第21話

 春木くんが、香奈美ちゃんを探しに出て行ってから数分が経った。


私は秋元さんと2人きりで留守番をしている。


 どうしましょう…。大変気まずいです。


 私はさっき、秋元さんに強く言い過ぎてしまいました。

正直、らしくないことをしてしまったと思ってます。

さっきから秋元さんもずっと黙ってますし、本当にどうしましょう…。

せっかく秋元さんとも最近仲良くなって少しずつですが話したりするようになってきたのに。

過去に戻れるなら戻りたいです。そしてあの時の私を止めたいです。


 そんなふうに私が1人でさっきのことを後悔していると、秋元さんが話しかけてきた。


「あ、あの冬月さん。何か飲み物はいるかしら?コーヒーやココアとかならあるわよ。」

「え、えっとではココアをお願いします。」


 私がそう言うと、秋元さんはキッチンの方に行き、お湯を沸かし、マグカップを2つ取り出した。

片方のマグカップにココアの粉末を入れて、もう片方のマグカップにはコーヒーの粉末を入れている。

お湯が沸くと、2つのマグカップにお湯を入れて、スプーンで混ぜて、お盆に乗っけて持ってきてくれた。


「こっちがココアよ。」

 

 秋元さんはそう言って、私の方にココアの入ったマグカップを置いてくれた。


「ありがとうございます。」


 秋元さんにお礼を言って、差し出されたココアを飲んだ。

秋元さんもコーヒーの入ったマグカップに手に持って飲み始めた。

 いつもなら、ここで春木くんが何か話題を持ち出してくれるのですが生憎今はいません。


 辺りが静まり返り、物音の一つもないこの状況がすごくきついです。


 空気が重い…です。


 私はチラッと秋元さんの方を見ます。

秋元さんはいつもどおりといった感じで、コーヒーを飲んでいます。


 うぅ〜、いち早くこの状況から脱却したいです。お願いですから、早く帰ってきてください!春木くん!


 私がそんなことを考えていると、急に秋元さんが話しかけてきました。


「ふ、冬月さん」

「は、は、はい!」


 私は秋元さんが話しかけてくるのを予想していなかったので変なふうに返事をしてしまいました。

 すごく恥ずかしいです。


「さっきは見苦しいところを見せてしまったわね。ごめんなさい。」


 秋元さんは、静かにそう言って、私の顔を見る。


 その様子はいつも凛とした、秋元さんとは違う感じがした。


「い、いえ!私も急にあんな声を荒げてしまって本当にすいません。」


 予想だにしない秋元さんの謝罪のおかげで私はすかさず反省の意を示した。


「そうね。確かに冬月さんが怒り出した時は正直びっくりしたわ。」


 私の謝罪を聞いて、秋元さんはそう言った。


「い、いえ、本当に…あの、あれは少し私の中でヒートアップしてしまって…」


 私が、そのことについて弁明をしようとしたが変に動揺してうまく言葉が出てこなかった。

するとその様子を見ていた秋元さんがクスっと表情を和らげた。


「大丈夫よ。別に気にしてないわ。」

「そ、そうですか。ありがとうございます。」


 そして、また互いに沈黙してしまう。


 こ、これは私がなんか話題を振るべきでしょうか?

ですが私は人と会話するのが大変苦手です。

ある程度仲良くなった人とは普通に会話することができるのですが初対面の人やさほど親交の深い人ではない限り会話をするのは苦手です。

秋元さんとは、さっきまでは普通に話せていたのですが私の青い失態でこんな微妙な空気になるとは…。

で、でもさっきお互いに謝罪したのでこれで解決ということでいいのですか!?


 私がまた頭をひねらせて考えてこんでいるとさっきまで黙っていた秋元さんが話し始めた。


「冬月さん…、もしあなたがよかったら少し私のつまらない話を聞いてくれないかしら?」


 秋元さんはそう私に問いかけてきた。

もちろん返す言葉は決まっている。


「は、はい!聞きますよ!」


 私は力強く返事をした。


「ありがとう…。」


 秋元さんは、そう言って話し始めた。


「私には、7つ歳の離れた姉がいるの。そしてその姉さんは昔から他を圧倒するほどの才能の持ち主だったわ。勉強や運動はもちろんのことで武芸にも精通していたわ。

それに加えて、明るい性格で友達も多くて皆をまとめるあげることも容易していたわ。」


 確かに凄い人です。

私がそんなことを考えながら秋元さんの話を続けて聞いた。


「そんな姉を見てきたから私もそれができると思っていたわ。……だけど違った。私には姉さんのような才能を持っていなかったわ。

他を圧倒するどころか周りにいる同年代の人にすら劣る能力だったわ。物覚えは悪いし、要領だってすごく悪いわ。その事実を知ってしまった時……私は絶望したわ。」


 秋元さんは平然と話を続けるがその顔には悲壮感が漂っていた。


「…それでも…、私は姉さんのようになりたかった。だから…、人の何十倍も努力したわ。だけど自分が望む成果は全くあげれなかったわ。小学生の頃からそんな何かに取り憑かれている感じの子だったから気付けば周りからも孤立していたわ。…正直あの時は辛かったわ。暗闇のトンネルにいる気分だったわね。」


 私は秋元さんの話を聞き続けた。


「そんな時だったわ…。彼が私を助けてくれたのは…。」


 そう言いながら、秋元さんの顔は少し和やかなものになった。


「彼とは誰のことですか?」


 私は秋元さんに質問をした。


「あなたはまだ会ったことはないわね。まだ学校には来てないけれど一応クラスメイトの夏川君よ。」

「夏川君って春木君がよく会いに行ってる人ですよね?」

「ええ、小学生の時に姉さんのようになろうとすることにとらわれていた私に聡太は自分らしくいて良いということを教えてくれたわ。」


「聡太に言われてからは私は…、少しだけだけど明るくなれたと思うわ。そのおかげで数人だけどクラスメイトともお話しをすることができるようになった。だから本当に聡太には感謝している。聡太が何か困ったことがあったら今度は私が聡太を助けたい!

…そう思っていたのに…。」


 秋元さんの表情は先程までとは比べものにならないほど暗い表情になった。

それは自分の過去に強い後悔がある。

そう感じさせるものだった。




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