第8.5話

 目を覚ますと17時15分だった。


「もうこんな時間か、今日はちょっと寝過ぎたな。」


 僕が今日就寝したのは朝の7時だった。

つまり僕は今日10時間ぶっ通しで寝ていたということになる。

普通の人ならこんなに寝ることはまず無いと思うが昼夜逆転をしているとあまり熟睡は出来ないのでよくあることである。


「今日もまたいつも通りなんかアニメでも見るか。」


 そして俺は机に置いているスマホを手に取り画面を開いた。

するとまた秋元さんから通知が来ていた。


「たしか、昨日LINEで17時30分にテストの問題用紙と解説プリントを届けるって言っていたな。」


 俺はそんなことを思い出しながら、今回来た通知を確認した。


「(秋元)ごめんなさい。学校で急に用事が入ってしまって夏川君の家に到着するのが少し遅くなると思います。」



「別にそんな無理して来なくていいのに…」


 というか毎回毎回来られるとこっちも迷惑である。別にこっちが頼んでいるわけでもないのに。


 そんなことを考えながら、僕はスマホでアニメを見ようとした。その瞬間、家のチャイムが鳴った。

 誰か家に来たみたいだな。おそらくは秋元さんだと思うが対応は弟の太一がしてくれるだろ。

 僕はそう思いスマホの操作を続けた。するとドアの向こうからこちらに話しかけてくる声が聞こえた。


「夏川君。今、時間は大丈夫かしら?」


 声の主は間違えなく秋元さんである。


 太一のやつどうやら秋元さんを家に入れてわざわざ僕の部屋の前まで連れてきたのか。


「…………」


 秋元さんと話をしたくなかった僕は返事しなかった。

しばらくの間沈黙が続いたがどちらも何も話さないでいたら先にまた話し出したのは秋元さんであった。


「あの…夏川君…、今、私と夏川君がいるクラスはとてもいいクラスだと思うわ。仲の良い人が悪口を言われたら自分の事のように怒って守ってくれる人がいるの。」


 秋元さんはそう言ってクラスのことを話し始めた。


「その人は頭はすごく悪いけど誰かのためになら行動する事の出来る人よ。…だから、夏川君がもし学校に来たとしても誰もあなたのことを腫れ物扱いしないと思う。」


 秋元さんの話はまだ続く。


「…だから、…だから、また一緒に昔みたいに学校に行ってみない…?」


 分かっていた。分かりきっていた。

秋元さんが毎回こうやってプリントなどを届けにくるのはまた僕に学校に行かせるためだということは。


 だけど今の僕にとって、これほど不愉快なことはない。


「学校には…行かない。」


 気づいたら僕は秋元さんに話しかけていた。


「というか…どうして僕が君に言われて学校に行かないといけないの?」


 僕は心の奥にしまっていた怒りを込めて秋元さんに言った。

そして一度口を開いたら今まで思っていたことが一気に込み上げてきた。


「それに僕は一回も秋元さんに学校のプリントを家に届けて欲しいなんて言ってないよね。毎回毎回迷惑なんだよ!」


 止まらなかった。

今までの鬱憤が全て出てきてしまう。


「てかなんで今さら秋元さんが僕に学校に来て欲しいなんて言うの?中学の時はまったく僕の事を信じてくれなかったのに…。」

「それは…ごめん…なさい。」


 秋元さんがかすれながら僕に謝ってくるのが聞こえた。

 秋元さんはみんなの前では凛としていて、はっきりとした物言いをするが本当は気弱で人と会話をするのが苦手だと言う事を僕は知っている。


「はっきり言って不愉快だよ!こうやって君と会話するのも嫌だよ!もう2度と僕の家に来ないでくれ!」

「ごめん…なさい…。」


 秋元さんは悲しそうな声でそう言い「プリントをここに置いていくね」といい帰ってしまった。


 こんなの八つ当たりだ。

僕は今秋元さんを傷つけてしまった。

それでも僕はもう誰とも会いたくない、そして誰かと繋がりを持つのが怖い。


「…一応、秋元さんが持ってきたプリントを見るか」


 そう思い、僕は秋元さんが置いていったプリントを回収して中を見た。

入っていたのは国語、英語、数学のテストと解説プリントだった。


 見た感じ中学のおさらいってところかな。

あまり難易度も高くないな。

暇だし、試しに解いてみるか。


 そう思っているともう1枚何かプリントがあるのが見えた。


「これは解答用紙かな?秋元さんが間違って自分のを入れてしまったのかな?」


 勝手に人の解答用紙を見るのは悪いと思ったが秋元さんは頭がいいので高得点とっているのだと思い、解答用紙を見た。


「え?数学18点…、なんだこれ?」


 秋元さんがこんな点数をとるはずないし、一体何があったんだ?

すると名前が見えた。


「春木…桜。」


 どうやら違う人の解答用紙が紛れ込んでいたみたいだ。

それにしてもどうやったらこんな点数を取るんだ?


 この時の僕は知らなかった。

まさかこの春木桜と言う人間が近いうちに僕の家に来ると言う事を…。


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