第6話

 4月10日

 入学式や教科書購入も終わり、土日を挟み、月曜日になった。

今日から授業もスタートし、本格的に高校生生活が始まっていく。

俺たちの記念すべき1限目は、実力テストであった。しかも国語、数学、英語の3科目なので

3限目までびっしり、テストである。


「あぁ…帰りたい」


 俺の今1番の心の声である。


「まだ1限目も始まってないのに帰りたいなんて早すぎますよ!」


 そう言って隣りの席の冬月は話しかけてきた。


 というか俺今うっかり声に出していたのかよ!恥ずかしすぎるだろ!


「いやだって!せっかく受験が終わって高校生になったのにまたすぐに入りたてでテストがあるのかよ!だるすぎるだろ!」

「たしかに気乗りはしませんが現時点で自分がこの学校でどれくらいの位置にいるのかが把握できるのでいいじゃないですか。」


 冬月は笑顔でそう言ってきた。


 こいつやっぱり真面目ちゃんだな。


「まぁ仕方ないからテストは受けるけど、俺あまり勉強は得意じゃないんだよ。」

「まぁこの前一緒に喫茶店に寄って勉強をしましたがそんな感じはしますね。」

「意外にはっきり言うじゃねぇか。」

「それでも成績には反映されないの気負わずに受けたらいいですよ!」


 そう言って冬月は俺のやる気を鼓舞するかのように言ってきた。


「はい!みんな!先に着いてね!これから3限までテストだけどみんな頑張ってね!」


 そう言いながら担任の野坂先生が教室に入ってきた。


 今から3限まで俺の地獄の時間が始まるぜ。


〜〜〜〜


「終わったぞぉぉぉぉーー!!」


 無事(?)にテストを終え、俺は心から込み上げてくる達成感に浸っていた。


「お疲れ様です。テストの方はどうでしたか?」

「冬月、それは聞かない約束だぜ。」

「いつ約束したのかは分かりませんが、これ以上聞かない方が良いという事は分かりました。」

「そういえば、4限目ってなんだっけ?」

「たしか情報だったはずです。」

「情報だったらコンピューター室に移動しないといけないんじゃないのか?」


 そんな感じで確かめ合いながら話していると教卓でみんなの解答用紙をまとめ終わった野坂先生から説明があった。


「みんな!テストお疲れ様!それと今日の4限目は情報になってると思うけどコンピューター室は1つ上の階だからみんな遅れずに移動してね!」


 そう言って野坂先生は教室を出て、職員室の方に帰っていった。



「なるほど。コンピューター室は1つ上の階か。よし!冬月一緒に行こうぜ!」


 俺は上機嫌に冬月を誘った。


「はい!行きますか。それと1つ気になっているのですが春木君はどうして今そんなにテンションが高いのですか?」


 冬月はおかしな奴を見る目で俺に疑問を問いかけてきた。


「実は俺、主要5科目は苦手だが情報や家庭科は得意なんだよ。」

「そうなんですか?私はパソコンなどの機械系が苦手なので羨ましいです。」

「高校の授業でするWordやExcel程度ならバッチリだから困ったことがあったらなんでも聞いてくれ!」

「ふふ、それは心強いですね。宜しくお願いします。」

「その代わり主要5科目は任せたぜ。」


 そんな会話をしながら俺たちはコンピューター室に移動した。


〜〜〜〜

 情報の授業を終え、俺たちは教室で昼食を食べながら昼休みを満喫していた。


「あっ!?やべ、飲み物買うの忘れてた。ちょっくら校内の自販機で飲み物買ってくるよ。」


 俺は冬月にそう言って、自販機のあるところに向かった。


「えーと、コーラにするか!」

そう言って自販機でコーラを購入し、教室に戻る途中の階段で何か落ちているのが見えた。


 これって、野球ボールのストラップか?

