第23話

 俺は香奈美ちゃんを探すために太一君と2人で辺りを回っている。


「どこにいるんだ?全然見当たらないな」


 家の周辺を探してみたが香奈美ちゃんの姿はなかった。


 少し感情に身を任せすぎたな…。

考えてみたら俺じゃあ香奈美ちゃんがこういう時どこに行くのか見当がつかないな。


 

 俺は先程の委員長の家で起きたことが脳裏によぎる。


 だけど今こんなことを考えても仕方のないことだ。今は全力で香奈美ちゃんを探さないといけないな。


 俺が気持ちを切り替え、香奈美ちゃんを探していると太一君が話しかけてきた。


「春木さん!ここにもいないなら香奈美が行きそうな場所は多分あそこしかないと思います。」


 太一君は香奈美ちゃんの2つ年上の幼馴染だから香奈美ちゃんのことを理解しているようだ。


「ついてきてください!」

「分かった」


 俺は走り出していく太一君について行った。


〜〜〜〜


「だいぶ走っているけど俺たちどこに行っているんだ?」

「香奈美や僕がよく遊んでいる公園です。

家からだと少し距離がありますが春木さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。だけどこんなに離れている場所に香奈美ちゃんよくこんな短時間で行ったな。」

「すいません。はじめは家の近くにあると思ったのですがどこにもいなかったのでその間に公園に行ったのだと思います。」


 俺たちは急いで、その公園に向かった。

5分ぐらい走り、やっとその公園にたどり着いた。家からおよそ20分ってところか。

普通に遠いな。


 俺たちは公園の中に入り、辺りを見合わした。すると太一君がブランコを方を見て俺に話しかけた。


「春木さん、いましたよ。」


 俺もブランコの方を見てみると1人の女の子がブランコに座っていた。

あの人影は確かに香奈美ちゃんだな。


 俺は太一君と一緒にブランコのところに行った。そして俺たちが来たことに香奈美ちゃんはいち早く反応した。


「あっ!?」


 香奈美ちゃんは俺と太一君を気づくとすぐに目を逸らした。


「香奈美ちゃん、もう外も暗いしそろそろ家に帰らないか?」


 俺は香奈美ちゃんに警戒されないように優しく語りかけた。


「嫌だ!!私家には帰らないもん!お姉ちゃんに会いたくないもん!」


 だが俺の計らいは全く意味もなく香奈美ちゃんはそう言ってそっぽを向いた。


 え〜、どうしよう…。

こういう時なんていうのが正解なんだ?

全く分からんぞ。


「まぁまぁ、そんなこと言わずにお姉ちゃんだって心配してるぞ」

「ふんっ」


 香奈美ちゃんはそう言ってまたそっぽを向いた。


 俺が香奈美ちゃんの説得に苦戦していると後ろにいた太一君が香奈美ちゃんの方に詰め寄った。


「わがままもいい加減にしろよ!香奈美」


 太一君は香奈美ちゃんにそう言い放った。


 おい!待てよ。

そんなに強く言ったら香奈美ちゃんまた泣いてしまうぞ。


「うぅ、太一ぃ」


 香奈美ちゃんはそう言ってまた涙目になった。


「いやいや香奈美ちゃん、仕方ないさ。

お姉ちゃんも試験とかが重なって少しピリピリしてただけなんだよ。今帰ったらお姉ちゃんだって許してくれるさ」


 俺は泣きそうになっている香奈美ちゃんをフォローするためにそう言った。

すると太一君が横から「なるほど」と言っているのが聞こえた。


「香奈美、何があって家から飛び出してきたんだ?」


 太一君は香奈美ちゃんに質問する。


「だって、だって誰も香奈美に構ってくれないんだもん」


 香奈美ちゃんは涙目でそう言った。


「かおりお姉ちゃんはろーすくーるに行き始めて忙しいって言って遊んでくれないしかれんお姉ちゃんも勉強が忙しいって言って遊んでくれないもん!」


 香奈美ちゃんはそう言って目からポロポロと涙を流し始めた。


「ううっううっ…」


 香奈美ちゃんは両手で目元を擦りながら泣いている。


 辺りが静まり返る。

聞こえてくる音は香奈美ちゃんの泣いている声だけである。

俺が何か言おうと口を開こうとした瞬間太一君の方が先に話し出した。


「そうか。香奈美は寂しかったんだな…。」


 太一君はそう言って片膝を地面につけ、目線をブランコに座っている香奈美ちゃんに合わせた。そして右手で香奈美ちゃんの頭を撫で始めた。


「うぅ…、太一だって…少年野球始めて前より遊んでくれなくなったじゃん」

「悪かったな。僕も少し野球に夢中になりすぎて香奈美に気を遣ってなかったよ」

「別に……もういいもん」


 太一君と話したことでさっきまで泣いていた香奈美ちゃんも落ち着いてきたようである。


 

 てか太一君すげえな…。

なんなんだ?これは…。

幼馴染にしかない信頼関係ってやつなのか?

一連の太一君の動作が主人公にしか見えねぇぞ。


「そろそろ遅いし家に帰るぞ。香奈美」


 太一君がそう言うと香奈美ちゃんは暗い顔をしながら地面の方を見る。


「家に帰ったらお姉ちゃんに怒られるよ」

「大丈夫。俺も一緒に謝るから。だから帰ろうぜ」


 太一君は笑顔でそう言って右手を差し出した。


「うん!」


 太一君のその言葉のおかげで香奈美ちゃんも笑顔になり、太一君の手を取りブランコから立ち上がった。


「よし!帰ろうか」

「うん!」


 2人とも手を繋ぎながら歩き出した。



 これ絶対俺いらなかったな…。

完全に2人の世界が出来上がってるぞ。

てか2人とも俺を置いていくなよ!


「待ってくれよー」


 俺はそう言って2人の隣に行くのであった。


〜〜〜〜


「お姉ちゃん怒ってるかな?」


 帰り途中、香奈美ちゃんが不安げに太一君にそう問いかけてきた。


「僕はその時の香恋姉ちゃんを見てないから分かんないな。春木さんはどう思いますか?」


 おお!

太一君俺にも話題を回してくれた。

ナイス!


「どうかな。だけど香奈美ちゃんが心配するほど怒られないと思うよ。」


 俺は素直に思っていることを言った。


「なんでー?」


 疑問に思った香奈美ちゃんが俺に質問してくる。


「委員長は普段はあんな感じだけど本当は香奈美ちゃんのことを大事に思ってるよ」

「香奈美にはそれが分かんない」

「まぁ、家に帰ったら分かるよ」


 冬月も気付いてると思うけど俺たちが家に来た時に香奈美ちゃんが委員長に抱きついた時の表情は俺たちには絶対見せないものだものな。



 俺の言ったことに納得いかなかった香奈美ちゃんは頬を膨らませながらこっちを見ている。


「着いたな!」


 話しているといつの間にか委員長の家に到着していた。


「よし!行くぞ!」


 俺はそう言って、玄関のドアを開けるのであった。



 











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る