親にとって完璧に都合のいい子供

 俺自身を立派でもない完璧でもないと思うからこそ、俺は羅美に対して過剰な期待はしない。羅美だけじゃなく他の人間に対してもだ。俺の思い通りになってくれることを期待しないようにしてるんだよ。

 当たり前だろ? 自分が他の奴の都合に完璧に合わせることができないんだから。

 だとすれば、他の奴が自分の都合に完璧に合わせてくれることを期待するのは筋違いってもんだとは思わないか? お前の親はそれを教えてくれたか? 教えてくれてないならそれは親の怠慢だな。

 てか、親ってなあ、自分の子供に対して『いいなり』になることを望むのが多いよな。なんでだ? 他の奴は自分の思い通りになってくれないから、せめて自分の子供には自分の言いなりになってほしい奴隷になってほしいロボットになってほしいってか?

 それはまた随分と幼稚な考えだな。いい歳をしてまだそんな妄想を夢見てるのか?

 自分は自分の親にとって完璧に都合のいい子供でいられてるってのかよ? 歳取った親の介護を他人任せにせずに自分が完璧にこなせるってか?

 違うよな? そんなことないよな? だったら自分の子供にもそんなこと期待するんじゃねえよ。

 自分が<親にとって完璧に都合のいい子供>をやれてないんだからよ。

 結局、そういうことなんだよ。自分は他の人間の都合に完璧に合わせることはできないんだから、自分以外の人間に対してそれを期待するのはおかしいってだけの話なんだ。

 これも、親から教わってるか?

 まあ、教わってねえよな。老後に子供の世話になろうと考えてるような親なら特にそんなことを教えないだろうし、そもそもそんな発想さえないんじゃないか?

『自分の都合に合わせてくれて当然』

 とか思ってるんじゃないか?

『育ててやったんだからその恩を返して当然』

 とか思ってるんじゃないか?

 いやいや、待て待て。そもそも子供の方は『生んでくれ』なんて頼んでないぞ? てか、俺だったらそんなこと考えてるような親のところには生まれたくなんかねえな。今の自分の両親の下にすら来てねえし、なんならそもそも生まれてなんてきたくなかったんだよなあ。

 なんで好き好んでこんなクッソメンドクサイ世の中になんか生まれてきたいと思うよ?

 生まれてきちまった以上はまあそれなりに楽しまなきゃ損だと思ってるだけだ。

 クルマ趣味もその一つだな。


 クリスマス当日から冬休みに入った羅美は、どこに出掛けるでもなくずっと部屋にいた。掃除とか洗濯とかした後は、俺がプレゼントしたサメのぬいぐるみをずっと抱いたまま、スマホでゲームをやったり動画を見たりしてるだけだ。

 羅美にとってはそれが寛げる時間だってことなんだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る