはじめて同い年の男子とこうやって話すのが楽しいと思った瞬間であった。

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