第17.5話

「ねー!お姉ちゃん!一緒に遊ぼうよ!」

 

 私が学校から帰宅すると妹の香奈美が勢いよく私に抱きついてきた。


「ごめんね。香奈美、お姉ちゃん今日からテスト週間だから勉強しないといけないのよ。」


 私がそう言うと、香奈美は頬を膨らませながら上目遣いでこちらを見てくる。


「えぇ〜!別にいいじゃん!お姉ちゃん毎日勉強してるんだから1日ぐらい大丈夫だよ!」

「1日休んでしまったらそれを取り戻すのに3日はかかるのよ。」

「嫌だ!遊ぶの〜!」


 駄々をこね始めてしまった香奈美の対応に困っているとお母さんが来てくれた。


「香奈美!お姉ちゃんが困っているでしょ。あまりわがまま言わないの!」

「嫌だぁ〜!」


 香奈美は私に抱きついて身動きを取れないようにされていたがお母さんが香奈美と私を離してくれたおかげでなんとか動けるようになった。


「ごめんね。香奈美、また今度一緒に遊ぼう。」

「もういい!!お姉ちゃん嫌い!」


 私がそう言うと、今にも泣きそうになっていた香奈美は走ってリビングに行ってしまった。


「ごめんね。香恋、あの子太一君と遊びたかったみたいだけど野球教室で遊べなくて今日1日ずっと誰かにかまってもらいたかったのよ。」

「別に大丈夫よ。晩御飯の時間まで自分の部屋で勉強するわ。」

「分かったわ。勉強を頑張るのもいいけど程々にしなさいよ。」

「ええ。」


 私はお母さんにそう言って、自分の部屋に行った。

部屋に入って、制服から部屋着に着替え、勉強を始めようとしたら電話がかかってきた。

スマホの画面を見ると夏川聡太と表示されている。

私はすぐに電話にでた。


「もしもし、どうしたの?」

『香恋、今電話しても大丈夫かな?』

「ええ、少しだけなら大丈夫よ。」

『ありがとう。春木君から聞いたよ。勉強見てくれたみたいだね。』

「あなたから昨日頼まれたからそうしただけよ。だけどいきなり電話してきた時は驚いたわ。」

『急に電話してこんな事を頼んでごめんね。』

「別に大丈夫よ。ただ私が勉強を教えたとしてもそれで春木君の成績が上がるかまでは保証できないわ。」

『たしかに春木君の学力は僕が思ってたよりも酷かったよ。』

「そうね。」

『だけど、彼なら絶対なんとかすると思うよ。』

「そう。随分と彼と仲良くなったようね。あと私これから勉強したいからもう電話を切らせてもらうわ。」

『うん。分かったよ。それと最後に君に言いたかったことがあるんだ。』

「何かしら?」

『この前は八つ当たりのような形で君に強く言ってしまってごめん。』


 彼はそう言って、電話を切ってしまった。


「本当に謝らないといけないのは私の方よ。」


 誰もいない部屋で、私は静かにそう言った。

今更後悔しても遅いというのは分かっている。それでもずっとずっと私は悔やんでいる。中学の時、私1人でも彼の味方になっていたら彼は不登校にならなかったかもしれない。

彼が学校に来なくなってから私はずっと彼の家までプリントを届けに行っているがこれは唯一の私の贖罪である。

だけど最近少しずつ夏川君は元気を取り戻している。

それは間違いなく春木君の力だ。

幼馴染の私には出来なかったことを春木君はあって間も無くすぐにうちとけて殻に閉じこもっていた夏川君が本来の自分に戻ろうとしている。


 私も春木君のように夏川君の心に寄り添うことができたらよかった。


 だけど私にはそれができない。

いつも肝心な時に何もすることが出来ずにいる。


 私は自分の無力さを痛感するのであった。

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