「まったく……体冷えちまったじゃねーか。ふざけんな……！」

『大虎』と警官に言われた女は素っ裸のまま忌々し気にそう言いながら頭を掻いた。

　てか、『ふざけんな！』はこっちのセリフだってーの！

「……お前、なんなんだよ？　警官追い返すとか、何やったんだ？　それとも親が大物政治家とかか？」

　目の前の女が素っ裸なのもそれどころじゃなく、俺は頭が混乱してるのを感じつつ何とか口にした。なのにこいつは、

「んなわけねーっての。ちょっと何回かゴネてやっただけだよ。服とかその場で脱いでよ」

　平然と言いやがった。

　後で分かったことだが、こいつ、これまでにも何度も警察を呼ばれてその度にさっきの調子で騒ぎ立てて、でも毎回大した罪状にならないことばっかりで警察としても手を焼いてる厄介者だそうだ。しかも、警官に掴みかかったりしたら＜公務執行妨害＞で引っ張られることも分かってて、だから自分から服を脱いで、

『警察官に襲われる～！　犯される～！！』

　と大声で叫んだり。

　で、ついたあだ名が＜大虎＞。酒癖悪くて飲んじゃやたら気が大きくなったり暴れたりする奴をそう呼ぶが、こいつは酒も飲んでねークセに暴れんだよ。こいつの所為で始末書書かされた警官も何人もいて、

『大虎には関わるな』

　ってのが合言葉になってるらしい。

　なんて無茶苦茶な奴なんだ……

　さらにこいつ、風呂場に戻って自分のスマホを手にして、

『まあまあ落ち着いて。近所迷惑ですからね。とにかく彼女は大丈夫なんです。ですから協力をお願いします。一晩すれば帰ると思いますから。では、我々はこれで』

　さっきの警官とのやり取りを録音してやがった。実は風呂場にいる時にはもう来たのが警官だって察してスマホの録音アプリを起動させて録音しつつ一芝居打ったってことか。そしてスマホを振りながら、

「あんたもさあ、これくらい頭使わないと、あいつらすぐに自分が言ったこと、なかったことにするよ？　通報した時には必ず録音。これ常識」

　とか言ってきやがった。それで察したよ。こいつ、勉強とかは嫌いだが地頭は悪くなくて、悪知恵は働く奴だって。

　くそっ……！　エラい奴に目を付けられちまった……！

　俺は自分の運の悪さを呪った。妥協したとは言っても前妻みたいな女を掴んだ上に今度はこれかよ。女難の相でも出てんのか？

「ほらほら、この体、自由にしていんだぜ～？　しかも警察公認で」

　なおも素っ裸で自分の胸を掴みながら見せ付けるようにして大虎が言ってくる。

　なるほど普通の男ならそれで言いなりにもなるのかもしれねえ。でもな、今の俺には逆効果なんだよ！

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