腹ん中じゃ舌を出しながら

 で、取り敢えず今から着る分だけを渡して、俺は先にクルマに戻る。すると子供が集まっててゲラゲラ笑ってた。

「なんだこれーっ!」

「バカみてー!」

「ビンボーのクルマだ!」

「変なのー!」

 とまあ、いつもの定番だ。だから別に気にしない。そうやって他所様の持ち物をバカにすることで憂さ晴らしをしなきゃならないような子供ってこたあ、親がそういう人間だって証拠だ。実際、俺のクルマを子供がバカにしてても、親は、

「早くおいで!」

 とか苛立った様子で声を掛けるだけだ。謝らせるでも、叱るでもない。たまに、

『そんなこと言っちゃダメでしょ!』

 的なことを言って俺に頭を下げる親もいたりはするが、そういう奴も、内心じゃあ、

『そんなクルマに乗ってるのが悪い』

 って考えてるのが見え見えだからな。そう、

『相手が悪い』

 と考えてんだよ。<他人の所為>にしてんだ。自分や自分の子供の無礼な振る舞いをな。そういう性根だから、反省なんかしねえ。しかも子供も、人前で口先じゃ謝ってる風の態度を取りながら裏じゃ舌を出してる親の姿を見て育つから、親に説教されたところで、精々、

『腹ん中じゃ舌を出しながら口先だけ謝ってる風な態度を取れるようになる』

 だけだろ。そういうのは透けて見えんだよ。

 でもまあ、『変なの』くらいは嘲笑じゃねえとしても、他人を嘲笑う親の子供がやっぱり他人を嘲笑う大人に育って、類が友を呼んでそいつの周りにゃ『口先だけは綺麗事を吐きつつ内心じゃ』みてえな人間ばっかり集まってそれで、

『こんな世界はクソだ!』

 とか、自分が上手くいかねえのを他人や社会の所為にして愚痴ばっか垂れ流してるような人生送ったって、そりゃ親と子供当人の所為だろ。俺の知ったことじゃねえ。

 ただ、

「カッコイイ……!」

 って声が聞こえてきて振り返ると、そこには五歳くらいの男の子の姿。その手を引いてる父親らしい男性は俺に会釈しながら、

「パパ、カッコいいクルマ!」

 と声を上げる我が子に、

「そうだね。カッコいいね」

 穏やかな笑顔を向けていた。まあ本心から『カッコいい』と思ってるかどうかは定かじゃないが、少なくともバカにはしてないのが伝わってくる。

 ああそうだ。結局こういうことなんだよな。親の本性は子供にうつる。親を見て子供は育つ。大虎が、自分が<敵>と見做した相手には無茶苦茶してるのは、たぶん、今の親の影響なんだろう。でも、あいつの根っこの部分を作ったのは、<実の父親>なんじゃねえかな。そんな印象がある。

 その推測が正しいかどうかは分からねえ。けど、そう考えると腑に落ちるんだ。


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