第10話

 4月17日月曜日

 高校に入学してから10日程度過ぎた。

高校の授業も2週間目に入りそろそろ学校に慣れてきた頃である。


「そろそろ学校にも慣れてきたな!」


 俺は隣りの席の冬月にそう言いながら話しかけた。


「はい。たしかに慣れてきましたね。」


 冬月とは委員会が一緒で、放課後に図書室当番などがあるので比較的に一緒に行動することが多い。

おかげでこの高校で気軽に話すことのできる友達ができたぜ。


 そんな感じで高校生活に慣れてきたところで1つだけ疑問点がある。

 それは、俺の前の席の夏川という生徒のことである。

彼は入学式も出ておらず、学校が始まって1週間が経過するが1度も学校に来ていない。


 さすがの俺でも大体は見当がついてきた。


「不登校かもしれないな…。」


 俺は、誰にも聞こえないであろう小さな声でそう呟いてしまった。


 そんな時にクラスの委員長、秋元香恋から声をかけられた。


「春木君、少しいいかしら?」

「ああ、大丈夫だけどどうしたんだ?」

「遅くなってしまったけどあなたが以前言っていた数学のテストの解答用紙のことなんだけど。」

「あー!言ったな!そんなこと。」

「あなた、まさか忘れていたのかしら?」


 そう言って委員会は鋭い目つきで俺に言ってきた。


 やばい…。あれから土日を挟んで5日間も経っていたからうっかり忘れていたぜ…。

よし!ここは誤魔化そう!


「いや!覚えていたよ!いきなりだったから少し戸惑っただけだよ。」


 俺の誤魔化しの入った言葉を聞いて、明らかに疑っていた様子だったが委員長は話を進めてくれた。


「あなたの予想通り夏川君に渡したプリントの中に紛れ込んでいたみたいだわ。」

「やっぱりそうか。…って待てよ!」

「何かしら?」

「ということは俺の数学の点数が夏川ってやつに知られたってことじゃないかよ!」

「たしかに恥ずべき点数だけど、それはもう仕方のないことよ。」


 マジかよ!委員長!

俺は知らない赤の他人に18点という点数を見られてしまったんだぞ。


「分かったよ。じゃあ夏川に頼んでその解答用紙を返してもらいたいんだけど。」

「そうね。彼に頼んで返してもらえるようにするわ。」

「てか待てよ。俺が委員長に夏川が持ってないか確認をしてもらうように頼んだのって先週の水曜日だったよな?」

「ええ。」

「なのにその連絡を教えてくれたのが月曜日の今日って5日間も間が空いているじゃないかよ。」


 俺がそういうと委員長は罰の悪そうな顔でこう言った。


「私は、ちゃんとその日に連絡をして聞いたけど返信が返ってきたのが昨日だったのよ…。」

「マジか…。じゃあ、委員長は悪くねぇな。」


 これじゃあ、俺の18点の解答用紙がずっと夏川の家にあることになってしまう。

だけど学校に来ない上に返信も遅かったら話にならないぜ。


 よし!少し強引だけど俺がそのまま夏川の家に行って返してもらえばいいか!


 そう思った俺はすぐに委員長に話しかけた。


「委員長!仕方ないから俺が夏川の家に行って返してもらうよ!」

「え?…ちょっと待って!いきなりあなた何をいうの?」

「メールでチマチマするより俺が直接行った方が早いだろ。だから夏川の家な行き方を教えてくれないか?」


 俺がそう言うと、委員長はすごく困った様子だったが、少し間をあけて返事を返してくれた。


「分かったわ。たしかにあの無惨な解答用紙を夏川君の家に置いておくのも夏川君に悪いから教えてあげるわ。」

「いや、それの被害者は夏川じゃなくて俺だろ!」


〜〜〜〜

 放課後、俺と委員長は一緒に夏川の家に向かっていた。


「夏川ってどういうやつなんだ?」 


 俺はふとそう思い、委員長に聞いてみた。


「随分と曖昧な質問ね。」

「いやだって、俺、中学違うからどういうやつかまだ知らないんだよ。てか会ったことないし。」

「よくそれでいきなりその本人の家に行こうと思ったわね。」


 委員長からそんなことを言われたが意外にもそのあと夏川がどんな人間か教えてくれた。


「彼は、簡単に一言で言うなら文武両道ね。

勉強も運動も常に敵なしって感じだったわ。

それに加えてみんなからの信頼も厚く、女子からも人気があったわ。彼、すごくカッコいいから。」


と言いながら委員長はいつにも増して饒舌に夏川のことを語り出した。


 てか委員長こんな楽しそうな顔で話したりするだな。

夏川のことを語っている委員長はこれまでにないほど楽しそうでそしてどこか寂しそうな顔をしていた。


 そんな会話しているうちに夏川の家の目の前まできてしまった。


「ここだな。よし!」


 俺はそう言い、夏川の家のチャイムを鳴らした。

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