誰かが階段を通るときに落としたのかもしれないな。俺はそう思い、クラスメイトに聞くことにした。

しかしクラスの野球部らしき人たちに聞いてもみんなこのストラップの持ち主ではなかった。

俺はダメ元で冬月にも聞いてみることにした。


「なぁ冬月。このストラップ誰のか知らないか?」

「これっておそらくですが秋元さんの物じゃありませんか?」

「え?秋元さんのか?」


 それは予想してなかった返しであった。


「はい、テストが始まる前に秋元さんが筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出すときに一瞬でしたが筆箱に付けているのが見えました。」

「マジか、なんだか意外だな。」

「私もはじめはそう思ったのですが、思い返してみたら秋元さん、自己紹介の時に趣味は野球観戦って言ってましたよね。本当に野球が好きなんですね。」

「なるほど。分かった!秋元さんに聞いてくるよ」

「あっ、でも秋元さんさっき教室から出て行ってしまいましたよ。」


 マジかよ。

まぁ仕方ないか。


「じゃあ、ちょっと秋元さんを探してくるよ!冬月は先にご飯食べといてくれ。」


 そう言って教室を後にし、秋元さんを探したがどこにも秋元さんの姿はなかった。

校内中を回っても見つけることが出来なかった。そして少し喉が渇いたのでまたさっきの自販機の所に向かいジュースを買うことにした。


「あれ?秋元さん。こんなところにいたのかよ!」


 驚くことに秋元さんはさっき俺が飲み物を買った自販機のところにいた。俺は秋元さんに話しかけた。しかし返ってきた言葉は驚きのものだった。


「あなたは…誰かしら?」

「いやいや!なんでだよ!先週廊下で話したじゃないか!」

「悪いけど記憶にないわ。それどころかなんで私の名前を知ってるの?」

「同じクラスだろ!てか俺、秋元さんの席から2つ後ろの席だし。」

「ごめんなさい。昔から興味のない人の顔と名前は覚えられないの。」


 この人やっぱり相当気難しい人だぞ。

俺はそう思いながらもストラップを出して彼女の物でないか聞いた?


「え?これどこにあったの?」

「階段のところに落ちてたんだよ。おおかた情報の時間にコンピューター室に移動する時に落としたってところだろ。」

「ええ、コンピューター室に向かう時まではあったのに昼休みに昼食を食べ終えた後に無くなっているのに気づいてずっと探していたの」

「なるほどな!まぁ持ち主が見つかってよかったよ」


 俺はそう言って秋元さんにストラップを渡した。


「ありがとう。その…助かったわ」

「別にいいよ。それにしても筆箱にストラップをつける程だから本当に野球が好きなんだな!」

「ええ、野球は好きよ。」

「だったら野球部のマネージャーとかいいんじゃないか?」

「悪いけど興味のない人達のサポートをするほど私は暇じゃないわ」

「そ、そうか…」


 予想だにしない辛辣な物言いに俺は言葉を無くしてしまった。


 この人すげぇ無愛想だし、今のところ教室で誰かと話しているのを見たことないし、友達いないのか?

俺がそう思っていると秋元さんが返事を返してきた。


「それともう用事が済んだのなら、私は教室に戻らせてもらうわ。」

「あ、ああ。じゃ、またな。」


 秋元さんは立ち去ろうとしたがすぐに足を止め、もう一度俺に話しかけてきた。


「最後に聞きたいのだけれど、あなた名前はなんていうの?」

「春木桜だよ。てか自己紹介の時に言っただろ。」

「興味がなかったから頭に入ってなかったわ。春木桜ね。少なくとも苗字だけは覚えておくわ。」

「そこはフルネームで覚えてくれよ!」


 秋元さんはそう言って俺から立ち去って言った。いつも仏頂面で無愛想な秋元さんだがストラップが見つかったためか珍しくも物腰の柔らかい雰囲気だった。


「俺も教室戻って昼飯でも食べるか。」


 そう思って教室に戻ろうとした瞬間チャイムがなった。


「え?」


 これは昼休みが終わり、5限目開始5分前のチャイムである。


 マジかよ。俺まだ何も食べてないぞ。

今から戻っても絶対間に合わないだろ!


 俺は慌てて教室に戻ったが現実は残酷である。時間は自分の都合で止まってはくれない。

俺は昼飯抜きで5限目の授業を受けることになるのであった。

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