第43話

 私は職員室で聡太に渡すためのプリント類を貰いに行った。

もうこれは私にとっての習慣になっている。

澪と春木君は廊下で待ってもらって私は職員室に入る。


「野坂生生、本日のプリントをいただいてもよろしいですか?」


 私がそう言うと野坂先生は複雑そうな表情になる。


「野坂先生…?」

「秋元さんはまだ聞いてないみたいね。」


 私は先生の言った意味が分からなかった。

一体なんのことを言っているのか見当が付かない。


「今日の午前中に夏川君の親御さんから連絡があったの。夏川君…学校を辞めるそうなの」

「…え?…」


 私は今の言葉で頭の中が真っ白になった。


「明日手続きで親御さんが学校を訪れることになってるの…」


 いつも明るい野坂先生が今はどことなく暗い様子だ。

先生も何か思うことがあるのかもしれない。

だけど…今の私には冷静に考えることなどできなかった。


「……とう…なん…です…か?…」


 私はひどくか細い声で野坂先生に質問する。

自分が思ってるよりも私は動揺していたようで思うように声が出ない。


「秋元さん…」


 先生が心配そうな様子で私を見る。


 私は動揺を抑えて、声を振り絞って言った。


「野坂先生!本当なんですか?本当に…聡太が学校を辞めるって言ったんですか!?」


 動揺のせいか声量の調整が上手くいかなかった。

普段なら絶対に出さないような大きな声で私は野坂先生に質問する。

私の声は廊下中に響き渡る。

しかしそんなことは今の私にはどうでもいいことだった。


「私は…納得できません!まだ…聡太は一度も学校に来てないですよ!判断するには早いですよ…」


 私がそう言うと野坂先生も一瞬悲しそうな表情を浮かべたがすぐに毅然とした面持ちに変わる。


「いいえ、夏川君の親御さんの判断は決して間違っているものではないわ」


 私は先生の言葉を素直に受け止めることは到底できなかった。

私は先生に背を向けてすぐにその場を立ち去った。


「お、おい!委員長!」

「香恋!何があったのですか!?」


 ドアを開けた瞬間に廊下で待ってもらっていた2人が私に声をかける。

しかし今の私は2人に返答する余裕などなかった。

私はそのまま廊下を全速力で走り去っていった。


 こんなかたちで聡太に学校を辞めてほしくなかった。

本当に聡太が学校を辞めるつもりなのか確かめるために私は聡太の家に向かうのであった。





 いつも凛とした委員長があんなに血相を変えて廊下を走り去っていくのを俺は黙って見ることしかできなかった。


「委員長、あいつ急にどうしたんだよ」

「分かりませんが…何かあったということは容易に想像できますね」


 委員長が職員室から出ていく前に聞こえた言葉が引っかかる。

夏川が学校辞めるなんて俺は全然知らなかった。

少なくともこの前話した時はそんなことを考えてるふうには感じなかった。

すると職員室から野坂先生が出てきた。


「ちょっと!秋元さん!鞄置いていったままよ!」


 先生はそう言いながら、委員長の鞄を持っていた。 


「…って春木君と冬月さん。もしかして今の話聞こえてた?」


 先生は困った表情を浮かべながら俺たちに話しかけてきた。

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