第20話

 委員長の部屋で試験勉強を始めて1時間ほど経過した。

俺にしてはまあまあ集中できてる方である。

それにしても高校の勉強は科目が多すぎる。

1年生の時期はこれからの勉強の基礎なので科目がすごく多い。

国語総合(現代文、古典、漢文)、英語文法

英語長文、数学1、数学A、現代社会、日本史A、世界史A、化学基礎、物理基礎、生物基礎である。

中間テストの主要科目でもこんなにあるのに期末テストになったら副教科も加わるのか。

キツすぎる。

とりあえず明日のテストを乗り越えたら土日を挟むからそれなりに勉強はなんとかなるだろ。

だけど明日は俺が最も苦手とする数学と物理基礎である。

今解いてるこの物理基礎の問題ですら分からない。仕方ない、冬月に教えてもらおう。


「なぁ、冬月、この問題わからないから教えてくれないか?」

「いいですよ。この問題はまず——」


 そんな感じでまじめに勉強をしているとドアをノックされ、委員長のお母さんが入ってきた。


「みんな勉強お疲れ様。捗っているかしら?

これを食べて頑張ってね。」


 委員長のお母さんが持ってきたくれたトレイにはホットケーキとオレンジジュースが3人分あった。


「ありがとうございます。」

 

 俺と冬月はお礼を言った。


 委員長も一旦勉強をやめて、休憩に入ろうとしていた。

するとお母さんが委員長に一言言うことがあったようだ。


「香恋、お母さん今から夕飯の買い物に行ってくるから留守番してもらってもいい?」

「分かったわ。それに今日は明日に備えて勉強をするつもりだから今から外に出る予定もないし。」

「香奈美は買い物に行きたくないみたいだから、リビングの方で1人で遊ぶように言っておくわ。」

「ええ、ありがとう。お母さん」


 委員長との会話を終えたお母さんは買い物に行くために部屋を出ようとした。


「それではみんな、勉強頑張ってね。」


 お母さんはそう言って、部屋から出ていった。


「一旦休憩にするかしら?」


 お母さんからの差し入れを見て、委員長が俺たちにそう聞いてきた。


「そうしようぜ。」

「はい!そうしましょう。」


 ということで、俺たちは休憩に入ることになった。


「このホットケーキ美味いな。」

「そうね。」


 俺と委員長がそんな他愛もない会話をしていると冬月があることを聞きだした。


「そういえば、秋元さん。リビングにいる香奈美ちゃんは大丈夫なんですか?」


 家に帰ってきた時に、委員長に遊んでもらえなくて落ち込んでいたからな。

正直俺も気になっていたが、まさか冬月が聞くとは思わなかったな。


「ええ、問題ないわ。今日はたまたま姉さんと太一君がいないから私に声をかけただけだから。香奈美の気まぐれよ。」


 委員長がそういうと、冬月は少し真剣な顔つきになった。


「私にはそう見えませんでしたよ。あの感じは間違いなく、秋元さんに構ってほしかったように見えました。」


 いつも少し抜けていて、のほほんとしている冬月がここまではっきり言うなんて珍しいことである。


「そう、分かったわ。勉強が終わったら少し香奈美に時間を割くようにするわ。」


 ホットケーキも食べ終えて、時間的にはあと1時間は勉強ができそうである。


「よし!あと1時間集中するか!」

「そうね。それぐらいがキリのいい時間になるわね。」


 休憩を終えて、いざ勉強を始めようとすると急に部屋のドアが開き、香奈美ちゃんが入ってきた。


「お姉ちゃん!勉強終わった?香奈美、1時間待ったよ!ねぇ、もういいでしょ!遊ぼうよ!」

「香奈美、お姉ちゃんたちは今からもう1時間勉強をするつもりなの。悪いけど出て行ってもらえるかしら。」


 うわっ。きっつ!

確かに委員長の言ってることもわかるけどもうちょいオブラートに包んで言えるだろ。


「なんで!?さっきお母さんがホットケーキもって行ってたからもう勉強終わったと思ったのに…。」

「あと1時間経ったら遊んであげるわ。だからリビングの方に行ってなさい。」

「うぅ〜。…分かった。」


 香奈美ちゃんはそう言って、落ち込んだ様子でドアを閉めて、リビングの方に行った。


 なんだか、すごく可哀想だな。

うん、後で俺も一緒に遊ぼう!


 それから30分ほど経過した。

個人的には明日の数学と物理基礎に向けてやれるだけのことはしたと思う。

これで赤点なら俺はすすんで補習を受け入れてやる。

あと30分時間が余っているので理系科目をするのに疲れたので気分転換に世界史Aを勉強することにした。

教科書を読み進めていると、また部屋のドアが開き香奈美ちゃんが入ってきた。手には2冊のノートと筆箱を持っていた。


「お姉ちゃん!」


 香奈美ちゃんは元気よく、委員長に話しかける。


 ふと、委員長の方を見てみるとすごく険しい顔をしている。


 おい、これやばくないか?

