第30話
「お母さん、じゃあそろそろ学校に行くよ!」
僕はそう言って、いつものようにスクールバックを背負って玄関で靴を履きドアを開けた。
「行ってきます!」
僕が元気よく言うと、お母さんもいつものように言った。
「行ってらっしゃい!」
これはなんの変哲のない毎朝の日常。
僕は別に急いでいるわけではないが走りながら学校に向かった。
しばらく走って向かっていると目の前に見慣れた後ろ姿の生徒を見かけた。
「おはよう!香恋!」
「ええ、おはよう」
不機嫌そうな面持ちで返事をしてくれた。
「相変わらず今日も早いね。香恋は」
「当たり前よ。なるべく余裕を持って行動した方がいいに決まってるでしょ。」
「たしかにその通りだね」
香恋とは昔からの付き合いだ。
家が近所で物心ついた時から一緒にいる。
幼稚園、小学校と一緒で今年から中学生になったけどそれも同じ学校でしかも同じクラスである。
「というか夏川君、前にも言ったわよ。私たちもう中学生になったんだから今までみたいに下の名前で呼ぶのはやめてくれないかしら」
香恋は少し怒り気味で僕に指摘してくる。
なるほど。今日開口一番で機嫌が悪かったのは僕が下の名前で呼んだからか。
「そう言われても今までずっと下の名前で呼んでたからいきなり苗字って言われても違和感しかないな。」
「そこは慣れなさいよ」
「まぁ、なるべくそうするようにするよ。てかせっかくだし一緒に学校に行こうよ!
香恋」
「夏川君…、さっきまでの話聞いてた?」
そんな感じで香恋と一緒に学校に行くのであった。
学校に着いて、教室に入るとクラスの友達から話しかけられた。
「よー!夏川!なんだよ、お前ら今日も仲良く2人で登校かよ。」
そう言って、クラスの男友達からからかわれた。
「家が近所だからね。登校しているとよく一緒になるんだよ。」
僕が説明すると男友達は腑に落ちない様子だった。
「とか言って本当は付き合ってんじゃないのか?お前ら」
「い、いや、別にそういうわけじゃないんだけど…」
僕が返答に困っていると隣から香恋が言葉を返した。
「何度も言ってるはずよ。私たちはただの幼馴染なだけよ。あまりくだらないことは言わないで!」
香恋は男友達にそう言い放ち、自分の席に向かった。
「こえ〜、夏川!お前の幼馴染言い方きついぞ」
「た、たしかにそうかもしれないね…」
なんだか空気が気まずくなったので僕たちはその場を後にして自分の席に着いた。
席について、一眼目の授業の教科書とノートをバックから取り出した。
中学生になってしばらく経つけどどうにもまだ慣れないことがある。
それはみんな男女関係に敏感なことだ。
小学校の頃は香恋と一緒にいても何も言われなかったのに中学生になった途端みんな僕達の関係について関心を示してくる。
香恋もそれが嫌みたいで学校では下の名前で呼ぶのは禁止されているし、どうにもやりにくいな。
僕がそんなことを考えていると教室の前の方のドアが開き、先生が入ってきた。
僕は一旦頭をリセットして授業に臨むのであった。
〜〜〜〜
放課後、僕は帰りの準備をしていた。
帰りの準備といっても中学生はこれから部活動があるけどね。
中学校と小学校の1番の大きな違いは部活動だと僕は思う。
僕が入部したのは野球部でこの辺りではそれなりの強豪校である。
練習もハードでしんどいけど野球は小学校の頃からやってるから辛くはない。
とりあえず今の目標はレギュラーになることである。
まだ入部してから2ヶ月ぐらいしか経ってないし、基本的に1年生は試合には出れないけどやっぱり野球は見てるよりする方が僕は好きだから絶対に夏の大会までにレギュラーになるつもりである。
終礼も終わり、僕は部室に行くため教室を出ると偶然先に教室から出ていた香恋と目があった。
「香恋はもう帰るの?」
「18時ぐらいまで図書室で勉強するつもりよ。」
「そうなんだ。今学校が終わったのにすぐに勉強するなんてすごいね。」
「そんなことを言うならあなたもこれから部活でしょ。うちの中学は強いから練習も大変じゃないの?」
