そういうクルマ

 牧島まきしまのように普通に有能な奴もいれば、俺みたいに最低限のことをこなしておけばいいだろ?的な奴もいる。それが人間ってもんだろ? 牧島と同じことができる奴ばっかだったら別に優秀でもなんでもなくなるじゃねえか。

 だから俺は別にそこで張り合うつもりはねえよ。ましてや他の奴らの足を引っ張ってまで会社に尽くしたいとも思わねえ。

「言いたいことは分かるけど、それ、あんまり口に出さない方がいいよ。リストラの対象になるだろうし」

「そうだな。気を付けるわ」

「まあ、私も他の人を蹴落としてまでとは思わないけどね。コグマみたいのがリストラされて人手が減って負担が増えるのも困るしさ」

 そうだ。牧島は合理主義者でもある。自分の能力を活かして仕事もこなすが、だからといって、

『他の奴がいなくなれば自分が独り占めできる!』

 てな考え方もしないんだ。それって要するに自分の負担が増えるだけだからな。しかも会社は、二人分働いたからって二人分の給料をくれるわけじゃない。少なくともうちの会社はそうだろう。そもそも基本給が倍になるわけじゃない時点でお察しだ。

 ほら、商品を買う時だってあるだろう? まとめ買いすればその分だけ割り引いてもらえるみたいなの。あれ、給料を払う側だってその理屈を適用してくんだぜ。

 働けば働くほど損するようにできてんだ。今の社会は。だからモチベーションも上がらなくて業績も上がらない。衰退してるってんならそれが原因だと思うね。俺は。

 もっとも、俺は別に専門家ってわけじゃねえからその理屈をドヤ顔で披露するつもりもねえけどよ。


 なんてことも考えつつ仕事を終えて、家に帰る。そんな俺を大虎が迎えてくれる。

 この生活が始まってもう一ヶ月。普通に馴染んでしまってる俺がいる。

 で、大虎が作ってくれた夕食を食べながら、

「……今度の連休、どっか遊びにでも行くか? と言っても、今のご時世、あんまり混んでるところにゃ行きたくはねえが」

 俺がそう言うと、

「え!? じゃあ、ドライブがいい!! オッサン、クルマ持ってんだろ!? 屋根付きガレージに大事に置いてるヤツ!」

「って、なんで知ってんだよ?」

「なんでもなにも、そこに写真貼ってあんじゃん」

 言われてハッとなった。そういやそうだったわ。電子レンジの横にマグネットで留めてある写真。そこにはガレージに止めてある俺の愛車が写ってた。今でも唯一残してある愛車だ。

 でも、それを見て普通『ドライブに行きたい』とか言うか? てか、ぱっと見、動くかどうかまず疑問に思うようなヤツだぞ?

 俺の<愛車>は、そういうクルマだった。


 <TN360型バモスホンダ(バモス4)>


 それが俺の愛車だ。


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