TN360型バモスホンダ(バモス4)

 <TN360型バモスホンダ(バモス4)>

 は、いわゆる<オープンカー>型のピックアップトラックだ。要するに<軽トラ>だな。一九七〇年から一九七三年までのたった三年間しか作られなかった、当時としても、

 <奇天烈なクルマ>

 <冗談みたいなクルマ>

 として見られて、メーカーの狙い通りには売れず、わずか三年で生産が打ち切られた。総生産台数自体が二五〇〇台程度だそうで、五十年が経過した今ではそれこそ希少車だった。

 しかも、実際に売られていた当時は人気もなかったにも拘らず、生産が終了してから一部のマニアには受けてプレミアがついている。新車価格は三十万円台だったものが、程度のいいものなら百万円台で売られていたりもするし、俺が買ったのもフルレストア済み百二十万円だったな。これでもバブルの頃よりは相当安くなったらしい。まああの頃はそれこそいろいろトチ狂ってたらしいから参考にはならないだろうが。

 で、連休に入って、

「わはは♡ なにこれ~!」

 <屋根付きガレージ>と言っても実は俺が結婚前に住んでたアパートの家主が倉庫として使っていたものの一部を間借りしているだけのそこに止めている俺の愛車を一目見るなり、大虎が爆笑する。

「え? マジモン? これ、走るの? 走っていいの? 遊園地とかに置いてるヤツじゃないの!?」

 とか言いつつも、

「でも、大事にしてんだね……」

 急に真顔になってそう呟いた。自分の実の父親が、<ディーノ246GTティーポM>を大事に乗ってたのを思い出したのかもしれない。しかも、

「ごめん、オッサンにとっては愛車なんだよね。笑っちゃダメだよね」

 と、頭を掻きながら謝ってくれた。けど、

「別にいいさ。笑われんのは慣れてる。てか、そうやって能天気になれんのがこいつの良さだ。屋根もねえ、ドアもねえ、安全性なんてどこ吹く風、バカにならなきゃ乗ってられないってのがこいつだからな」

 バッテリーを繋ぎ直しながら俺は言った。普段はほとんど乗れないから繋いだままだとすぐに上がっちまってエンジンが掛からなくなるし。週一くらいでエンジンは掛けに来るんだが、さすがに乗るのは一ヶ月に一度もない。加えて大虎のこともあって二ヶ月ぶりだ。

 が、エンジンだけは掛けるようにしてたから、一発で始動する。元々、普通に使われてる軽トラのエンジンをそのまま載せたヤツだからな。その辺はちゃんと掛かってくれないと商品にならなかっただろうし、いくら古くたってメンテさえ怠らなきゃこんなもんだ。


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