こいつの父親、中卒なんだな……

 そうだ。自分自身を省みて、

『なんでこうなった?』

 ってのを客観的に検証してきたから今の俺がある。じゃなきゃ、自分に対して反抗的な目を向ける長女の頭をぶん殴ってるような親になってたかもな。反抗される原因を作ってるのは自分なのによ。

 ああそうだな。

『殴られるような原因を作った方が悪い!』

 とかホザく奴は揃って『自分に原因がある』とは考えないんだよ。だから、

『他者には厳しく自分には激烈に甘い』

 ってんだ。自分を客観的に見ようと努力する気がないんだよ。そんな奴が<努力>を語るんだから、茶番以外の何ものでもないだろ。

 人間だから間違いも犯す。失敗もする。馬鹿な真似もやらかす。何一つやらかしてない人間なんてどこにいるんだよ? 自分でそんな風に思ってる奴は、自覚してないだけだろうが。イジメ加害者が、自分のやったことを忘れてるみたいにな。

 とにかく俺は、昔の自分のバカさ加減を考えるからこそ羅美を責められないんだよ。それにまあ、俺が人生を軌道修正できたのも、高校ん時の教師のおかげだし。自分だけで気付けたわけじゃないことも自覚してる。

 が、まさかここにきて俺の黒歴史をガッツリ知ってる奴に出くわすとか、何の冗談だ?

「へ~? ふ~ん? オッサンって、そうだったんだあ~?」

 羅美が勝ち誇ったような表情かおで言ってくる。

「<若気の至り>ってヤツだ。羅美も二十年もしたら今の俺と同じ気分を味わえるぞ」

 とは言い返すものの、マジでいたたまれない……

 で、気を逸らそうと小声で、俺達のすぐ後ろの席に移ってきた工藤に話し掛ける。

「にしてもお前、どうしてここに?」

 すると工藤は、照れくさそうに頭を掻きながら、

「いや~、恥ずかしながら俺、先輩が卒業してからすぐ、ガッコ辞めたんすよ。だから中卒なんす。けど、息子が生まれて、顔見てたら、『こいつの父親、中卒なんだな……』って思ったらなんか情けなくなって。で、通信制なら授業料も安いってんで、ちゃんと高卒くらいにはなっとこうかなって思って」

 なんだ……こいつも<父親>してんだな。

 と言うか、長女にとっての俺よりよっぽどまともな父親じゃねえか……

 そう思うとついつい、

「イラついて子供叩いたりしてないだろうな?」

 って問い掛けちまって。すると工藤は、

「いやいや! そんなことしてないっすよ!」

 応えた上で、

「それに、『自分より弱い相手に手を上げる奴なんかクソだ!』って言ってたのは先輩じゃないっすか。だから俺、女房に手を上げたこともないっすよ」

 だと。

「そうか……」

 俺はホッとするのを感じてたのだった。


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