今の羅美の<素>
一万三千円もする、
<でかいサメのぬいぐるみ>
クリスマスのプレゼントとしてほいほい承諾することを、
『甘やかしてる!』
という奴もいるだろう。けどな、こうやって羅美と一緒に暮らして直に彼女のことを見てるわけでもねえ奴に何が分かるってんだ? それが分かるんなら、赤の他人のことがなんでも分かるってんなら、なんで人間関係で悩んだりする? ましてやまともに他者に関わることもできねえような奴が、実際に関わってるわけでもねえ羅美のことを語るんじゃない。
俺は別に『甘やかす』ためにそれをプレゼントするわけじゃない。ただ、羅美がこれまで甘えてこれなかった分を、少しばかりまとめて提供したいだけだ。
毎回、一万円オーバーのプレゼントなんてできないけどな。
で、ネットで早速注文すると、クリスマスの前々日に届いた。当日じゃなかったが、羅美は、
「うわ~! 可愛い♡」
ぎゅーっと抱き締めて満面の笑顔になった。それがまた小さな子供の
『甘やかす』ってのは、利益供与を装ってその代わりに自分の思い通りになってくれることを望む行為だと、俺はこれまでの人生の中で実感したよ。子供の言いなりになってるように見えて、実は自分の都合に合わせてくれることを期待してるだけだってな。
<可愛い可愛い子供>
でいてくれることをな。
だから、要求がエスカレートしても、自分にとって都合のいい可愛い可愛い子供でいてもらおうという下心から、無制限に要求に応じてしまう。
まあこれは、子供相手ばかりとは限らないけどな。大人相手でも、それこそ国相手でもそうだろう。実は相手を認めてなんかないんだよ。実際には下に見て、『これで言うことを聞いてくれるだろ?』って、舐めてかかってんだ。
そう実感した。
だから俺は、
『プレゼントしてやるから俺の言うことを聞け』
とは思ってないよ。ただ羅美を喜ばせたかっただけだ。今の時点では十分に無理せず出せる金額だったしな。
すると羅美は、常にそのサメのぬいぐるみを抱いて過ごすようになった。それこそ小さな子供が<ままごと>でもしてるみたいにぬいぐるみを『抱っこ』して、頭を撫でて、
「よしよし……」
ってしてな。
そうだ。これが今の羅美の<素>なんだ。たぶん、本質の部分は、実の父親が亡くなった頃のままで止まってるんだろう。なのに体だけが大きくなって、そこに変な知恵もついて、
<体の大きな駄々っ子>
になっちまった。それが<大虎>なんだって分かったよ。
羅美には、体だけじゃなく心も成長してもらわなきゃダメなんだ。
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