第28話

 5月24日水曜日


 今日はテスト最終日である。


「終わったぞぉぉぉぉ!」

 

 俺はテストが終わった解放感からかついついガッツポーズをして喜んだ。


「大袈裟な反応ね」


 そう言って、委員長は俺に話しかけてきた。だが委員長も高校初のテストが終わってホッとしている感じだった。


「いやー、正直高校の勉強は科目が多いから大変だったよ。しばらく勉強したくない。」

「高校の入ってこれがはじめてのテストよ。まだまだこれからたくさんテストがあるわ。

今のうちから基礎は固めるに越したことはないわ。」

「た、確かにそうだな。」


 こいつ!

今ぐらい解放感に浸らせてくれよ!


「まぁ、でも今日ぐらいは自分にささやかなご褒美をあげてもバチは当たらないわね。」


 委員長がそう言うと、横から冬月が出てきて俺たちの会話に入ってきた。


「でしたらこの後3人でお茶でもしていきませんか?」

「いいわね」

「俺も賛成!」

「では終礼が終わり次第みんなで行きましょう」


 冬月がそう言い終わった俺たちは自分の席に戻った。

と言っても俺たち3人席が近いんだけどね。

 俺は終礼のために先生が教室に来るのを待って席に座っているとある男から話しかけられた。


「春木、お前最近夏川ってやつの家にプリント類届けに行ってるみたいだな。」


 そう言って話しかけてきたのは同じクラスの竹本だった。


 竹本とは以前冬月の件で揉めたことがあった無事に解決して今ではよく話す間柄だ。


「ああ、それがどうしたんだ?」

「いや、別に対した理由はないんだがこいつずっと学校に来てないな」


 竹本はそう言って、俺の前の誰も座っていない席を見る。


「夏川にもいろいろ事情があるんだよ」

「そうなんかもしんないな。…東中学の夏川って言ったら俺たちの中ではけっこう有名だったんだけどな。」

「え?それどういうことだ?」


 俺は竹本が言ったらことに疑問を抱いた。


「夏川は中学の野球部で1年の夏からレギュラーになって大会でもすごく活躍していたからな。同年代なら嫌でも名前を聞いたことがあったよ。」


 そういえば委員長が夏川は昔野球をやっていたって言ってた気がする。

それに竹本は野球部だったな。 


「それが2年生の秋頃からまったく聞かなくなったんだよな。3年生の最後の夏も活躍したって話は聞いてないし、正直この高校に入学していたって知った時は驚いたよ。」

「そうなのか。竹本は夏川と会って話したことあるのか?」

「話したことはないが1年の秋に1回だけ練習試合で会ったことはあるぞ。控えめに言って化け物だった。俺たちのチーム完敗だったし」


 確か委員長の話だとずっと4番サードだったって言っていたな。

まったくまるでかつての大打者だな。


「マジか。すげぇな」

「だから夏川が野球部に入ってくれたら戦力アップ間違いなしなんだけどな。岩瀬の言ってたとおりこの調子じゃ無理っぽいな。」

「それってどういうことだ?それに岩瀬って誰のことだ?」


 岩瀬?聞いたことない名前だな。

他クラスの生徒か?


 俺が聞き返すと竹本はその岩瀬という生徒について説明してくれた。


「夏川と秋元と同じ東中学のやつだよ。俺と同じ野球部でな。性格は置いとくとして野球の実力は本物だ。1年の中で1番上手だよ。」

「いや、俺が聞いているのは野球の実力のことじゃない。岩瀬の言ったとおりってどういうことだ?」


 俺が聞きたいことを明確にして質問すると竹本は少し嫌なことを思い出したかのように話し始めた。


「あんまり同じ部員のことを悪く言いたくないけど岩瀬は性格に難があるんだよ。自分にとって都合の悪い人間はとことん追い詰めるやつなんだ。」


 竹本は続けて説明する。


「それでこの前岩瀬が部室で夏川のことを話していてな。それで俺もこの学校に夏川がいるって知ったんだよ。まさか同じクラスにいるなんて思わなかったけど。」

「その岩瀬は夏川のことなんて言っていたんだ?」

「俺も詳しくは聞いてないから分からないけどなんか中学2年ぐらいから朝起きれなくなって学校に行けなくなったみたいだ。まぁ、あいつはそれを甘えとかサボりとかただ学校に行きたくないだけだろって言っていたけどな。」


 俺は竹本からの話を聞いて少しだけ夏川について知ることができた。


「そうか。分かったよ。ありがとな!竹本」

「おう!」


 俺は竹本に礼を言った。

するとタイミングよく野坂先生が教室に来て終礼を始めた。


〜〜〜〜


 放課後、俺たちは3人でお茶をするためにどこかのファミレスに行くため教室を出ると委員長が話し始めた。


「悪いけど、先生にプリントを貰いに行きたいから職員室に行って来るわ。少し待っていてもらってもいいかしら?」

「了解!」


 俺がそう言うと、冬月もどうやら図書室で本を返したいようなので俺は1人で待つことになった。


 1人になって俺は先程の竹本との会話で気になったことがあった。

朝起きれなくなって学校に行けなくなったって言っていたな。

夏川がサボりなんかの理由で学校に行かなくなるわけない。

何かそれだけの理由があったに違いない。


 俺はポケットからスマホを取り出し、検索ワードに文字を打ち込んだ。


 朝起きれない病気


 そう打ち込んで検索するとある病気が画面の1番上に表示された。


「起立性調節障害」


 なんだこれ?

なんだかすごく難しそうなものが表示された。

正直読みたくないが少しだけ読んでみるか。

俺は委員長と冬月が戻ってくるまでこの記事を読んだ。


〜〜〜〜


 5月25日木曜日


 テストも終わり、この4日間のテストの結果が返される。

今日は数学1、化学基礎、生物基礎、日本史A、国語総合(現代文・古文)が返された。

百合ヶ丘第三高校は赤点が39点以下である。

つまり40点以上ならセーフだ。


数学1 53点

化学基礎 67点

生物基礎 72点

日本史A 79点

現代文 56点

古文 54点


「うおぉぉぉぉ!今日返された科目全部赤点回避してるぜ!」


 ヤバイ!めっちゃ嬉しい!

しかも苦手な数学が赤点じゃないのはでかいぜ。

喜んでいると冬月と委員長が俺の返された点数を確認した。


「あなたよくこの点数で大喜びできるわね」


 委員長は呆れながら俺にそう言った。


「でも今のところは全部赤点回避してるのではじめの実力テストの頃と比べたら大きな進歩ですよ」


 すかさず冬月がフォローしてくれた。

うん!厳しくて容赦ない委員長と違って冬月は優しい!


 そして放課後になり俺たちは今日返されたテストの復習をするために委員長の家に行くことになった。


 いつものように委員長が職員室に行ってプリントを貰うため俺たちも一緒に職員室の前まで行って廊下で待っていた。


 冬月と軽い雑談をしながら待っていると職員室から委員長の驚いた声が聞こえた。


「野坂先生!本当なんですか!?本当に…聡太が学校を辞めるって言ったんですか!?」


 それは廊下にまで響きわたるほどの大きい声だった。そしてその発言には委員長は到底受け入れることができない様子が伝わってきた。



 え?

夏川が…学校を辞めるだと!?


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