仕方ない、ここはうまい感じにフォローするしかないな。


「香奈美ちゃん、あともうそろそろで勉強が終わるから——」

「何回言えば分かるの!香奈美!」


 俺が香奈美ちゃんにフォローを入れようとした瞬間、これまでないほどの勢いで委員長は香奈美ちゃんに怒鳴った。


「お姉ちゃん…ち、ちがうよ。わたしも…一緒に…」


 予想以上に強く怒られてしまったのでそれにびっくりしてしまった香奈美ちゃんは動揺している様子だった。

そして顔を見る限り、涙目になりながら話している。


「何が違うの?悪いけどあなたの言い訳に付き合う時間はないわ。早くこの部屋から出て行きなさい!」

「うぅ、うわわぁぁぁん。」


 限界がきてしまったのか、香奈美ちゃんのは手元にあったノートなどを落として泣きながら、部屋から出て行ってしまった。


「委員長、今のはさすがに言い過ぎじゃないか?」

「あれぐらい強く言わないと言うことを聞かないわ。」


 委員長は何事もなかったかのように勉強を再開し始めた。

俺はどうにも香奈美ちゃんのことが気になってしまいドアの方をみると、さっき香奈美ちゃんが持ってきていたノートと筆箱があった。

ノートを見てみるとそれは小学生特有の宿題の漢字と計算ノートだった。


 もしかして…


 俺は部屋を出て、香奈美ちゃんがいるはずのリビングに向かった。

しかし、そこに香奈美ちゃんの姿は無かった。


 マジかよ。


 俺はすぐに委員長の部屋に戻った。


「委員長、大変だ!香奈美ちゃんがいないんだよ!」

「え?どう言うこと?」

「さっき委員長から言われたことが悲しかったんだよ。」

「それで家から出ていったというの?」

「ああ、おそらくそうだと思う。」


 俺がそう言うと、委員長は困った様子で話し始めた。


「全くあの子にも困ったものね。」

「委員長…、多分さっき香奈美ちゃんは俺たちの勉強を邪魔しにきたわけでは無かったと思うぞ。」

「なんで分かるの?」

「ドアの前に置いていかれたノートを見てみろよ。おそらく俺たちの勉強の邪魔をしないように自分も一緒に勉強するために来たんだと思うよ。」


 俺がそう言うと、委員長は香奈美ちゃんのノートを確認した。


「そういうことね。それでも理解できないわ。」

「え?なんでだよ?」


 俺は委員長の言ったことが理解できずに聞き返してしまった。


「香奈美は私とは違う。あの子は姉さんと同じ天才なのよ。たとえわからない問題があったとしても自分で解決できるはずよ。」

「だとしても、委員長と一緒に勉強したかっただけかもしれないだろ。」

「その考えが私には分からないわ。どうしてわざわざ1人で出来ることを私と一緒にしたがるというの?」


 嘘だろ…。委員長…。

クソ!これじゃ話にならない。

とりあえず、今はこんな話し合いをするより香奈美ちゃんを探しに行く方が先だな。


「分かったよ。委員長、一旦この話はおしまいにしよう。今は香奈美ちゃんを探しに行く方が先だ。」

「問題ないわ。香奈美が拗ねて、家から出て行くことは日常茶飯事よ。すぐに戻ってくるはずよ。」


 は?何言ってんだよ。

ダメだ。これは我慢できない!

俺は今胸中にあることを委員長に言おうとした。その瞬間、今まで俺たちの会話を黙って聞いていた冬月が急に声を荒げて委員長に話し始めた。


「いい加減にしてください!こんな時にどうしてそんな他人事でいられるんですか?」

「冬月…さん?」


 委員長は動揺を隠せない様子だった。

当たり前である。いつもあんなに穏やかでいるあの冬月がここまで怒っているのだから。


「さっきから黙って聞いていたら、秋元さんは香奈美ちゃんの気持ちを考えたことあるんですか?」

「………」


 委員長は黙りながら、冬月の話を聞いている。


「私には秋元さんが自分の物差しで一方的に香奈美ちゃんのことを測っているようにしか見えませんでした。たとえ香奈美ちゃんがどんなに賢かったとしてまだ小学2年生なんですよ!まだまだお姉ちゃんやお母さんに甘えたい年頃なんですよ!」


 まさにその通りだった。

俺が言おうとしたことを全部言ってくれたよ。


「冬月、確かにお前の言ってることも正しいけど今は香奈美ちゃんを探しに行こう。」


 冬月も少し熱くなりすぎたようだったので少し冷静を取り戻すために言った。


「そうですね。私と春木くんの2人で手分けして探しに行きましょう。秋元さんにはもし香奈美ちゃんが家に帰ってきた時のために残ってもらいましょう。」

「たしかにそれもいいけど、冬月はここらへんの土地勘はないだろ。俺は夏川の家に寄るために毎回来てるからそれなりに土地勘はあると思ってるよ。だから、委員長と一緒に残っていてくれないか?」


 俺がそう説明すると、冬月は一瞬躊躇ったがすぐに理解して了承してくれた。


「よし!じゃあ探してくるよ!」


 俺はそう言って、玄関を出るとタッパを持った少年と出会した。


「春木さん、そんなに急いでどうしたんですか?しかも香奈美の家から出てきて。」


 その少年は、夏川の弟の太一君であった。

家が近所で、お惣菜の入ったタッパを持って家に来ているということはおおかた差し入れといったところだろ。


「悪い、太一君。今香奈美ちゃんが家から出て行ってしまって探しに行くところなんだ。」

「え?香奈美が。分かりました。僕にも手伝わせてください。あいつの行くところはだいたい分かります。」

「マジか。助かるよ。」


 そんな感じで、俺と太一君は香奈美ちゃんを探しに行くのであった。

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