第29話
遡ること6日前———
5月19日 22時
僕は父に呼ばれ、部屋から出て、リビングの方に向かった。階段を降り、リビングのドアを開けると父と一緒にお母さんもいた。
僕が部屋から出ないのが原因であるが、こうやって親と3人で顔を合わせるのは久しぶりだ。
相変わらず父からは厳格な雰囲気を感じる。昔からそうだ。そしてはじめての子供だった僕は小さい頃から厳しく育てられた。
勉強にスポーツどちらも1番であるように言われ続けた。
そして僕はずっと1番であり続けた。
こんなこと言ったら香恋に悪いから絶対言えないけど特別な努力は一切しなかった。
そう…、僕は昔からなんでもできてしまった。
他人よりも才能に恵まれていた。
だから親や周囲の期待に応え続けることができた。
中学2年生までは…
全部あの時からおかしくなってしまったんだ…。
僕が過去の事を考えていると食卓の椅子に座っている父から話しかけられた。
「聡太、母さんと俺の前に座りなさい」
「はい」
母さんは父の隣に座っている。
僕は言われたとおりに父と母さんの前に座った。
「今日学校から連絡が来た。どうやら今は中間テストの時期のようだな。」
父はなんとも言えない雰囲気を漂わせながら話す。
「はい」
「だけど、聡太。お前は今日も学校に行かなかったようだな。」
「……」
「それどころかまだ一回も学校に登校してない。担任の先生からそろそろ出席日数も危なくなってきたと言われていた。」
「……」
「黙ってないで何か言ってみたらどうなんだ。聡太、これからどうするつもりなんだ?」
僕は今何もいうことができない。
なぜなら原因は僕にある。
反論する余地なんてあるはずがない。
僕には分からない…。
今この場面でなんて言えばいいのか…。
僕がずっと黙り込んでいるとそれに我慢できなくなった父が拳で机を叩いた。
バンッ
沈黙したリビングの中で響き渡った。
「いい加減にしろ!!いつまでこんなくだらないことをするつもりだ!!」
「…」
父の怒声は僕の心にくるものがあった。
そして父の言葉はこんなものでは終わらない。
「中学生の時まではまだ改善しようとする姿勢が見えた。だが今のお前からはそんなものが感じられない。病気の診断を受けてそれを良いことに甘えの言い訳にしているだけだ!!」
「……」
「元はと言えば高校受験の時に百合ヶ丘に下げたところからがケチの付け所だ。俺の言ったとおりの高校を受けたらこんなことにはならなかった。」
それはもう終わった話だ。
今さらそんなことを言われても仕方がない。
だけどそんなことで反論しても意味がない。
余計父の機嫌を損ねるだけだ。
すると父の隣に座っていた母さんが父の言葉に釘刺した。
「あなた!それはもう解決した話でしょ。
今さら何を蒸し返しているの?」
「だが…結果として聡太は今学校に通えてないだろ。」
「それとこれは別でしょ」
「ぐっ…」
母さんのおかげで少し父の機嫌は落ち着いた。
「しかし聡太がこのまま学校に行かなかったら最悪留年だってある。そこのところをどう考えいるんだ?」
父はそう言って僕に話をふってくる。
「学校には行かないといけない…。頭ではわかっているんだ。だけど……どうしても行くことができないんだ。」
僕は今の気持ちを素直に答えた。
「何を甘えたことを言っている!!」
しかし父の言葉は冷たいものだった。
そして父はため息をついた。
「仕方ない。聡太、月曜日から学校に行きなさい。そしてそこから毎日学校に行ったら進級できるはずだ。いいな?」
嘘だろ……。
どうやら父は僕の現状なんて知ったこっちゃないようだ。
「待ってよ。そんないきなりそんなことを言われても……」
「若い今の時期を頑張らなくてどうするつまりだ?他の子はみんな普通に学校に行っている。聡太だけ行かなくて済むことではない。」
父は昔からこうだ。
僕の言うことなんて全然聞いてくれない。
「だがもし月曜日学校に行かなかったらその時は高校を辞めなさい。」
あまりにも予想だにしないその言葉に僕は一瞬何を言われたのか分からなかった。
「え?」
僕が面食らっていると父が話し始める。
「まともに学校に通ってない子供に出すお金はない。世間体もあるが仕方がない。その時は通信制の学校にでも行きなさい。」
そう言って父は椅子から立ち、リビングから出て行ってしまった。
〜〜〜〜
5月22日月曜日
僕は6時に目を覚ました。
アラームを5個ほどセットしたおかげでなんとか目を覚ますことができた。
正直言って今日から学校に行くには無茶がある。
テストはなんとかなると思うがどうしても気持ちを整理することができない。
だけど…行かないとダメだ。
僕はそう思い、部屋から出ようとするその瞬間中学の時の記憶が頭によぎる。
「………」
ダメだ……。
部屋を出て、そして家を出て学校に行くなんて無理だ。
僕はその場で力が抜け、座り込むのであった。
その日の夜、僕は父から呼び出された。
案の定、父はカンカンだった。
いや、呆れ果てもう怒鳴ることすらしなかった。だけど父から一言告げられた。
「明日学校を辞めさせてもらうよう連絡する」
そう言われた後僕は部屋に戻った。
どうしてだ?
どうしてこんなことになってしまったんだ?
どんなに嘆いたところでもう仕方がない。
もう僕にはどうすることも出来ないんだ。
そして思い浮かべる。
なんでも簡単にこなし、順調に生活できていたあの頃を——————
2014年
夏川聡太が中学1年生の時を…
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