「まぁ、そうだけどそこまでしんどくはないよ。だけど部活をする代わりに成績は落としてはいけないってお父さんに言われているからそこが大変かな。」
「そう。だけどあなたこの前のテスト学年1位だったわよね?部活もやっていて一体いつにそんなに勉強してるの?」
「家に帰ったらかな。その日の復習と次の日の軽い予習ぐらいしかしてないけど。」
僕がそういうと、香恋は心底呆れた様子で僕を見てくる。
「そう。なんだか私がこんなに勉強しているのがバカらしくなるわね。」
「いやいや、香恋だってこの前のテスト上位だったじゃないか」
「1位の人が5位の私にそんなこと言っても嫌味にしか聞こえないわよ。」
「うっ、なんかごめん」
僕の反応が予想外だったのか香恋は少し動揺した感じだった。
「べ、別にそんなつもりで言ったわけじゃないわ。それよりそろそろ部活に行った方がいい時間でしょ。」
「たしかにそうだね。じゃ!また明日!香恋!」
「ええ」
僕は香恋にそう言って、部活に行くのであった。
〜〜〜〜
部活が終わり、家に着いたのは19時30分だった。
「ただいま」
ドアを開けて家の中に入ると、弟の太一が
僕のことを出迎えてくれた。
「おかえり!兄ちゃん!」
「ああ!ただいま」
「兄ちゃん!野球部の練習どうだった?」
「どうって言われてもな…楽しかったよ」
弟の太一は基本、僕がやってることはなんでも真似してやりたがる。
僕が小学校から野球しているからか太一も野球をしたがっているがお父さんからまだ許しをもらってないようだ。
「今度僕とキャッチボールしようよ!」
「うん!いいよ!」
僕が太一と約束して、とりあえず部屋に戻り部屋着に着替えた。
リビングの方に行くとお母さんとこの時間帯では珍しくお父さんもいた。
「ただいま」
僕がお母さんとお父さんに挨拶するとお母さんは優しく返事をしてくれた。
「おかえり!聡太、お腹減ったでしょ。晩御飯できてるわよ」
「ありがとう」
僕はそう言って、食卓の椅子に座り、ご飯を食べようとした。
するとお父さんが話しかけてきた。
「こんな時間まで部活をしていたのか?」
「うん。そろそろ夏の大会をひかえているから練習に熱が入ってしまったよ。」
「学業に支障が入らない程度にしなさい。
もし成績が下がったら野球はやめてもらうからな」
お父さんは僕が野球をしているのをあまりよく思ってない。
本当は中学からは私立中学に入らせて勉強を頑張ってもらいたかったようだけど僕は小学校の友達が行く公立の中学に入った。
そして部活動までしているからお父さんは僕にいい顔はしてない。
代わりに条件で学年1位をキープするなら野球を続けて良いと言われていたので僕は野球と勉強どちらとも頑張っている。
「それと高校は俺が選んだところに入りなさい。いいな?」
「分かったよ。」
お父さんが僕にそんなことを言っているので横からお母さんがお父さんに注意をした。
「あなた!聡太はまだ中学生になったばかりよ。何も今はそんなこと言わなくてもいいはずよ。」
「今のうちから意識させといた方がいい。
それにお隣の秋元さんのとこの長女はあの撫子学院高校に通っていたそうだ。」
撫子学院高校
その名の通り昔は裕福な家の女の子が通う女子校だったようだが近年の少子化に伴い、数十年前から共学に変えてから男女問わず高い偏差値を誇る高校である。
この辺りの優秀な子なら絶対に一度は考えたことがあるような学校だ。
卒業生のほとんどは最難関大学に合格しているし、まさにエリート高校だ。
「聡太、お前も高校は撫子学院高校に行きなさい。」
「分かったよ」
僕はお父さんの言われたとおりにするだけだ。
そう、この時はまだそれができると思っていた。
だけど後に僕はお父さんどこらか先生、同級生そして香恋すらもがっかりさせるほど落ちぶれていく。
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