なんかこのクルマだったらアリかもな
「ヘルメットまで要る?」
大虎はそう訊いてくるが、俺は、
「まあ、着けといた方が無難だな。何しろこんなクルマだ。万が一は十分有り得るし、フード被ってるよりゃしっかりと風を防いでくれるだろ」
と、正直、適当なことを言ってやった。実際に言ったとおりの効果が望めるかは知らん。ただ、『顔を隠す』っていう意味でも着けといた方がいいかもな。こんな目立つクルマ、一部にゃ<有名人>な大虎が乗ってたら気付く奴もいるかもしれねえし。
「まあでも、なんかこのクルマだったらアリかもな」
大虎は言いながらゴーグルを着けてキャップヘルを被った。さらにマフラーで顔も覆って、
「じゃあ、行こうか」
「おう!」
掛け声と共に、俺はゆっくりと軽くアクセルを踏み込んだ。すると、強引に前に割り込んできたワンボックスワゴンがいた。
「あぶねっ!」
大虎は声を上げるが、俺はそいつが強引に出てきそうな気がしたから、慌てない。こっちは重量僅か五百キロのちっぽけなゴーカートみたいな古い軽自動車だ。重量約二トンのご立派な高級ワゴン様相手じゃ
『勝てない相手とはケンカしない』
それが俺の信条でもある。てか、もう四十のオッサンにはそういうのは荷が重い。そもそも頭に血を昇らせるのもしんどいんだよ。この歳になったらな。
「なんだよ、ムカつくな!」
若い大虎はそう言うが、ケンカで勝って得られるものなんざただの自己満足だ。大人がこんなところでケンカすればそれこそ警察がすっ飛んできて、やれ事情聴取だなんだと時間を食われるし、ましてや逮捕でもされりゃ、まっとうな会社員には失うものしかない。自己満足だけで生きてる奴にゃそれでもかまわねえのかもしれないが、俺はごめんだね。
ましてや未成年の女の子を巻き込むつもりもねえ。
「そうだな。ムカつくぜ。けど、せっかくのお前とのドライブを台無しにしたくはないな。俺としちゃ。お前の実の父親も、お前をドライブに連れてってくれた時にケンカなんかしてたか?」
俺の言葉に、
「あ……」
と毒気を抜かれた
「大虎……俺はお前の本当の父親はきっとカッコイイ男だったんだと思う。だったらよ、今の父親がどうか知らねえが、本当の父親に恥ずかしくねえ生き方をしようや。俺も応援するからよ」
「……」
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