子供のおつかい

 そんなわけで、話を盛り上げるために悲劇的な展開になることも回避できて、いよいよ願書提出の当日。怪我もまあ大丈夫そうだし有休も取ってたしで、予定してた通りに俺も一緒についていく。

 とはいえ、さすがに中までついて行くことはできず校門のところで見送って、俺は近くのホームセンターやら百均やら図書館で時間を潰すことにした。

 なんだかんだで二時間くらいかかるらしいしな。


 だが、俺がホームセンターでおむつとかベビー用品とかを見ていた時に電話がかかってきて、羅美が、

「やばい! なんか書類が届いてないって言われた!」

 と言うから、

「すぐ行く!」

 って応えて、学校に向かった。

 しかし、書類が届いてない? そんなはずはない。少なくとも受け取った願書とそれに関わる書類については何度も確認したはずだ。それで不備があったということか……?

 事故に続いて今度はこれか? まあ、こっちの見落としだとしたら今度のは俺の責任だろうが……クソッ!

 焦る気持ちを抑えつつ、俺は学校に向かう。

 ついつい信号を無視してしまいそうになる自分を諌める。

『こういう時こそ冷静にならなきゃダメだ……! 『泣きっ面に蜂』ってのは、トラブルがあった時にいらんことをして、普段は気を付けていることを無視したりして、結果、別のトラブルを招くってのが多いはずなんだ』

 実際、歩行者用の信号が点滅しているところに自動車が強引に横切っていった。俺がもし無理に横断歩道を渡ろうとしていたら、今度こそ額を三針縫う程度では済まなかった可能性がある。

 そうしてなんとか無事に学校にたどり着き、校門のところで守衛に事情を話すと、担当者が迎えに来て、応接室代わりになっている教室に通された。そこで聞かされたのが、

「実は、羅美さんの<転学照会書>と<成績・単位修得証明書>がまだ届いていないのです」

 ということだった。

「……は……?」

 って、意味が分からない。そっちの書類は、羅美が通ってた全日制の方の学校が用意するものだよな? 俺達の方でどうにかできる書類じゃねーじゃん!

 なんだよそれ。どういうことだよ!?


 で、種明かしをすると、羅美の<元>担任が、わざとなのかうっかりとなのかは分からないが、書類をきちんと出していなくて、それで通信制の方に届いていなかったという話だった。

 実はこの担任、前の学校でも、提出しなきゃならない書類を出してなくって、それで問題になったらしい。前の学校で起こした不祥事というのは、それのことだったようだ。

 幸い、その担任には連絡が取れて、その日の内に届けさせたことで事なきを得たものの、

『子供のおつかいか!?』

 って話だよな。


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