第45話

 今日、父さんが学校に連絡を入れたと母さんから聞いた。

手続きがあるからすぐにはやめれないようだがもうどうだっていい…。

何もかもどうでもいい…

どうせ…学校に行っても僕は…、


 電気もつけず、薄暗い部屋で僕はそのまま時間が過ぎるのを待つ。

何もやることがない。

何をしたらいいか分からない。

ただただ有り余る時間を消費するためにゲームをしたり、アニメを観たりする。

昼夜逆転をしていると基本的に太陽の光を浴びることなんてない。

窓から見る景色はいつも真っ暗で家の灯りすらなく、無音で殺風景だ。


 初めはただ逃げたかっただけだった。

僕のせいで2年連続全国大会出場という目標を潰してしまった。そして僕の空回りした行動で部員からも見放されてしまった。


 悲しかった…、悔しかった…、そして何より病気になって今までできた日常生活がままならなくなった自分が情けなくてしょうがなかった。

今でもたまに夢に出る。

決勝戦に負けて一塁ベースで蹲っている自分の姿が…


「くそっ!いつまで引きずるつもりだよ」


 あの時から僕の時計の針はずっと止まっているのかもしれない。

あの瞬間からずっと頭が真っ白なままだ。

自分が何をしたいのか…、どうしたいのかわからない。

野球部を辞めたあと、僕はどうしたらいいのか分からなかった。

撫子学院高等学校に受かるために勉強はした。だけど…僕はその先のビジョンが見えなかった。

なぜ野球を辞めてまでそこに行かないといけないのか?

そこに行ってどうなるのか?

考えても仕方のないことをずっと考えていた。

それに疲れたのか僕は3年生なった頃には学校に行かなくなった。

撫子学院高等学校も受験する意味を見出せなく結局受けなかった。

このまま中卒になりそうな状況でギリギリ百合ヶ丘第三高校を受験して合格したけど結局一回も登校しないで終わることになったよ。


 香恋には悪いことしたな…

毎回プリント類を持ってきてくれて感謝している。

本当…不器用だけど香恋は昔から優しかったな…。

誰よりも真面目で他人にも自分にも厳しく、目標を達成するために愚直に努力を積み重ねることのできる香恋のことを僕は小さい頃から密かに憧れを抱いていた。


 香恋は香織姉さんのようになるために頑張っていたけどそんな必要はないと思う。

確かになんでもスマートにこなせる香織姉さんもすごいと思うけど僕からしたら困難にぶつかっても折れずに努力し続ける香恋の方が何倍も輝いて見えた。


「僕も…もう少し、香恋みたいに強かったら良かったのに…」


 そんなことを思っても仕方がない。

すべて後の祭りだった。

もう全部終わった…。 


 黒いモヤのようなものが僕の心を蝕んでいく。

もうこのままずっと僕は部屋から出れないのではないか?

みんな僕より先に進んでいく。

僕は置いて行かれていく。

この先の人生はずっとずっとひとりぼっちなんだ。


 部屋の隅で体を丸まって座っていると部屋の外からたどたどしい足音が聞こえる。


 何かな?太一の足音とは違う


 僕がそんな疑問を持っていると急にドアの向こう側から話しかけられる。


「聡太!」


 その一言で誰なのかすぐにわかる。


「香恋?どうしたの」


 いつもの香恋とは様子が違う感じがした。

おそらく僕が学校を辞める話を聞いたのかもしれない。







 これから起きる出来事は僕の人生において大きな分岐点なった。

そしてこの先絶対に忘れられない1日となる。


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